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生贄にされた英雄は我が道を行く ―ラスボスと歩む庶民道―   作者: 山海千歳
1章 ロメリア王国編

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048 【 神亀ラフタル 】

「フォッフォッ……こうして人の姿で茶なぞ飲むのは……かれこれ数十年ぶりかのぉ」


 白髯の翁がズズズッと茶を啜ると、湯呑みを持った手を膝の上に置いた。

 ちゃぶ台を挟んで対面に座ったルースは同じく茶を啜って周囲を見回す。


(ふへぇ、島にこんな場所があったとは……なんちゃってメテオがここに落ちなくて本当に良かったよ)


 ルースが今いるのは日本の神社を彷彿させる社の本殿だ。

 板の間にポツンと置かれたちゃぶ台を囲むように翁、クロ、ルース、ソウジの順にぐるりと座を占める。

 ただ、ちゃぶ台の『これじゃないだろ?』感がなんとも言えない。

 因みに、ツバキはいつもの如くルースの肩にちょこんと座っている。


「なぁに、この場所は結界に守られておる故……お主の魔法がここに落ちたとて大丈夫じゃよ」


 心中を察したのか翁が長い眉毛の向こうからルースを見つめて言う。


「ここはラフタル様の住処なのでありんすか?」

「いや、この場所はこの者達が建てた神事なぞをする場所じゃよ……ワシの塒は島の中央にある」


 そう言って白髯の翁ーーラフタルが背後に控えた者を指し示す。

 そこに座して控えるのは壮年の鱗人族(うろこびとぞく)だ。

 首筋や剥き出しの腕に青い鱗が光っている。

 何でも、彼らは雷亀ラフタルを崇める種族らしく、湖の西側に集落があるとのことだ。

 今回の騒動に際し、ラフタル側の関係者としてこの場に立ち会っている鱗人族の長である。


 因みに、ここは龍穴の湖に浮かぶ中島であり、鱗人族はラフタルの住まうこの島を『神島』と呼んでいるらしい。

 島の西側は岩だらけの湖岸になっており、そこにぽっかりと空いた洞窟に入って行くと大きく開けたこの場所へと出た。

 四方を岩の壁に囲まれたここは、見上げれば天井はなく青い空が覗いている。

さながら、井戸の底にいるような感じである。

 大きく開けた広場は砂地に覆われており、陽射しが入るお陰か苔のようなものがあちこちに生えている。

 砂地はぐるりと水に囲まれて島の様になっている。

 そして、その島の奥まった場所には厳かな社が建っているのだ。


「おい、強き者よ……お、俺はここにいて……良いのか?……そ、そこな御仁は神ではないのか?」


 ルースの背後に座っていた巨漢がおずおずと口を挟んだ。

 赤銅色の肌をしたオーク族の長である。

 居心地が悪いのか筋肉質の身体を縮めるようにして座っている。


「新しく住む場所を紹介したいし、もう少しだけ付き合ってくれるとありがたいかな……あと、ラフタルさんは龍穴を守護してる龍であって、神族ではないみたいだよ?」

「オ、オーク族の俺にしてみれば……神とさほど変わらない存在なのだがな……」

「フォッフォッ……ワシなぞ、永く生きているだけのただの爺じゃよ」

<心配召さるな、ンゴラ殿……我等は共に戦った戦友ではないか!>


 ソウジがサムズアップしてかんらかんらと笑う。

 ルースにしてみればどこでそんな仕草を覚えてきたのだろうと不思議に思うも、男前なソウジの存在は何ともありがたい。


「うぉぉぉ、俺なぞを戦友などと呼んでくれるか、ソウジ殿!」

<何を言う、当たり前ではござらんか!>


 男泣きに肩を叩き合う体育会系の巨漢二人。


「お二方には良い話なんやろけど……あの空気はわっちには理解できそうにないなぁ」


 ツバキが肩でボソリと呟く。


「暑苦しい連中放っておいて話を進めるぞ、亀爺」

「フォッフォッ、そうじゃのぉ……だがそれよりも先ず、いつ突っ込もうかと思うとったが……お主……何とも愛らしい姿になったのぉ……何ぞ、心境の変化でもあったかや?」

「う、うるさいぞ、亀爺……要らぬ節介じゃ……ふ、触れるでないわ」

「しかも、少女の姿とはこれ如何に……確か、お主に雌雄はなかったとワシは記憶しておるのじゃが?」

「ふ、触れるなと言っておるじゃろ」


 親しげに言葉を交わす超常の黒と白。


「ねぇ、やっぱり二人は面識が有ったりするのかな?」

「まぁ、永く存在していればそれなりにな……腐れ縁と言うヤツじゃ……く・さ・れ・え・ん!」

「フォッフォッ、眷属として神に創造されてから数万年……そこな娘?……とは同じ神に仕えてきた、謂わば身内みたいなものじゃな……まぁ、八つ当たりに極大魔法を放たれた、なんてことも有ったがのぉ」

