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生贄にされた英雄は我が道を行く ―ラスボスと歩む庶民道―   作者: 山海千歳
1章 ロメリア王国編

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049 【 氾濫その後 】

 魔物の氾濫が終息してから、一週間が経った。

 ロッツハルト伯爵は事態の終息を正式に告知し、同時に被害状況を公表した。

 それによれば、刈り入れ前の麦畑が魔物に踏む荒らされた以外()したる被害はなく、人的被害については避難の際に慌てた領民が数名転んで怪我をしたのみに留まっている。

 一方、討伐に参加した兵員にはそれなりの被害が出てしまったようだ。

 騎士団の死者6名、重傷者52名、軽傷者182名――狩猟者の死者2名、重傷者46名、軽傷者321名と発表された。

 ただ、重傷者と軽傷者に関しては既に完治しており、実質的な被害は死者の8名のみということになる。

 これには第1王女のミリアリアが関与しており、氾濫の報を耳にした彼女がいち早く行動を起こし、 ポーションを大量にロッツハルト伯爵へ寄贈したとのことである。

 ロッツハルト伯爵はこの事を広く領内に告知し、同時にミリアリアとトリスメギストスに宛て最大の感謝を示している。


 ロッツハルト領は未だ事後処理でゴタゴタしているものの、氾濫を乗り切ったことでお祭り騒ぎになっている。

 なんでも、討伐部隊の帰還の折りには、ロッツハルト領を救った英雄達を一目見ようと領民が通りに押し掛け大騒ぎになったらしい。

 殊に隊を率いていたフリード騎士団長の評判は高く、毎夜酒場で吟遊詩人が彼の英雄譚を弾き語っているとのことだ。


「すごい人気やね、あん人……ほんまの立役者はルースはんやのに……わっち、何や納得行かないのでありんすぇ」

「まぁ、そう言うなツバキ……詩にはルースのことも出てきておったぞ?」

<オークを率いし魔物の王でござるな?>


 ソウジがポンと手を打って思い出した様に言う。


「それよそれ!『黒の魔王』とは良く言ったものよな、ハハハッ……」

<うむぅ……しかし、ンゴラ殿は詩に登場するのに某が全く登場しないのが納得いかないのでござる……甚だ遺憾でござるな>

「ウゥゥ……わっちなんか完全に蚊帳の外やで?ソウジはんはルースはんの隣で闘いに参加できただけ良いのでありんす」


 吟遊詩人の弾き語りによれば、雷撃を操る貴公子が地竜を屠り、魔物を率いて現れた『黒の魔王』に目にものを見せて霧の樹海へと追い払ったことになっている。


 大分脚色されて事態が伝わっているようだが、それだけ伯爵家が領民に慕われているからなのだろう。

 フリードには申し訳ないがルースとしては都合が良いので、そのまま事実として広めて貰いたい。


「何を言うておる、まっこと望んだ通りの結果を得たではないか……のぉ、黒の魔王よ」

「うっ!そ、その呼び方は止めてくれないかな、クロ……」

「なんじゃ、自分からノリノリで名乗り始めた設定ではないか、何を恥じることがあるのじゃ?」


 ニマニマと笑いながら宣うクロ。


<某も良き二つ名だと思うでござるよ?>

「ほやね……わっちも良いと思う」

「お、お願い……止めて二人とも……」


 純粋な二人の視線にルースの精神はゴリゴリと削られる。

 顔を覆ってゴロゴロと地面をのたうち回るルース。

 そこへ、客が訪れた。


「ソウジ殿……ま、魔王様はどうしたのだ?」


 赤銅色の肌をした巨漢の魔物--オーク族を束ねるハイオークのンゴラだ。

 背後には数名の部下が付き従っている。


<うむ、某にも良く分からぬが……喜びに悶えているのではないかな?>

「そ、そならば……良い……良いのか?」

「違うから!そんな愉快な喜び方しないからね?僕を何だと思ってるのさ!」


 納得いかないと膨れるルース。

 傍らではクロが腹を抱えて笑い転げている。


「それで……今日はどうしたの、ンゴラさん……集落に何か不具合でも見つかった?」


 ひとしきり場が落ち着いてからルースが切り出した。


「ま、魔王様に『さん』付けで呼ばれるなど……畏れ多いぞ……呼び捨てにしてもらえぬか?」


 ンゴラが片膝を折り、握った右拳を地面について言う。

 背後の部下達もそれに倣い一斉に膝をつく。

 ルースは戸惑うばかりだ。


「諦めろ、ルースよ……力を示して従え、あまつさえ庇護して住処を与えた以上、お主は最早こ奴等にとって従うべき絶対者なのだ」

<左様でござるな……魔物にとって力こそ全て……>

「そりゃぁ、確かに住むところを紹介して、集落作りも手伝ったけど……それは手伝ってくれたお礼だよ?」


 元々の住処を追われたとのことだったので、この際オーク達には拠点の近場に住んでもらうことにした。

 魔獣狩りに手を貸してくれたお礼もあるが、一番は拠点に独り残るソウジを(おもんばか)ってのことだ。


「我等オークは腕っ節で長を決める……それに魔王様は俺を拳一つで力を知らしめた……だから、我等ゴトラ族は魔王様に従うと決めた……」

「オレ……腕、直シテモラタ……」

「オレも……足モドッタ……マオウ様オカゲ……」


 どうやら、後ろに控えたオーク達は以前ルースが手足を斬り飛ばした個体のようだ。


(確かにお礼にポーションを渡したけど……それってマッチポンプってヤツじゃないかな……)


 色々後ろめたい気がするがオーク達は退きそうにない。


「……分かったよ……ンゴラ……達を受け入れるよ……ただ、ひとつだけ……魔王様呼びだけは止めてくれないかな?」

「では、何と呼べば良いのだ?」

「そうだな……村長とかどう?」

「そんちょう……とはどういう意味なのだ?」

「うーん……群れの長っていう感じかな」

「分かった……これより強き者を『そんちょう』と呼ぶことにする……良いなお前ら!」

「ソンチョウ!」

「ソンチョ!」


 ンゴラの言葉にオーク達が応える。


「クハハハッ、魔王の次はオークの村長か……どんどん呼び名が増えていくな、ルースよ」

「わっちは黒の魔王の方が良いのでありんすぇ」

<左様でござるか?某は『村長』も良いと思うでござるよ?そうは思わぬか、ンゴラ殿>

「オゥ、オレは良き名だと思うぞ、ソウジ殿よ」


 ソンチョソンチョ、連呼するオーク達。

 肩を叩き合う暑苦しい巨漢の二人。

 その傍らではクロが腹を抱えて笑い転げている。


「……カオスだ……頭が痛い……」


 キョトンとするツバキの頭を撫でながら、ルースは大きな溜め息を溢した。

週一でのんびり更新して行くつもりですが、空いてしまったらご免なさい。m(_ _)m

気長に付き合っていただけると嬉しいです。

感想など頂けると励みになりますので、是非一言でも下されば幸いです。\(_ _)


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