第二章 ―2 変わった景色、始まる鼓動
土の感触が懐かしい。
先ほどまで大都市のアスファルトの上を歩いていたので、とてもキリアは懐かしく感じたのだ。
今までは、土を踏みしめる音しか響かなかったこの道。
だが今は、明るい声が土の寂しい音を掻き消して騒ぎ立てていた。
「でね! その男の人が転んで!」
「あはははは。 バカじゃん」
無邪気な声が響いていた。
クレアは楽しそうにさっき見た男のずっこけシーンをリーフに伝えている。
リーフはそれを聞き、大笑い。
たいへんに盛り上がっている。
キリアはその話には加わらず、ただクレアたちの半歩前を進む。
向かうのはウラウ鍾乳洞。
貴重な結晶石の採掘場所として多重の結界魔法トラップが組まれ、立ち入り禁止とされている。
その結界トラップは、覚醒者には確認することができる。
解除。となるとそれ相応の能力と知識が必要となるが、それを避けて通るというのは容易い物。
だが、確認したところで、それがどんなトラップなのか。
それを認識するにはそれなりの能力が必要である。
が、うまいことにクレアはその能力を兼ね備えていると、ディナードが言っていた。
力の制御もままならないクレアにそんな能力があるとは疑い深いが、現状そんなことも言ってられない。
キリアはディナードの言葉を信じてみた。
「ホテルの店員がそこでその子にぶつかって」
「うんうん」
次はリーフの話に変わってる。
その話にクレアは食いつくように真剣に聞いている。
仲が良い。
キリアはその光景を目の片隅に置き、なおもクレア達よりも半歩前を歩いた。
二人の旅人は歩を止めた。
後ろからつけてきている警備兵の存在に感づいたのだ。
その旅人の一人。
黒色の衣を羽織った少女が口を開いた。
「どうするの?? もう魔法陣の設置は終わったけど、あんなにしつこくつけられたら魔法の発動もできやしない」
その言葉にもう一人の同じく黒い衣を羽織った男が答える。
「レイの孤立魔法陣なら、つけてきている警備兵も気づいていないだろう」
「うん。多分ね。でも魔法陣じゃなくて魔法の発動には因果孤立は意味ない。完璧に感づかれちゃうよ」
旅人のフリをした覚醒集団の二人、スレイディッシュとレデントは溜め息をつく。
因果孤立。それは発動者以外の人間はその魔法、魔法陣の存在に気づけなくする能力のこと。
使う者のレベルにより、因果孤立をかけれる魔法は増えるが、そのレベルでは抑えきれない魔法。つまり、完璧にマスターしていない魔法になると因果孤立は全く意味を成さない。ただ単に魔法力を消費するだけ。
スレイディッシュは今から行う魔法が自分についていけていないと認識しているため、因果孤立を使わず、魔法を発動する環境を求めている。
その求める環境には、今つけてきている警備兵が邪魔だった。
「だから、大都市での魔華花弁発動を止めたんだ。ったく」
「うぬぬぬぅぅ~~」
スレイディッシュは顎に手を運び、頭を悩ませる。
レデントは後ろを振り向かずに、警備兵の気配を探る。
一点に灯る灯火。
警備兵の気配だった。
そこでレデントは気づいた。
旅人の服装を装った自分たちを怪しんで、孤立魔法陣を仕組んだ場所を探っていた。
探したら探したでどうして自分たちの後をついてこれるのか。
最初のほうは人で大通りは充満していた。
少しでも目を離せば、すぐに見失う。
だが、つけてきている警備兵は、立ち止まるものの確実に自分たちを追ってきている。
そして、この警備兵が捜索部隊だとしたら……。
(あいつも感知魔法を持っているということか……。となるとまくにはちと厳しいな)
そこでレデントが思いついたもの。
それは……。
「レイ。空間転移魔法を使おう。少しでもあの警備兵が離れれば事足りる」
「え? うん。そうだねそうしよう! じゃ、さっそく」
相手が指定空間内に入ったときに発動する空間転移魔法。それがニフレ。
空間内に入った相手を違う場所へと飛ばす魔法である。
その魔法詠唱をスレイディッシュは始める。
足元に赤色の魔法陣が浮かび、すぐに消え去る。
因果孤立を発動したためである。
その空間転移魔法の発動に二人の覚醒集団を追っていた幼い警備兵は気づいていない。
いつまでも続く大海原を見ながら半歩前に歩を進めるキリアにクレアは呼びかけた。
「キリアお兄ちゃん!」
「……何だ?」
「キリアお兄ちゃんって覚醒者??」
「!?」
「あぁ。俺も気になるかも」
簡単に聞いてくれるものだ、とキリアは嘆息しながら答える。
「あぁ……。一応な。あまりそういうことは聞くもんじゃない」
肯定と説教が混じった返答にクレアは頬を膨らませる。
リーフはキリアの顔を見上げ、何かを思い出すように遠い目をしていることからキリアが何を考えていたのかを察した。
(キリアにも、昔はあるもんな)
あえて、追求はせず、次の話題へと話を変えていく。
キリアもその話に加わって。
いつの間にか、三人は並んで歩いていた。
三人は復讐の物語を創造していく。
生きる意味と存在の答えを求めながら、
繋げられた因果を伝い、どこまでも続く闇に向かい……。
復讐という名の物語を創っていく。
To Be Continued