第11話 お祝いのお茶会 4
使用人たちがテーブルの上に紅茶や食べ物を置いていく。
メイドが紅茶を注いだカップをオズワルドの前に置いた。
オズワルドは笑みを浮かべた。
「いい香りの紅茶だ」
「でしょ? これは……ん、ボクも初めてかぐ香りだから分からないや」
我が家のイベントは、お母さまが扱っている商品の宣伝も兼ねているから、変わった食べ物も出てくる。
紅茶はだいたい新作だ。
「ああ、これはよい茶葉だな」
「本当ですね、セインさま。とても美味しい」
セインとカーティスもティーカップを口元に運びながら感想を述べている。
なぜこうなった?
そんな気分になっても仕方ない。
ボクのお祝いの席だというのに、ボクのテーブルにはオズワルドだけでなく、セインとカーティスがいる。
正直なところ邪魔だね。
お邪魔虫だ。
ボクは落ち着きを取り戻すために膝の上にいるシロを撫でた。
シロはお邪魔虫じゃないよ。
ふわふわした手触りの白い毛は、ふんわり温かくて気持ちいい。
落ち着く~。
「ふふ。アイリスは、そのペットがお気に入りみたいだね」
横の席に座っているオズワルドがにっこりと笑ってボクに言った。
「うん。シロは可愛いでしょ?」
でも安心して。
オズワルドのほうがお気に入りだよ。
ボクがへへへとオズワルドに笑みを向ける横で、セインが顔をしかめた。
「だがなそのペット、我が撫でようとすると唸るのだ。無礼ではないか?」
「セインさま、動物相手に礼儀を持ち出しても通じませんよ。ベータである小生には唸りませんでしたから、オメガが苦手なのかもしれませんね」
カーティスがセインを慰めている。
いい気味だ。
セインは王子さまだからって、ちょっとワガママなんだよ。
動物にはきっと分かっちゃうんだ。
ボクはシロの頭を撫でながらにんまりと笑った。
セインはまだ納得できない様子でぼやいている。
「アイリスには懐いているのに?」
「これと決めたオメガにだけ懐く動物かもしれませんよ」
セインはカーティスの推理に不満げだ。
シロはボクだけでなく、オズワルドにも甘えているから、人を見る目があるだけだと思うよ。
そんな風にボクが思っている横で、オズワルドがセインに話しかけた。
「セインさま、学園でのアイリスの様子を教えていただけますか?」
「ちょっ、オズワルド⁉」
ボクは慌てた。
セインは椅子にふんぞり返って口を開いた。
「ん、学園でのアイリスか? あぁそうか。番といえどもオズワルドは立派な大人。幼き者集う初等科の情報は、手に入れにくいものなのだな」
ボクはあわあわしながらセインの口をふさごうとするが、上手にかわされた。
「アイリスはな、優秀ではあるのだが。ほらアレだ。ドジっ子だ」
「セインっ!」
ボクが止めても、セインは鼻で笑ってオズワルドに情報提供している。
「ほうほう」
オズワルドも前のめりになって話を聞いている。
ボクが必死になってセインを止めようとしても、彼はペラペラと話してしまう。
もうっ、そういうの嫌われるよ?
セインのせいで、ボクが黒板の前で緊張して簡単な数式が解けなかったことや、魔法の授業でホウキに乗って校舎の壁に突っ込んだこと、鍛錬で勝負には勝ったのにそのあとコケてしまったことなどをオズワルドに知られてしまった。
セインはフォローするようにニコニコしながらオズワルドに言った。
「アイリスはドジっ子だが、いいやつだ」
「そうですか。アイリスはよい学友を得たようですね。これからも仲良くしてくださると、私も嬉しいです。セインさま」
「おう、分かった。アイリスと仲良くすると、お主にも誓おう」
オズワルドの言葉に、セインは大きく頷いた。
セイン?
分かってると思うけど、オズワルドはボクのだからね?
オメガだからって、アルファのオズワルドを取ったらダメだよ?
そこへお母さまがやってきた。
「盛り上がっているようだね」
「はい、楽しませていただいています」
オズワルドがにっこり笑って返事をした。
「我も楽しんでいるぞ、ミッチェル殿」
「はは、それはよかったです。セインさま」
お母さまは誰とでもすぐに仲良くなれる。
さっそくセインと仲良くなって、商売の足掛かりにするつもりのようだ。
「こちらのジャムは、セインさまのお国のものです」
「ああ、我が国は果物の栽培が盛んだからな。美味しいだろう? いっぱい売ってくれ」
「はい」
お母さまとセインがニコニコと話している。
セイン。さりげなく目がハート型になってないか?
お母さまは美しくたくましいオメガだからな。
無理もないか。
セインは嬉しそうに自分の国を売り込む。
「我が国には、美味しい物もたくさんあるが、美しい物もたくさんあるぞ。ガラス細工をしているか?」
「存じております。ですが、工房との取引には制約が……」
「なに、そんなものは我が便宜を図ろう」
「ありがとうございます」
隣国にはすでに取引先があるのに、お母さまは貪欲だなぁ。
ボクも見習わないと。
ボクが珍しくて美味しい食べ物を口に運ぶと、ひざの上にいるシロも欲しがった。
「にゃ~」
「んー、シロにはどうかな? こっちなら味が薄いから……」
などと一瞬シロに気を取られていると、ドーンという激しい衝撃と物が壊れる音、人々の上げる悲鳴が、会場に響き渡った。