「……龍相手に八つ当たりって……何してんの、クロ……」

「あ、あの時は……其奴が龍穴の力を我に貸さぬから悪いのじゃ……ちょっとくらい協力してくれても良いじゃろうに……この頑固爺は……」

「この馬鹿者が、貸せる訳ないじゃろ……国どころか、それこそ大陸が消し飛ぶわ」

「ほぅ、喧嘩を売っておるのなら買ってやるぞ、糞爺!」

「フォッフォッ、相手をしてやらんこともないぞ、駄犬!」

「その小汚ない髯をむしり採ってやるわっ!」

「何の、いつぞやの様に尻尾を焼いてくれるわっ!」


 拳法の達人よろしく構える二人。

 クロはともかく、好好爺然としたラフタルも意外と喧嘩っ早いようだ。

 双方共に神の眷属として最上位にあるはずなのだが……大人気ないと感じてしまうのはルースだけなのだろうか。

 ――ゴゴゴゴ……といった擬音が聞こえんばかりの魔力が睨みあった二人から放たれる。


「まぁまぁ、二人とも……仲が良いのは分かったけど、話が進まないからじゃれ合いはその辺でやめようね……周りが本気で怖がってるからね?」

「「な、仲良くなどないわっ!」」


 見れば、鱗人の長は腰を抜かしているし、ソウジとオークの長は肩を抱き合ってオタオタしている。

 ツバキなぞはルースの懐に潜り込んでガクブル状態だ。


「「す、すまぬ……」」


 一段落着いたところで今回の件に関して話し合いが始まった。

 と言っても、話し手は専らラフタルであり、ルース達は時折質問を口にするだけである。


「つまりは今の仕組みでは瘴気を浄化しきれなくなっておるのじゃな?」

「うむ、ここ数十年はカツカツの状態じゃな……最早ワシ等では手に追負えんようになってきておる……ほんにルナ様が管理から手を退かれたのが痛いのぉ」

「二千年前からあの兄神が担当しておると言う話を聞いてはいたが……創造神様が手を貸しておるのではないのか?」


 クロの言葉にラフタルが溜め息を溢す。


「神力は貸せど、口は挟まずといったところじゃな……そして、一度手を出した以上最後まで責任を持って彼の方にやらせるおつもりらしい」

「何とも傍迷惑な話じゃな……あの脳筋の兄神では土台無理な話ではないのか?」

「ほんに、振り回される現場は堪ったもんではないのぉ」


 二人の話によれば、今の瘴気浄化システムではいつ破綻してもおかしくない状態らしい。

 それもこれもアルス神が全ての元凶のようだ。


「なぁ、クロはん……ルナ様は何故、瘴気の管理から手を退いたのでありんすか?」

<某も不思議に思っていた……ルナ神が管理していた頃は何の問題もなかったのでござろう?>


 ツバキの疑問にソウジが同意を示す。


「二千年前の件で、ルナ様は兄神様にいたく御立腹されてしまったからのぉ……仕方ないのじゃよ」


 ルースは可憐なルナ神の姿を思い浮かべ溜め息を吐く。

 あの温厚な女神様が怒るとは余程のことだ。

 アルス神は一体何をやらかしたのだろうか……。


<御立腹の理由は何なのでござるか?>


 ソウジの質問に、クロとラフタルの視線が一斉にルースへと向けられる。


「……え?……僕?もしかして、僕がルナ様を怒らせちゃったの?」

「確かに、お主の存在が一番の理由なのは間違いない……じゃが、お主が彼の方を怒らせた訳ではないぞ?」

「途中からしゃしゃり出てきたアルス神が悪いのじゃよ」


 二人が語ったのは二千年前の闇の獣討伐に関する裏事情だった。

 元々、魔力循環システムと瘴気浄化機構はルナ神の手に依って行われていた。

 そこへ、唐突にアルス神が自分がやると言い出したらしい。

 そして、創造神がこれを認めてしまった。

 当時、英雄召喚までは既にルナ神の統括で行われたのだが、そのあとをアルス神が引き継いだらしい。


「そう言えば、僕を召喚したのは女神教だったけど……リナはアルス聖教の聖女だった」


 英雄部隊の選抜もアルス聖教が絡んでいるといった話を聞いた覚えがある。


「自分が選んで召喚した英雄を、あの馬鹿者どもに蔑ろにされ良い様にこき使われのじゃ……ルナ様が怒るのも無理はあるまいのぉ」

「果てにはお気に入りの使徒を我を封じる為の生け贄されたのじゃからな……」

「うむ、怒髪天を衝くとは正に良い得て妙じゃった……ワシ……あの時のルナ様の様子に少しチビってしまったわい」


