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25話

 リオはレーウ騎士団の情報部隊長であるエリーアスからの報告を団長であるロナウドと一緒に団長執務室で聞いていた。

 未だ事件について第一騎士団の捜査は難航していた。


「内部の犯行として切り替えて捜査、ね」


 第一騎士団はその方針へ重点を置いてきている。表立ってレーウ騎士団は動いていないが、このままだと正式に王から要請がきそうだ。第一騎士団としてはどうしても避けたい展開だろうが、長引けば長引くほど変なプライドに固執してはいられない。


「だがとっくに上層部は内部の犯行とみて動いているようだ」


 リオは第一騎士団の副団長であるアレッシオからそう聞いていた。第一騎士団とレーウ騎士団は大抵ソリが合わない者が多いが、彼とリオは親交がありお互いその実力を認めている仲だ。


「結局、問題はどっちかってことか」


 ロナウドが面倒臭そうに頬杖をついた。ロザエ王国かイーグ王国、狙いはどの国かということだ。


「どちらにしても可能〝あり〟だから厄介なんだよなぁ」


 ポリポリと頭を掻いて、冷え切ったコーヒーを一口飲んだ。ロザエは多くの部分で安定した国政がなされている。諸外国との関係も良好で大きな諍いなど現在進行形で危惧されているものはない。あえて言うなれば王太子の側室問題がちらほら貴族間で囁かれており、あわよくばと動き出している者がいるということだろう。


 反対にイーグ王国は五年前に大きな動きがあった、当時王太子であった現国王が実の父親である前王を討ったのだ。王族や貴族の多くは贅沢と享楽がために生きているかのごとく過ごし、民は貧しく虐げられていた。まるで心を病んでいるかのような悪政に反発する声もあったがそれを力でねじ伏せ多くの血が流れた。

 満を期してそれを倒し制したのが現国王であるリシウス王だった。そして二十五歳という若さで王位を引き継いだ。その時、リシウスと共に立ち上がったのが側室腹の異母弟であり、現在ロザエに外遊しているデトレフだ。五年を経て落ち着きを取り戻したのを機にこの外遊となったのだろう。そうはいっても小さい煙が燻っているのは否めない。今回の事件の可能性としてはまさに五分五分なのだ。


「頭いてぇなー、こりゃ」

「本当に痛いのはこちらに案件が回ってくることでしょう?」


 ソファに座ったリオが呆れた目でロナウドを見る。直接関わっていないため悠長に構えているがいつそれが正式にこちらに降り掛かってくるのか、それを一番心配している己の団長に大きなため息をついた。


「ま、今回の被害者は騎士数名と他一人だったのは幸いだったが、その一人が己の婚約者ともなればお前も複雑だろうな」

「何度も言いますが私情は持ち込みません」

「はいはい。立派だ、立派!」


 あの事件では逃げ惑う途中に怪我をした者は数人いるが、直接の怪我を負ったのは騎士以外ではエルネスタだけだった。それがリオの婚約者だと知った者からは心配されたが、彼は軽く受け流すだけでいつも通り職務をこなしていた。その姿が騎士の見本だと褒める声も多かったが、反対にもっと婚約者に寄り添ってやれと言う声もあった。ロナウドもその一人だ。


「しかし、怪我してもすぐに仕事復帰なんて上級侍女も大変なんだな」

「……まあ、本人からしても大した怪我ではないと言ってましたし。我々だって少しぐらいの怪我で休んだりはしないはずです」

「おいおい、俺たちと一緒にするんじゃねえよ。貴族のお嬢ちゃんってやつは刺繍針が刺さっても大騒ぎするもんだぞ」


 ロナウドは騎士爵という貴族の端くれだ。実家は伯爵家の分家となる領地もない男爵ではあるが長男が後を継ぎ次男のロナウドは騎士になり爵位なしとなった。ほぼ平民に近いところからここまでのし上がってきたのだ。その過程で騎士爵を賜ったが、それさえも本人にとっては余計な産物だったようだ。口調も誰に対しても平民のそれと似た使いのため多くの貴族たちからはいい顔をされていない。

 団長職は性に合わないと言い続けて断ってきたが最終手段とばかりに王自ら「王命」として任命したことにより団長となった経緯がある。渋々なったとはいえ的確な判断と指示は絶対的な信頼を騎士たちに与えているが、ただ口の悪さと面倒臭がりなところが部下泣かせではある。

