プロローグ&第三章
更新遅れて申し訳ありませんでした。
楽しみに待っていた人。
すいません。
「魔力の流れが……乱れている」
「確かにな……なんの魔法だ?」
「読めない……禁詩の可能性が高い」
「ということは……覚醒集団か……」
「次は何をたくらんでいる?」
男たちはベルフェリングを見下ろせる高台の上で話していた。
一人は旅人装束に白の布をマフラーみたいに首に巻いている。
もうひとりは茶色のフードをかぶり、下は黒の革ズボンという貧相な服装をしていた。
この二人は魔力の流れ、つまり大気を観測する警備兵情報隊の隊員である。
警備兵捜査隊と同じ立場にあり、同じ機関に所属する警備兵随一の能力者が揃う場所。
そのうちの二人が彼らである。
白い布の男は腰に付けてある警備兵常備の剣を地面に突き刺し、その場に魔法陣を展開させる。
その魔法陣の中にもう一人のフードを被った男が入り、重なるように魔法陣を展開させる。
違う色、違う波紋の魔法陣が急速に回り始め、中にいるフードを被った男に取り巻くようになぞの文字列が浮かび上がる。
弔詞魔法。
浮かんだ文字列を暗唱することにより、通常よりも強力な魔法、もしくは魔法陣が展開できる。
フードを被った男は浮かんだ文字列を読み進める。
白い布を巻いた男は魔法陣の展開に集中している。
背後から忍び寄る影に気づいていない。
高台から見えるベルフェリングは全体図をきれいに見せてくれる。
そして、魔力の乱れがどこから発生させられているのかは一目瞭然だった。
そう――。
ベルフェリングの各部分でそれは引き起こされていた。
その問題を解決するためにも、状態、魔法か否か、構造。
全てを把握し、確かな判断を下さなければならない。
その為の魔法陣展開、そして弔詞魔法の使用理由だった。
「!!?」
フードの男がピクリと反応する。
「どうした??」
白い布を巻いた男が問いかける。
フードを被った男は眉をしかめ、弔詞を読む。
が、途中でやめ、白い布の男に振り向く。
「だめだ……。察知できない。多分、因果孤立だ! 厄介な……もっと近づかなければ分からない」
「そうか」
魔法陣を収縮させ、かき消す。
白い布の男が剣を手に取り、鞘に戻し、振り向いた瞬間。
目の前に一匹の黒い蝶が舞った。
つい、その黒い蝶に二人は見とれてしまう。
そして……。
「さようなら……。あなたは私の手の中よ」
女の声が響き、地面に黒色で構成された魔法の蜘蛛の巣が広がる。
それは男達の足に絡みつき、動きを制限。そして……。
「儚く消えるのよ……私に食べられて」
女の声と共に二人の男は叫び声を上げる。
数秒もせぬまま、二人はいなくなり、ただ着てきた服のみが残った。
「……まずまずね。1つ星ってとこ」
黒い羽が舞い散り、その場に黒い着物を着た女性が現れる。
黒い着物には赤色で蝶が描かれてあり、顔は化粧で作っている。
大人の上品さをかもし出していた。
空を舞った蝶は女性の下に降り立ち、フッと音無く消えた。
女性は手に持っている一枚の透明な破片を投げ捨てた。
それはもう誰も着ていない服の上に落ちる。
「……返しといてあげる……供養ぐらいはされたいでしょ?」
投げ捨てた薄い一枚の破片は、紛れも無く、白い布を巻いた男の爪だった。
俺は負けたのか……。
あいつを殺せなかったのか……。
失敗したのか……。
俺は……弱い……。
「キリアお兄ちゃん!」
「……! クレア……?」
気を失っていたキリアは身を起こす。
横腹に激痛がはしるが、耐え抜き立ち上がる。
クレアは心配そうにキリアの姿をまじまじ見つめた。
見ため的には外傷は見れない。
だが、キリアの耐える顔がクレアは心配でたまらなかった。
いつも無表情。無愛想。
そのキリアの表情が変わっている。
それだけで、クレアは怖かったのだ。
「……クレイモアは……」
「帰って行ったよ」
「……そうか……」
キリアは嘆息し、周りを見渡す。
ずり向けてへっこんでいる岩の壁。
地面に残る戦闘の後。
そして、遠くで顎に手を添えて悩んでいるリーフ。
「あいつは何してるんだ?」
「わからない……なにか考えてるみたいだけど……教えてくれなくて」
涙目でクレアは告げた。
なぜ涙目? とキリアは首をかしげたが、すぐに元に戻しその場で立ち上がった。
こうしてはいられない。
まだクレイモアはそばにいる。
そういう気持ちはキリアを焦らすばかり。
だが、そのキリアの足をクレアはつかんだ。
「なんだ?」
「行く気……なんでしょ?」
キリアは押し黙り、掴まれてない足を前に踏み出す。
「ダメ!!!」
「……」
黙ったままつかまれた手を強引に解く。
クレアは再度つかもうと試みるが、キリアの背中から発せられる無言の圧力に手を引く。
キリアは足を止めることなく、床に刺さった刀を引き抜き、出口に向かう。
が、その行き先をリーフは遮った。
「……なんのつもりだ?」
「行かせねぇって言ってんだ」
「邪魔をするのか?」
キリアが抜き身の刀の頭を上げ始める。
リーフはそれを見て、すかさずナイフを構える。
「俺を……殺る気かよ? キリア」
「邪魔をするなら、切らしてもらう」
刀の切っ先がリーフに向けられる。
硬直する空気。
風が吹いたわけではない。
が、風が通り過ぎたと圧覚するほど、微動だにしない二人。
瞬間。
大きな金切り音が空気を揺るがした。
キーンと鼓膜を直線で刺激する。
洞窟内にいる三人は耳に響く金切り音に顔を歪める。
――解せぬ……。
金切り音にまぎれて声が響く。
――仲間割れか……。我の神聖な場所で騒ぎよって……
声と金切り音が絶え間なく響き、その中、結晶石の前に一人の女性が現れる。
その姿は平安時代に出てくるような十二単を身にまとい、上品な貴族としか言いようのないオーラを放っている。
「誰……だ??」
金切り音に絶えながら、ぎりぎり出したキリアの問いに女性は言葉ではなく、念力のような言葉を送る。
――我は世界を造り、人間を想像した創造神の片割れ……‘吸血姫’
吸血姫と名乗る女性の声に耳を貸す三人。
それが、新たな物語を書き記すための一ページ目だとは、知る由も無く……。
三人は復讐の物語を創造していく。
生きる意味と存在の答えを求めながら、
繋げられた因果を伝い、どこまでも続く闇に向かい……。
復讐という名の物語を創っていく。
To Be Continued