 そこへ、ツバキが口を挟んだ。


「前世の事は少し耳にしておったけど……そのルースはんに不義理を働いた連中はどうなったんでありんす?」

<うむ、某もそれは気になるでござるな>

「フォッフォッ……世の中には聞かぬが方が良いこともある……所謂、禁則事項と言うヤツじゃな」

「何その何処かで聞いた台詞……めっちゃ気になるんだけど……」


 ルースが答えを求めてクロを見やれば……。


「わ、我は知らぬぞ……管轄外じゃ」


 クロが下手な口笛を吹いて惚ける始末。

 あっ、コイツ……全て知ってるなとルースは心中で察する。

 しかし、同時にクロはもしかしたら自分の為を思って語らなかったのかもしれないとも察する。


(まぁ、もう済んでしまった遥か過去の事だし……態々聞くまでもないか……)


 ルースは続く言葉を飲み込んだ。


― side   ラフタル ―


「ラフタル様……その……あの少年が使徒様というのは真なのでありましょうや?正直な話……獣人の少女が彼の伝説に語られる『闇の獣』というだけでも心の臓が止まるほど驚かされたのです……」


 下座に控えた鱗人の長が、先程の会談を思い出しながら口を開いた。

 長の背後には氏族の代表数名が神妙な面持ちで長とラフタルの遣り取りを見守っている。


「あぁ、間違いなく先程の人族の少年がルナ神の使徒であらせられる」


 ラフタルの言葉に氏族の代表がざわめき出す。

 その反応は無理からん……使徒とは神に使わされた全権委任者なのだ。

 つまり、使徒の意思が神の意思となる。


「お、おそれながら……ラフタル様を正気に戻したというのは、もしや使徒様の所業なのでありましょうや?」


 氏族の一人が口にした質問に白髯の翁が静かに頷く。


「フォッフォッ、魔法一つで失神させられたわい」


 発動に下級魔法程度の魔力しか感じなかったが、威力は絶大だった。

 対峙した時の光景を思い出し、ラフタルは溜め息を吐く。

 一体どういった発想をすればあのような魔法を考え付くのやら……。

 その事を説明すれば、鱗人達が驚愕にざわめく。


「か、下級魔法一つでラフタル様を失神させたのですか?」

「そんな馬鹿な、極大魔法を匹敵する下級魔法などあるはずがない!」

「馬鹿者っ!貴殿等はラフタル様の言が信じられぬのか?」


 そこへ、長が割って入る。


「静まれお主等!ラフタル様の御前なるぞ!」


 慌てて平伏する氏族の面々。


「まぁ、信じられぬのも無理はなかろう……見た目は極平凡な人族の子供なのじゃからのぉ」


 少年から魔力を欠片も感じないのが尚のこと質が悪い。

 見た目に騙されて喧嘩なぞ売ろうものなら痛い目をみるくらいでは済まないだろう。


「その方等にきつく申し渡しておく……呉々もあの少年に悪意を向けるでないぞ……利用しようなどと考えるのも論外じゃ」


 短い邂逅ではあったが、彼の少年の質は温厚にして慎み深いものだった。

 多種族に対する差別や忌避感も全く見受けられなかった。

 何と言っても、オークと普通に接していたのが印象的だった。


 恐らくだが、礼には礼を以て接し、恩義には義理を尽くす御仁ではなかろうか。

 問題は悪意に対してどれ程の反応を示すかだが……。


(……とても、試す気にはならんのぉ……あの魔法を見る限り、簡単に世界が滅びそうじゃわい)


 頭が痛いのは、ルナ神があの少年をいたく気に入っていることだ。

 前世であの者に非道を働いた者達の末路を知っているだけに、先行きが不安で仕方がない。


 接した感じ……クロを筆頭に二人の眷属も忠誠心が厚そうだった。

 主が愚弄されれば暴発しそうな雰囲気を感じた。


(使徒殿に手を出す愚か者が現れぬよう祈るばかりじゃ……)


 白髯の翁が天を仰ぎ、一際大きく溜め息を吐いた。

週一でのんびり更新して行くつもりですが、空いてしまったらご免なさい。m(_ _)m

気長に付き合っていただけると嬉しいです。

感想など頂けると励みになりますので、是非一言でも下されば幸いです。\(_ _)


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