 そんなロナウドにとって貴族令嬢の評価は低い。平民の逞しさを見習えといつも言っているほどだ。令嬢が聞けば耳を疑い怒り心頭だろう。


「彼女は貴族令嬢とはいっても王太子妃殿下の侍女です。真摯に仕事と向き合うのは我々と同じ。そこになんの違いがあるのかわかりませんね。それを口にしようものなら馬鹿にするなと怒られてしまいます」

「…なるほど。似たもの同士というわけか。陛下もなかなかいい縁組をしたもんだ。さすがだな」


 ニヤリと笑うロナウドの言葉をスルーしたリオは別の案件へ話題を振る。


「ところで、例の変死体の件は?」


 襲撃事件の報告をしていたエリーアスへ向けて再び問う。


「今のところは何も。死亡して数日経っているため確たるものは出てきてないようです。……ただ」

「なんだ?」

「死体の変色が共通するものがあると医師は言ってましたね」

「変色? 死斑ではないのか?」

「初めは死斑だと思ったようですが……。その点も含めて報告書を近々提出すると言ってました」


 ここ数ヶ月変死体が発見されレーウ騎士団の方に調査が回ってきていた。明らかな犯行だと判明した死体などは担当騎士団や警備団が動くが、不明な点が多いものはレーウ騎士団へと回ってくる。

 そんな中、現在進行中の捜査が変死体の案件だった。この半年で五件となっている。年齢も性別もバラバラではあったが死亡解剖してもその原因が突き止められないでいた。また発見された時にはすでに腐敗が進んでおり原因不明のまま処理された死体の中にもそれらが含まれている可能性もあり、実際の数はもう少し多いはずだ。

 また大きな外傷もなく疾患もない突然死だと思われる中にも謎が残るものが数件あり、関係性を捜査している。

 現在は変死体の発見と同時にレーウ騎士団へと報告が上がってくるようになっていた。


「そしてもう一つ」


 エリーアスが口を開いた。


「ブロクード伯爵周辺できな臭い動きが出てきました」


 ロナウドとリオの眉根が歪む。


「すでにうちの部でも把握してますが、情報は諜報機関とも共有しています」


 諜報機関とは国の情報局であり対外情報を主として動いている。


「こちらにまだその旨が回ってこないということは……、どっかの国が絡んでいる可能性があるってわけだな」

「はい。そのブロクード伯爵ですが、領地の町祭りに行商の一行を参加させているようですが、その中にリズボアード国の間者らしきものが紛れ込んでいるということです。単に間者の潜入なら単純なのですが、問題は伯爵自身がそれを分かった上で招いていることでしょう」

「つまりリズボアードと繋がってるということか?」

「おそらく。またはリズボアードを表向きにしたどこかの国ということも捨てきれません」

「あー、どっちを最優先にすっかなー、まったく」


 驚くよりも自身に降り掛かってくる案件のやりくりの方が頭に痛いらしいこの団長に二人の胡乱な眼差しが刺さる。


「どうする?」


 ロナウドがリオに振ると彼は迷わずこれからの指示を口にした。


「……俺は襲撃事件を。エリーアス隊長には変死体と伯爵の情報を引き続き。……団長はそれ以外を」

「……おい、それ以外がどれほど多いか知ってるか?」

「団長ですからね。働いてもらいます」

「襲撃事件はまだ正式に回ってきてないだろ。念のため俺の方が──」

「回ってきた時にすぐ動けるのは俺です」

「いや、でも」

「来たら来たでどうせ俺がするんですから俺です」

「……いや」

「俺です」

「………………」


 言い切るリオにロナウドは口を開けたまま押し黙る。


「そういうことですので、エリーアス隊長よろしくお願いします」

「了解しました」


 リオは立ち上がりスタスタと扉に向かいそのまま出ていった。


「……なんだよ、ありゃ結構怒ってるな。何が私情は持ち込まないだ」

「まあ、婚約者が傷つけられたんですから」

「日頃、飄々としてるくせに」


 残された二人は顔を合わせるがその表情は対照的だ。ロナウドは口を尖らせ、エリーアスはどこか微笑ましく見送っている。

 さて、とエリーアスは呟くとロナウドと正面に向き合った。


「ということで〝それ以外〟の報告を今からしてもよろしいでしょうか?」

「……まさかその手に持っているもの全部やれってことじゃねーよな?」

「団長ですからね。働いてもらいます」

「お前も言うかっ! クソッタレ!」


 〝それ以外〟が詰まった分厚い報告書を差し出されたロナウドは天を仰ぎ遠い目をしたのだった。





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