第9話 お祝いのお茶会 2
黒塗りの馬車が太陽の日差しに輝く。
オズワルドの馬車だ。
気付いたときには、ボクは馬車に向かって走り出していた。
お兄さまが勝手に動き出したボクに気付いて怒る。
「こらっ、アイリス!」
「ごめーん、お父さま。オズワルドが来ちゃったから!」
「アイリスッ! 待ちなさいっ!」
お父さまがボクを止める声がする。
でも無理。
ボクの最優先はオズワルドだ。
オズワルドが使っているのは王家所有の馬車だからすぐに分かる。
王太子殿下のお気に入りだから、特別に貸してもらっているらしい。
オズワルドは『仕事用に借りている馬車だよ』なんて笑って言ってるけど、ボクは違うと思う。
王太子にとってもオズワルドは特別な存在なんだ。
彼の家は伯爵家なうえに特に家業などもしていないけど、頭脳派の家系で宰相を多く輩出している。
そんな家に生まれたオズワルドも能力が高い。
劣性アルファだからって、アルファであることには変わりないしね。
王太子はオズワルドに期待しているんだ。
将来、オズワルドは宰相さまになって、ボクはその夫として彼を支えるんだ。
楽しい未来にワクワクするね。
馬車の横にボクが辿り着いたタイミングで扉が開いて、大好きなオズワルドが下りてくる。
黒い瞳がボクをとらえると、オズワルトは一瞬驚いたように目を見開いた。
けれど次の瞬間には、ボクを蕩けさせる甘い笑みを浮かべるのだ。
「こんにちは、アイリス」
「いらっしゃいませ。オズワルド」
ボクはうっとりしながら愛しいアルファを見上げた。
オズワルドは、裕福ではない。
だから、今日の衣装は入学式の時に着ていた青っぽい貴族服だ。
襟元を飾る賑やかなクラバットも、長い黒髪に結ばれている金茶のリボンも、入学式の日と同じだ。
でも今日のオズワルドも素敵だ。
彼の体から漂うのは、爽やかなミントに柑橘類が混ざったような香り。
アルファの香りはオメガにとって特別。
もちろん、アルファにとってもオメガの香りは特別だよ。
「さぁ、お手をどうぞ。オレのオメガ」
ふふふ。オズワルドはボクといるときは自分のことを『オレ』って言うんだよ。
貴族は上品な口調で話すけど、オズワルドは親しい人には、くだけた口調で話すの。
ボクは【親しい人】だから、くだけた口調で話してくれる。
特別感がたまらないよね。
ボクはホクホクした笑顔で、自分の右手をオズワルドの左腕に預けた。
ちょっとぶら下がった感じになっちゃうけどね。
ボクは成長期だから、すぐに大きくなって、お似合いの2人になっちゃうんだ。
ホント、すぐだから。
すぐだからね。




