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黒い老婆

「なんでこんなに早く追い出されるんだよ、傷はなんか治ったけどさ、いくらなんでも早すぎるんだって。」


「まあまあ、そんなに言わないであげてよ」


「眠いったらありゃしねえよ。なんなんだよ。まだ陽も出てない。あー眠い。」


「寝起きで愚痴聞かされる人の気持ちも考えた方が良いわよ。さっさと人から見られないところまで行って寝ましょう。」


「あそこの森に入れって言われてたよな。」


「俺、地理とかさっぱりだよ。」


「まず、俺たちがいるのがリュミナ公国。それで、ここを北に行くと着くのがカルニー国だ。ここは敵の勢力の支配下にあるんだけど、そこをさらに北に行ったファルデニア古国は強い軍事力を持っていてまだ敵の支配に落ちていないから、そこに助けを求めに行くんだ。」


「とりあえず、この森を北に抜ければいいんだよね!」


「魔物とか出ないと良いんだけど。」


「おい!フラグ立てるなよ!」


森の中は昼にも関わらず薄暗く、明るい周囲を比べると不気味だった。そんな中で現れたのは、可愛らしいツンツンヘアの男の子だった。上半身には何も着ておらず、少しサイズの大きいズボンを履いていて、薄い紫色の肌をしていた。


「かわいいね」


「待って!この子、ゾンビじゃない?」


ゾンビ、一度だけ名前を聞いたことがある。戦闘能力こそ低いものの、倒された者は同じくゾンビになってしまうらしい。何でも寿命が500年あるとか…


「とりあえず倒すのが良いのか…?」


「でも、敵意はなさそうだし、倒さなくてもいいんじゃないか…?」


「私は経験値として倒しておくべきだと思うわ。近くに住んでる人が被害に遭うかもしれない。」


「俺もエルナリアの意見に賛成だな。魔物である以上倒しておいて損はないし。」


「じゃあ、戦うのか…?」


「あたしも仕方ないけど倒すしかないと思う。そのまま無視して進んで囲まれたらあたしたちまでゾンビになっちゃうかも。」


「じゃあ倒すしかないね…かわいかったのに。」


「とりあえずステータスだけ見ておきましょう。」


【ステータス:ゾンビ】

職業:弓使い

Level:30 (n/a)

HP:270

攻撃力:80

守備力:140

俊敏値:-20%

魔力軽減:40%

魔力値:0C

魔力変換効率:-


「まてまてまてまて」


「強すぎない?」


「敵意がなくてほんとに良かったわね」


「守備力140って、誰も攻撃通らないんだが」


どうしたものか、とりあえず近くの家にでも匿ってもらおうかな


「あそこに家が見えるけど、一か八かで入ってみないか」


「このままだと偶然殺されかねないし、そうするしかないかもしれないわね。」


「あの家に着いたら、俺が開けるよ。3人は構えておいてね。」


「そんな…カガリが死ぬかもしれないってこと?」


「違うよ。俺が一番俊敏値が高いからなんとかなる可能性が高いからってこと。心配しないでね。」


言っているうちに妙に悲しくなって、無理に口角を上げているのが自分でも分かる。目を反らして、家に向かっていく。


「ねえ、本当にするの?あなたが死んだらみんな悲しむわよ。やめておいた方がいいわ。死ぬならみんな一緒がいい。」


そう言うエルナリアの声と、ちょっと後に鈍い打撃音が聞こえる。


「馬鹿。1人でも多く生き延びた方がに絶対良いに決まってるだろ。そんなこと言うな。」


「大丈夫。きっとカガリなら生きて帰ってくるよ。」


震える手を誤魔化して扉に手をかける。ゆっくりと手を捻る。最悪の事態を覚悟すると、そこだけの時間が無限に拡大されて永遠に扉を開ける時が来ないような気がして、それを否定するように手に力を入れる。


「誰だい、あんたら。」


扉を開けた先にいたのは、古こけた黒いローブを纏った老婆、さながら魔法使いのようだった。その強い語気からは若干の敵意が伺えた。


「まあいいさ、ここに上がりなさい。別にあんたたちをどうこうする気はないよ。」


「あ、ありがとうございます…」


俺は後ろの3人に目線を送ろうと後ろを向く。3人は安堵した様子で俺を見ている。


「あんたたち、この国の人間じゃないだろ?何も言わないから話してみなさい。」


かくかくしかじか。


「そうそう、先に儂について何か言わないと失礼だったな。儂の名前はローザ。国から追放された魔法使いさ。何でも儂が危険人物扱いされたそうでな。国の独立には協力してたつもりではあったが、ひどい国さ。そうさ、そこの少年さ、儂が魔法を教えてやるぞ。」


「え?俺ですか?」


「そうさ、お主からは儂にないものを感じてな。きっとお主はこの魔法を正しく使ってくれるはずじゃ。」


老婆はそう言うと、手から黒い球体を出現させた。黒という色に対して「美しい」という感想を抱いたのはこれが初めてだろう。気を抜いたら吸い込まれてしまいそうだ。


「このお守りを持って行きなさい。この場所では伝えたいことがあまりにも多すぎるからな。お主たちがこれを持っていれば、儂はお主たちがどこにいるか分かるからな。きっと死なないと約束してな。あと、この森の魔物は敵対しないように、儂が言い聞かせてあるから、普通の魔物なら敵対しないはずだから、気を付けて。」

「ああ、あと、もう一つ。この森から出たときに、『魔物に襲われた』と言いなさい。きっと無事に国を通り抜けられるさ。」


老婆はどこか物悲しそうにこちらを見て言った。

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