第10話 お祝いのお茶会 3
会場の入り口にお客さまを出迎えるためにいたお父さまとお兄さまの姿は既になかった。
おかしいねぇ。オズワルドもお客さまなのに。
ボクたちがお茶会の会場に入っていくと、既にお客さまがいっぱいてザワザワと騒がしかった。
「盛況だね」
「ん、お父さまやお母さまのお付き合い関係だから。純粋にボクの入学を祝ってくれているのは、ごく一部の人だよ」
そのなかにオズワルドもいる。
去年には考えられなかった事態だ。
ボクは偶然の出会いに感謝する。
たまには木に登ってみるものだ。
落っこちた先に運命の番がいるかもしれないからね。
オズワルドとの出会いとなった落下事件のあと、両親や兄からしこたま怒られたけど。
「あれ? この子は?」
「あっ」
オズワルドが指さす先には白い毛玉がいた。
「最近買い始めたんだ。シロ、こっちにおいで」
真っ白な毛玉は、よちよちとこちらへと近付いてくる。
「はは。可愛いな。子猫?」
「んー、よくわからないの。お母さまの馬車に乗ってきちゃったみたい」
「そうなのか。ふーん。君は何者なのかな?」
オズワルドは屈むと長い指でこちょこちょとくすぐるようにシロを撫でる。
シロは「みゃ~ん」と甘えるように鳴いた。
とても可愛いが、オズワルドはボクのだからね?
相手がシロでもあげないよ?
ボクはオズワルドの隣で屈むと、彼と一緒にシロを撫でた。
しばらく2人してシロを撫でていると、上から嫌味っぽい声が降ってきた。
「おやおや、オズワルドさま。いらしていたのですね」
「こんにちは、ロックハート伯爵さま。本日は、お招きいただきありがとうございます」
オズワルドはスッと立ち上がると、お父さまに向かって綺麗な礼をとった。
王城勤めをしているし、王太子殿下のそばにいるから、オズワルドも所作は綺麗でうっとりする。
ボクのオズワルドへ向ける視線が気に食わない、といった感じてお父さまがわざとらしく咳払いした。
見苦しいからやめて欲しい。
男の嫉妬は醜いよ?
ボクにとってお父さまは、お父さま1人だけなのだからドーンと構えていたらいいのに。
お父さまは微妙に器が小さくてかっこ悪いよ。
「いらっしゃいませ、オズワルドさま」
お兄さまもオズワルドに挨拶をしているけど、表情が意地悪そうでかっこ悪いよ。
我が家は、お母さまのほうがかっこいいんだ。
「いらっしゃい、オズワルド。久しぶりだね」
そこに満面の笑みを浮かべたお母さまが登場した。
今日のお母さまは、はち切れんばかりの筋肉を少しゆったりとした異国風の赤い衣装で覆っている。
ボクと同じ金に近い茶色の瞳で整った顔をしたお母さまは、オメガだけど体が大きい。
平民の出だから貴族服は嫌いみたいで、華やかな生地をフワッと使った衣装が好きみたいだ。
ワンピースみたいな服を着て、綺麗な織物の紐で腰のあたりを絞っている。
でもこのワンピース、生地がスケスケなんだ。
だから中に生地の厚い貫頭衣と、足首あたりを絞った長いズボンも履いている。
中に着ているものは白だから、お母さまは「今日はお祝いの席だから紅白」って笑ってた。
お母さまはアクセサリーをたくさん、とにかくたくさんジャラジャラつけているんだよ。
どのくらいつけているかというと、アクセサリーが揺れて出る音で居る場所が分かるくらいだ。
商人だから歩くショーウィンドウだ、って笑っているけど、本人もアクセサリーが好きみたい。
淡い金髪を短くしているのも、アクセサリーがよく見えるように、って言ったな。
でもそっちは本当かどうか分からない。
髪が長いと手入れが大変だもんね。
お母さまは面倒なことが嫌いなんだ。
本当にしたいことに集中するため、なるべく手間は省きたいタイプみたい。
オズワルドはお母さまへ綺麗な礼をとる。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「ふふ。来てくれてありがとう。アイリスが嬉しそうで、俺も嬉しいよ」
お母さまとオズワルドが並ぶとお似合いに見える。
オズワルドよりもお母さまの方が背も高いし、筋肉でぱっつぱつだけどね。
ちょっと嫉妬。
でもいつかボクもお母さまみたいになると考えると、これは未来の2人の姿ともいえる。
だからボクはオズワルドとお似合いのカップルになれるはずだ。
それはちょっと嬉しい。
オズワルドがお母さまに話しかける。
「今日は盛況ですね」
会場を眺めて、オズワルドが言った。
「ふふ。そりゃ大事なアイリスのお祝いだからね。俺も張り切っちゃった」
会場となる我が家の庭は、それはもう煌びやかだ。
もともと春だから花は綺麗に咲いている。
そこに庭を飾る装飾品が色々と持ち込まれていた。
支柱を立てて華やかに垂れ下げたカーテンは、ガゼボというよりもベッドの天蓋みたい。
テーブルも、椅子も、初めて見るものだ。
細いフレームでできた白いガーデンテーブルがあちらこちらに置かれている。
逆にパラソルは控えめ。
食べ物が並んでいるテントが広いせいかもしれない。
テントのなかには、お馴染みの料理もあれば、初めて見る料理もある。
グラスやお皿は太陽の日差しを浴びてキラキラしているし。
これは欲しくなっちゃうよね。
「じゃ、楽しんで」
軽く挨拶すると、お母さまは来客対応へ向かった。
これは幾つか商談がまとまってしまいそうだ。
お母さまは優しいけれど、それだけではなくて商魂たくましい。
その場の力を最大限に引き出す感じだ。
ボクもオズワルドと番になったら貢献したいから、お母さまのしていることを学んで出来るオメガになるつもり。
でも今はオズワルドとの時間を思い切り楽しむのだ!
だが物事はそう上手くいかないと相場が決まっている。
「そやつがお前の番か?」
あ、嫌な奴きた。
ボクが振り返ると、そこには金髪をキラキラさせてふんぞりかえるセインの姿があった。
セインがオズワルドに自己紹介をする。
「お前が、アイリスが自慢しまくっているオズワルドか。初めまして。我は、セイン。隣国リーン王国の第三王子だ」
おいこらセイン。
学園での話をバラすなよ。
「初めまして、セインさま。お噂は我が国の王太子よりお聞きしております」
オズワルドは笑顔で対応している。
大人なのに、8歳児からあんなに偉そうな態度をとられて気を悪くしないとかすごいなぁ。
なんて大人なんだ。
素敵だ。
ボクも見習わなきゃね。
「こっちは我の付き人のカーティスだ」
セインが細長い少年を紹介した。
「初めましてカーティスさま。アイリスと仲良くしてくださってありがとうございます」
「初めまして、オズワルドさま。お噂はかねがね……」
オズワルドはカーティスとも丁寧に挨拶をかわしている。
もしかしてボクが学園でどんな感じなのか、これでバレちゃう?
ボクはシロを抱き上げると白いモフモフを撫でた。
あぁ、なんだか疲れちゃったなぁ~。
今日はボクのお祝いじゃなかったっけ?




