なんかうちの魔法少女の様子がおかしい。
ふむ、これは困った。
しかしやらねばならない。
己の使命は、花の青春時代を彩る幕開けに相応しい1ページを開くことだ。
それはまるで、転校初日に食パンを咥え「遅刻遅刻〜!」と言いながら曲がり角でイケメンと衝突事故かますような、きらふわきゅんきゅん(はあと)の1ページ。
たとえ目の前の少女が、通学鞄ではなく釘の打ち込まれた金属バットを持っていたとしても。
……いや、無理じゃね???
やあ、紹介が遅れたな。俺の名前はすz(ピー
ー)、
享年s (ピーー)歳だった。生まれは(ピーーーー)で(ピーーーー)は(ピーーーーーーーーーーー)(ピーーーーーーーーーー)(ピーーーーーー)……
ぴいぴいぴいうるっせえな!!!! 俺が卑猥なことを言ってるみたいじゃないか!! 熱い風評被害だ!!!!
まあ、簡単に言うと俺には前世の記憶がある。おっとそこのユー、こいつ頭がおかしいと思うのは時代遅れだぜ? 前世の個人情報はさっきピー音に消された。それが世界の矛盾的なあれなのかめマジカルミラクル的なあれに邪魔されているのかは分からない。
そう、俺は今マジカルな存在なのだ。
何を言ってるのか分からないと思うが俺も何を言ってるのかわからないということはない。
俺が生まれた場所はマジカルンルン王国───妖精が住む国である。
女王ラリルレーロによって治められているそこそこ大きい王国だ。女王が居る世界樹を中心にファンタジックな森が広がった感じの姿をしている。
通貨というのはなく物々交換や助け合いで暮らす。基本食べて寝て遊んでののんびり生活。世界樹パワーでそこらへんにぽこぽこ木の実が生えてくるし安全を脅かす敵もいない。という平和な暮らしをしている。
余裕があるからか、そういう存在なのか、皆優しく俺まで心が浄化されるようだった。いつのまにか妖精らしく皆と手を繋いであへあへ笑ってた時があったくらいに。俺の黒歴史だ。
ああ、ここでの妖精は世界樹が放つマジカルなエネルギーがうんぬんかんぬんで自然にぽこぽこ生まれ自然にぽこぽこ消えるものだ。
西洋ファンタジーにでてくるような小さい羽根つき人型みたいなのもいれば、まふまふなぬいぐるみっぽいの、ゴツい顔のおっさん型。もはや妖精とは何だったのか。
そんな中で、俺は幸運な事に人型で誕生することができた。虫型だったら俺はどうなっていたんだろう。いや、マヂ力が高ければ人型に変形可能だしなんとかなっていたのかもしれない。つまり、最初から人型で生まれた俺はなかなかのマヂ力を持つエリート個体だ。
おっと、マヂ力というのはマジカルマヂ力の略だ。簡単にいってしまえば、魔力みたいなもん。マジカルな真剣パワーはマヂヤバイ。それはおいおい説明しよう。
んで、俺みたいなマヂ力がギンギンのエリートは何してるかというと、
魔法少女の勧誘&サポーターである。
……いや、なに。現代の魔法少女物のテンプレ的な世界の敵、卍ダーク十ユニオン卍という地球を狙う組織があってだな。いててて。
我らが女王ラリルレーロはお優しく、地球の存続のために人間の強化を図ったわけだ。
女王様は悩んだ。多くの人に与えても微々たる力しか上がらない。少人数を選ぶとしても、選び方を間違えたら悪し者に利用され、犯罪や戦争に至るかもしれない。マジカルンルン王国国民は戦うとか無理ぽよなポンコツである。
それでうんうん悩んでぶっ倒れて側近に泣かれた後、女王様は思いついた。
ー天真爛漫な、優しい心と正義の心を持つ、夢と希望に満ち溢れた少女に与えようとー
いるわけねえだろしかも少女ってなんだ純粋なboyでもいいだろこの時代に男女差別ですかと鼻をほじりつつ、やる気を出した女王サマを温かい目で見守っていた。
するとマジカルレーダーなるものを作り出し俺たちに配った。『俺』達に。いやおい嘘だろ俺もやるのか俺は後方勤務が良いですと物申したいことは山程あったが女王様過激派に追いやられて現世・地球に来たわけだ。
そんでレーダーで見つけた希望に満ち溢れた天真爛漫少女は釘バットで肉の山を築き上げている真っ最中である。
……レーダーガバ過ぎる。
いや無いだろどこが夢と希望に満ちてんだよ血と呻き声に満ちてるわ!!!!
