第二章 ―3 不可解な点
いつも目に入ってきた大海原も今は、林の木々に遮られ見えない。
大都市から離れ、人工的なものが無くなってくるこの地域。
それを、ウラウという。
キリアたちはそのウラウの中を歩いている。
先ほどまでの喧騒はない。
今は、ただ静かに足音、木々の揺れる音、動物の鳴き声だけが響いている。
「……怖い……」
クレアはリーフの服の裾を掴む。
その態度にリーフはクレアの頭を撫でる。
そして、自分も恐怖を紛らわす。
やはりまだ子供。こういう薄暗い場所は苦手なようだった。
「もう少しだな……」
この環境に動じないキリアはディナードから貰った地図を頼りに言葉を発する。
「もう少しって後、どれくらいだ??」
リーフの問いかけに。
「この林を抜けたらすぐだ」
キリアは曖昧な返事を返す。
「だから、どれくらい!?」
「……数時間だ」
機嫌悪そうに返事をする。
リーフも同じく機嫌を損ねる。
「……。仲良くしようよぉ」
険悪な雰囲気になった仲間たちにクレアは弱弱しく言った。
薄暗い部屋。
その中には、幾つ物書類に埋もれ、足場がほとんどない床。
唯一の家具。机と本棚にも同じく書類が溢れている。
その書類に埋もれた机を挟み、ディナードと男は話していた。
「話はつきました。きっと成功して帰ってきてくれますよ」
「そっか……。そりゃあありがたいね」
「しかし、なぜ結晶石を??」
「いやーな。俺はただの趣味……みたいな」
男は笑いながら言った。
「趣味にしては危険ですね」
「男のロマンなのよ!」
「そうですか」
今一、男の話についていけないディナードは、ただ相槌を打つ。
「気になることがあるんだがな」
「なんです?」
男が疑問を口にする。
「以前、月が明るかったことがあったんだ。いつも以上に……。あれはもしかして……『吸血姫』じゃ」
「そんなことはないでしょう。昔に封印された『吸血姫』が復活するとは考えにくいですし」
ディナードは本棚からひとつのファイルを取り出し、パラパラとページを捲る。
そして、とまったページには『吸血姫』の事が記されている。
そこに見つけた不可解な点と共に。
「そういえば『吸血姫』の血液を用いた実験が警備兵の研究隊内で行われたみたいですね」
「警備兵が? これまたなんで?」
「分かりません。そこまでの詳細は不明です。とても嫌な予感がしますが」
「だな……」
沈黙が漂う。
あーだこーだ言っても『吸血姫』の事が気になる。
20年前に起こった吸血鬼病。
あれが頭から消えてるわけもなく。
『吸血姫』という名前がどうしても頭から離れなかった。
『吸血姫』の血液実験を行っているのが、警備兵だけとディナードは思っていた。
『吸血姫』復活実験が行われているとは、知る由もなく。
だれも、その情報を会得してはいない。
足を止めたキリアたちは、ひとつの洞窟の入り口と睨めっこしていた。
ウラウ鍾乳洞の入り口である。
思いっきり結界トラップが組まれているのが目に見え、どうしたものかとキリアは息をついた。
クレアは必死にどういった魔法トラップか調べているが、元々魔法の学力は少ない。
どんな効果を持つかもあやふやで、さらに魔法名称も分からない。
悩むクレアの顔は鬼の形相に近かった。
その顔を見たリーフは必死に笑いを堪え、結界トラップを見つめる。
息が微妙に違う仲間たちである。
「えっと、この魔法はぁぁ……。 入ったら、ぴゅっとなってビューて飛ばされちゃう感じ?」
「どんな感じかと俺に聞き返されても困るんだが?」
「ご、ごめんなさい」
「その表現からだと空間転移魔法が一番近いんじゃない?」
リーフの言葉にキリアは頷く。
リーフは大抵の初級魔法は会得しているので、空間転移魔法という魔法名称も魔法効果も知っている。
天才と言える能力を持った少年。
もっと違った生き方ができていたらと、キリアは思う。
「外傷的なダメージはなさそうだな」
「きっと、トラップにかかると入り口まで飛ばされる仕組なんだろう」
「なるほど……」
勝手に話を進めていくキリアとリーフ。
クレアは意味が分からずとも、分かったフリをして頷いている。
「じゃあ、行くとするか」
「なぜ、お前がリーダー的立ち位置についているか俺には理解できないんだが」
「は? なんだって?」
「やめようよ! 二人とも……!!」
泣きそうなクレアの叫びに、リーフとキリアは喧嘩を止め、無言で結界トラップが発動しないところを歩く。
その先で出会う。
大きな力を持ち、絶対的な力量差をキリアたちに見せ付ける……
一人の男に……。
三人は復讐の物語を創造していく。
生きる意味と存在の答えを求めながら、
繋げられた因果を伝い、どこまでも続く闇に向かい……。
復讐という名の物語を創っていく。
To Be Continued