第5話 お母さまの帰還
自宅に辿り着いたのは、ちょっと遅い昼食の時間だった。
日はまだ高い。
この時間帯だと、昼食から引き続きアフタヌーンティーへ突入してしまいそうだ。
ちょっとおしゃべりしてると、時間ってすぐ経っちゃうからね。
ボクがそう思ったのは、馬車から降りたときに出迎えてくれた人の姿を見たからだ。
「お母さまっ! お帰りなさい!」
「ふふふ。アイリスもお帰りなさい」
玄関ホールに入っていくと、そこにはボクの大好きなお母さまの姿があった。
帰ってくるのは週末だと思っていたから、かなり嬉しい。
ボクは迷わずお母さまの日に焼けた褐色の肌をした逞しい体に抱き着く。
お母さまは笑いながらボクを抱き上げた。
お母さま、だ~いすき♪
「ふふ、王立学園生になったのに、甘えん坊さんは相変わらずだね」
お母さまが笑いながら言っているけど否定はしない。
ボクは甘えん坊さんなのだ。
お母さまの名前は、ミッチェル・ロックハート。
オメガだよ。
瞳の色はボクと同じ金に近い茶色。
ボクはお母さま似なんだ。
えーい、スリスリしちゃえ。
ボクはお母さまの頬にスリスリと自分の頬を擦り付けた。
オメガとはいえ男性であるお母さまの頬はヒゲがちょびっと生えていて、ちょっとだけザラザラしている。
お母さまの顔は、整っているけど女性的ではない。
そこも似たいけど、ボクは成長途中だからよくわからないや。
平民出身の商人で、商会「火の鳥」を率いているんだ。
かっこいいよね。
でも仕事へ出かけてしまうと長期間帰ってこないこともある。
そんなときは寂しいよ。
だってボクまだ8歳だもん。
えーい、もう1回スリスリしちゃえー。
ちなみに、お母さまは見た目もかっこいいよ。
淡い金髪を短くしていて、背は高く、オメガだが筋肉質で体が大きい。
お母さまは「筋肉はセクシー」派だから、とってもムキムキしている。
「今回のお出かけは暑い国だったんだね」
「ああ。砂漠地帯へ行ってきた」
お母さまの服は、白いベストに足首のあたりをキュッと絞った長いズボンだ。
シャツを着ていないから、上半身の肌はかなり露出度が高い。
下半身を覆うズボンの生地は白の上にスケスケで、なかに厚手の白い生地のショートパンツを履いているとはいえ、かなりセクシー。
お父さまがヤキモキしそうな格好だね。
「お帰りアイリス……って、ミッチ⁉ 帰っていたんだね? ならこんな所でアイリスを待っていないで、私のところへ来てくれたらよかったのに!」
むっ。お父さま。
相変わらず自分の感情に正直ですねっ。
「ははっ、今日はアイリスの入学式の日だからね。主役を出迎えるのが優先だよ、ドレイク」
「それは分かっているけど……」
「ふふ。ただいまドレイク」
ちょっといじけたお父さまの頬に、お母さまがキスをする。
あっという間に元気になるお父さま。
ん、単純!
お母さまはボクのほうを振り向いて言う。
「今日はアイリスの入学祝いに、お土産で買ってきた美味しい物を用意させたからね」
「やったー!」
喜ぶボクの後ろからお兄さまが現れた。
「ただいま帰りました……って、母上⁉ 帰ってらしたのですね!」
お兄さまの反応は微妙にお父さまと似ていた。
お母さまが優しく目を細める。
「ふふ。お帰り、ブレイズ」
「お帰りなさい、母上」
お兄さまは、お母さまに向かって綺麗な礼をとった。
ふん、お兄さまのええかっこしいがっ。
ボクだって14歳になったら、ああするもん。
「ふふ。お腹すいたでしょ? みんなでおひるご飯を食べよう」
お母さまの号令で一斉に皆が動き出した。
ボクは、まず手洗いと着替えを済ませた。
帰宅したらお約束の作業だからね。
学校ではないから、使用人にお世話してもらいながら着替えたよ。
貴族服も脱いだり着たりするのは大変だけど、王立学園の制服だって楽じゃない。
鍛錬の時とかは着替えないといけないけど、どうやって1人でするのかな?
ちょっと謎。
動きやすい家着に着替えてから、庭に出た。
今日のお昼ご飯はガゼボに用意してくれたんだって。
ボクは遅めのお昼ご飯を摂るために、綺麗な花の咲く庭へと出ていった。