この少女は可愛らしいJC・jk達の登校する午前7:45分に釘バット振り回して何やってんだ。食パンくわえてキャー遅刻でもやってろ。
「ギャア"アッッッッ!!!!」
ギャー昇天はやってた。違う、それじゃない。
話しかけたくない。とても話しかけたくない。
だが初めに見つけた子に勧誘しないと俺の首輪が締まる。くそ、過激派め!!!
女ヤンキー達の抗争なんて見たくない。
が、やらねばならぬ。争っていた最後の一人が倒れ、勝ち残った少女に意を決してマニュアルのセリフで話しかける
「俺と契約して、魔法少女になるっピ!!!!」
「あ"ア"ん"?"!"」
「ひえっ」
俺にガンつけたその顔は阿修羅のごとき。
血走ったガン開きの眼に剥き出した歯茎。飛び散った血のオプション付き。もはや少女とは思えない。むしろこいつ卍ダーク十ユニオン卍側だろ。
しかしながらマジカルレーダーは、ビンビンにアンテナを立ててこの子だと主張している。
……魔法少女になるべき資質を持った、可能性に溢れる少女はこいつだと。
まぢむり辞職しょ……
そしてここからは蛇足である。
この時の俺は確かに無理だと思った。このマジカルレーダーとやら、ぶっ壊れてやがると。
しかし、きちんとこのレーダーは仕事をしていたらしい。
とても「天真爛漫な、優しい心と正義の心を持つ、夢と希望に満ち溢れた少女」とは思えない形相。「マジカル」というより「魔血禍流」が似合いそうな魔法少女なんて肩書きが似合わなそうなこの少女。
なるほどたしかにその釘バットで敵をぶっ飛ばして敵を敵に当てる超!爽快シューティングゲーミングでもしてくれそうな雰囲気はあるが、そうではない。また別の問題がさらにあった。
内気……そう、引っ込み思案で気も弱く暗い少女でもあったのだ。一度釘バッドを手放したらその阿修羅の雰囲気はどこへやら、一見とてもじゃないが魔法少女としての器があるとは思えないほどにもじもじ、ぼそぼそと内気少女へ様変わりしたのだ。あとアホの子。
彼女に地球を守る魔法少女─その責任と重みを背負わせようとする者はいないだろう。潰れるのが目に見えているのだから。
と思うだろう。そうだろう。だがまだ違う。違うのだ。
彼女はアホだ。でも、だからこそ、何があっても乗り越えられる───
「まあなんとかなるっしょ」と。
体育祭の長距離を走る選手が決まらない。
班のリーダーが決まらない。
だれそれが倒れた。喧嘩した。怒られた。
ぎちぎちと空気が擦れ合い不快な音をたてる中。
なんとかなるっしょっと心の中では何食わぬ顔で過ごしながら顔だけ重苦しい表情という器用なこにとをしてやり過ごしてきた。
……別に特別なことではない。この程度ならいくらでもいるだろう。あほだから、共感性がちょっぴり低いからその度合いが高いだけで。これだけではより重荷ある魔法少女のリーダーたりえない。では何か?
彼女は、無限の可能性を秘めている。
ありとあらゆる可能性。その力。能力。それだけにとどまらず性癖や にいたるまで。なんかもう性格ごとキャラチェンしてない?っていう感じで。
可能性の扉というのはその人の向き不向きによって開きやすかったり固かったりする。が、彼女の場合。それがガバッッッッガバッッッッであるのだ。
内気故に、アホ故に、その才能故に。
彼女は、後に数多の魔法少女の中でも一際輝く一等星として讃えられる──人目に怯えつつ。
まぁ、そこに至るまでの道中はそんな彼女をなんとかおだてて叱って蹴飛ばして励まして慰めて泣かせて、二人三脚苦労の連続ではちゃめちゃな足取りであるのだが。
とにかくこの時の俺は、まだそれを知らない。
高校生の時にメモアプリに書いていたのを発掘してきました。ここからの展開やキャラクター設定も書いてあり、どうやらその第一話にあたるところお話です。
反応があるか、書き溜めが勿体無く感じたらそのうち続きも投稿するかもしれません。