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プロローグ

ひとまず連載開始です(^^;;

よろしくお願いいたします。


「……はぁ」


 深夜、城下町を見下ろしながらエルネスタは暗い夜空を見上げてなんとも言えないため息を漏らした。

 幸い、ここにそれを咎めるものはいない。黒いフードを被り、夜に同化したかのような出立ちなのだから、この城壁に座っていようとも誰も気づくはずもないのだ。


 最近ずっと心に靄のかかったような毎日を過ごしている。その理由もわかっている。


 降って沸いたかのごとく舞い込んだ突然の婚約話のせいだ。

 貴族である以上、昔からある程度は覚悟もしていたし適齢期という年齢でもある。だが、意外といえば意外な気もする。しばらくは姉のシルビアのように侍女として生きていくことになるかと思っていた。

 姉は二十一歳で王妃付きの侍女をしている。適齢期ギリギリな微妙な年齢だが、当の本人はどこふく風だ。

 もともと見習い侍女として貴族の令嬢の多くは王宮に入るが、それが終わる頃には結婚となるのがほとんどだ。高位であればあるほど本職としてまっとうするために残る人間は多くはない。だが姉シルビアは侍女としてその道を選んだ。確かに優秀であり、またそれを生きがいのように感じているようにも思えた。それはそれで幸せなことなのだろう。そんな姉の後ろ姿を追いかけてきた身であるせいか、つい己の結婚に対する願望もそれほど強くはなかった。

 それがここにきていきなりの婚約話だ。それも姉を通り越してきたのだから当惑しないわけがない。


 そして何よりもその相手というのが国の精鋭部隊であるレーウ騎士団の副官で、世間に疎い自分でもその名を耳にしたことがある人物となれば、親の本気度も窺える。

 エルネスタも一年間の侍女見習いを終えて正式に王太子妃付きとして仕えだしたばかりでの出来事なのだ。

 その上、彼女の心がこの夜空と同じようにどんよりとしたものが漂っているもう一つの理由もはっきりしている。

 その婚約者と初の顔合わせをしてみれば、憮然として告げられた言葉は──。



「────申し訳ないが、私には想う人がいる」



 ……これは何の冗談であろうか。

 エルネスタは暫く固まっていたが、出た言葉は「はあ」という間抜けな一言のみ。

 結婚というものに絶大なる期待をしていたわけでもないのに、何かしらを抉られるような痛みを覚えた。そこで初めて、結婚というものに多少なりとも淡い夢を見ていた自分を知ったのだ。


「私も普通の女子だったのね……」


 呟いた言葉に多少の情けなさと哀れみとが混じる。注目度の高い華やかなる若き騎士のその妻──という優良物件を手に入れたとして余計な嫉妬や羨望を向けられる裏で、なんともそこにあるだけの物置のようなお飾り妻であろうか。

 ひとまず、婚姻するまでの婚約期間がどのくらいになるのかさえ具体的なものは決まっていないのが救いである。その間に穏便に婚約解消となる運びも出てくるかもしれない。

 どちらにせよこの「結婚」が期待できないものとして自分の心に整理をつける時間はありそうだ。


 黒い雲が溶けてわずかに星が顔をのぞかせてきた頃にはエルネスタの気持ちもいい意味で開き直っていた。

 どのみち、今は王太子妃の侍女としての仕事が最優先だ。侍女として立派になることのみに集中していけばいい。

 婚約やその相手のことなど豆粒くらいに丸めて心の隅っこにでも放置しておこう。多少の虚しさは消せはしないが、気持ちを切り替えてしまえばスッキリしてきた気もする。己の楽観的な性格が思わぬところで役に立った気がして、ここ最近のモヤモヤ感から抜け出せそうだ。

 そう思うと、見上げた星の輝きさえまた違って見えてくる。大きく深呼吸したエルネスタの顔から陰りは消えていた。





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