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復讐という名の物語  作者: 笑わない猫
覚醒集団 大都市襲撃
15/24

第三章 ―1 吸血姫






 時が止まっているのか。

 天井から滴る水滴は空中で動きを止め、また、落ちた水滴によって波紋を作る水溜りも停止している。

 だが、キリア達はそんな事に気は向けず、否、向けれず一人の女性を見ていた。

 発せられる金切り音と声。そして‘吸血姫’と名乗った女性の正体に動きを止めてしまっていた。

 

 吸血姫。

 太古の昔、世界を創造した想像神がいた。それが‘堕天使’と‘吸血姫’。‘堕天使’は生命を、‘吸血姫’は絶命を象徴とし世界のバランスを保ってきた。

 数千年…いや、数億年の年月を二つの神が保ってきたのだ。

 その時、ひとつの例外が起きた。

 ‘堕天使’の消滅。

 原因不明の消滅事件により、世界に生命の象徴は無くなり、ひたすら絶命へと歩いていくことになってしまった。

 その時に起こった世界の異変……それが‘吸血鬼病ルジュ’。

 世界に感知できない病原菌が舞い散り、世界を覆いつくし、世界を絶命に追いやった。

 その時に動いた組織。それが今や覚醒集団アブノーマルと呼ばれている覚醒組織集団。‘超能力研究科’である。

 その頃、‘超能力研究科’は警備兵ディリングの機関のひとつであった。

 唯一、‘吸血鬼病ルジュ’対抗の試薬を開発。成功させワクチンを作り上げた。

 それにより救われた人間は数え切れないほど。世界は絶命を食い止めることができた。

 だが、所詮は食い止めた程度である。‘吸血姫’の異常行動をなんとかしなくてはまた同じことの繰り返しとなる。

 そして、‘超能力研究科’は動き出したのだ。

 覚醒能力をさらに解放できる薬品‘PLS’を。

 それを持ちいり、‘吸血鬼’消滅に乗り出した。

 姿を現した‘吸血姫’を相手にそれなりに健闘はした。

 が、神に人間が勝てるはずが無かった。

 幾人もの味方が倒れ、魔力も残っているはずなく……。やはり、神に抗うのは間違っている事なのか、戦った者たちは落胆した。

 だが諦めず戦う意思を示した男がいた。‘超能力研究科’の長だった。

 その男が取った最後の方法。それが……。


 ‘吸血姫’の封印。

 消滅までとはいかないが力を封じ、世界に干渉させないようにする。それにより絶命の象徴をなくさせ世界を安定させる。

 最後の手段だった。

 その封印魔法は禁詩と呼ばれる禁じられた魔法。数人の命と引き換えに目標を世界から孤立させ封印する。

 その手段を取ったのだ。

 よって世界は救われ、安定がもたらされたのだ。


 しかし、‘超能力研究科’の行った方法は禁じられた物。

 いかに世界を救った機関でもそれが見逃されることはなかった。

 刑の執行。なんて理不尽なのだと嘆いた者の言葉も聞き入れず、‘超能力研究科’は廃棄。

 研究員の警備兵ディリング身分証明書剥奪。

 ‘超能力研究科’という機関は警備兵ディリング機関から無くなった。

 

 


 そんな過去がある‘吸血姫’

 それを前に平然としていられるわけが無かった。



 ――もしや……お主らが奴の言っていた生贄か? しかし奴は二人と言っていたんだが……はて……聞き違いだろうか……。


「生贄……?」

 キリアは疑問を言葉に吐く。

 ‘吸血姫’は手を顎にやり、頭を傾けている。

 そんな仕草さえも、キリア達を刺激する。それほど、恐ろしい生き物なのだ。


 ――その様子だと違うのであろうな……では、立ち去れ……。我の場で暴れようとは許さん。先ほどまで我慢していたが、もう限界じゃ。今すぐ立ち去れ。


 強烈な睨みを効かせる。

 その圧力にキリア達は数歩後ずさる。キリアの頬に汗が一線流れた。

 震える手が止まらない。

 本能的に警告。

 キリアは目を見開き、刀を地面に刺すことで体勢を保つ。


 ――なんだ? 立ち去らぬのか? ならば……我が手にかけるしかないか。


 瞬間、迸る殺気。

 キリアは刀から手を離してしまい、後ろに尻もちをつく様子で倒れる。

 クレアは、その場に崩れ落ち、声を出すことなく涙を流す。

 リーフは息を荒くあげ、片ひざつく。

 ‘吸血姫’が場を支配していた。


 ‘吸血鬼’は深くため息をついた。


 ――情けないの……腰すらも抜かしてしもうたか……良い。 特別に我がお主らをこの場から消してくれようぞ。


 ‘吸血鬼’の放った言葉の意味を間違った形で解釈したキリア達はよろめきながら立ち上がり、‘吸血鬼’には背を向けず、歩いていく。


 走ることなんて出来なかった。

 体が……震えていた。


 ――なんだ……自分で歩けるのか……そう気にするな。 我は背後から不意打ちなどという下種な真似はせん。 前を向き、歩いていけ。


 その言葉に歯向かい、根気強く目を離さずに歩くべきなのかもしれないが、キリア達は言われるがまま背を向け、歩きトラップに引っかからないように大広間を出た。


 ‘吸血鬼’は懐から扇子をひとつ取り出し、大きく広げ自分を仰ぐ。


 その優雅な微笑みは、女王のように輝かしいものだった。






 少女は走っていた。

 大海原の見える路上を。

 身にまとった服をたなびかせ、警備兵ディリングの証である紋章を煌かせ、走っていた。


 すぐ傍に捜し求めていた奴がいる。

 そいつが、今、自分達の町に何かをしようとしている。

 それだけが心に渦巻いていた。

(孤立魔法にやられるなんて……迂闊だった。……今なら……まだ間に合う)

 心中で自分を励まし、それでも自分に鞭を打ち、走った。


 大都市ベルフェリングで大きな魔法の発動の予感が、少女の頭を巡っていた。




 


 三人は復讐の物語を創造していく。

 生きる意味と存在の答えを求めながら、

 繋げられた因果を伝い、どこまでも続く闇に向かい……。

 

 復讐という名の物語を創っていく。



                       To Be Continued




 

 

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