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すっぽんじゃなくて太陽の女神です  作者: 土広 真丘
番外編 -焔の神器とフルード編-
95/101

10.お前のためだけにいる 後編

お読みいただきありがとうございます。

 フレイムが返した答えは抽象的なものだった。


『俺がいずれ愛し子を得たら、〝特別〟の中でも最優先するのは愛し子になる。セインには絶対的な守りが必要。パッと察知したのはその二つだ。それで困ったんだ。愛し子を得れば、肝心な場面で俺はそっちの方へ行く。じゃあ、その時セインも守りを必要としてたらどうすんだってな』


 フルードには狼神を始め、まさに絶対守護神と言える神々がフレイム以外にも付いているのだが、その点は考慮外だったらしい。他の神がいるから大丈夫だろう、ではなく、弟である以上フレイム自身が守ることは確定事項だからだ。

 だが――確定事項であっても、愛し子を得れば、自分はそちらを優先するようになる。愛し子と弟、それぞれへの想い自体には順位や序列が無くとも、どちらも違うベクトルで大切であろうとも。どうしてもどちらか一方しか助けられない状況になれば、どちらの方に向かうかという点で、否応なく優先順序ができてしまうのだ。


『それで考えたんだよ。愛し子とセイン、どっちも俺が守り切るにはどうしたら良いかってな。答えは単純だった。俺が増えれば良いんだ』


 そんなトンデモ手段を思い付く神はフレイムくらいだろう。


『俺の方はいつでもお前を最優先にする。お前の意思と心に寄り添って動く。お前のためだけにいる』

「僕のため、だけに……」


 僕のお兄様、という言葉が胸中をよぎった。天界にいるお兄様がいつか愛し子の方に行ってしまっても、目の前のお兄様はずっと自分の元にいてくれるのだ。


『もしお前が嫌なら、どうしても必要な時以外は出て行かないし、最低限の干渉以外は控えて、極力邪魔にならないようにする。将来、お前に守護が必要なくなって、もう俺は不要だと思えば、そう言ってくれたら良い。そしたら分離して永遠に寝てるから……』

「嫌なわけないでしょう!」


 自分でも驚くほど大きな声が出た。山吹色の瞳が瞬く。


「邪魔だとか、言うに事欠いて不要だなんて……そんなこと思うはずがないじゃないですか。ずっと、ずっと一緒にいて下さい。離れるなんて、眠るなんて言わないで。僕のお兄様なのでしょう。お兄様さえ良ければ、このまま僕といて下さい、いつまでも」


 本心から訴えると、微かに息を呑む気配があった。数拍後、歓喜を帯びた声が落ちる。


『俺だって良いに決まってるだろ。ありがとう、セイン』

「お礼を言うのは僕の方です。お兄様……嬉しいです」


 フルードの体を包んでくれる腕に、優しく力が込められる。すっかり馴染んだお兄様の手だ。


『俺が絶対守ってやる。どんな時も、どんな相手からだって、お前を必ず守り抜いて幸せにしてやる』


 フレイムがここまでする、そしてここまで言うほど、自分には大きな守護が必要らしい。それは一体何故なのだろうか。フレイム自身も、生来の荒神の感で閃いただけで、具体的な理由は分からないという。

 だが、荒神の直感は外れないのだ。フルードには何か得体の知れない強大な脅威が迫っている。立て続けの悪夢の内容を考えると、付け狙われている、と表現した方が適切かもしれない。


『だから安心して聖威師の務めに邁進(まいしん)しろ』

「はい。頑張ります」

『よし、良い返事だ。ただ、地上にいる間に俺のことを話す時は、対外的には神器だっていう面を強調してくれ。どんな形であれ、神が何年も降臨してる状態なのは微妙だからな。神器であることの方を押し出して欲しい』

「分かりました。では、お兄様は焔の神器ということで通します。他の皆にもそうしてもらえるようお願いします。実際に神器と同化しておられる以上、それも間違いではありませんから」


 そう言えば天にいる方のフレイムも、コレは神器だと繰り返していた。神ではなく神器である、という体裁を保つためだったのだろう。そう察した時、そこでふと思い付く。


「あの……お兄様は僕が危険な時しかお出でにならないのですか?」

『そんなことはねえよ。基本的にはお前の中で大人しくしてようとは思ってるが……お前が俺を必要としていたり、一言呼んでくれれば、いつでも出てく。こうして起きた以上、こっちから声をかけることもあるしな。もちろんお前の邪魔にならない範囲でだが』

「では、時々で良いので食事やお菓子を作ってくれますか?」

『分かった』


 凄まじい豪速球で即答が返って来た。


『時々なんて言わず、毎日でも良いんだぜ。お前が言うことは何だって叶えてやる。そう、何だって』

「ありがとうございますお兄様、嬉しいです!」

『何かあれば遠慮せず言ってくれ。あと、現実世界のことなんだが。ライナスが客室に帰って来てな、お前の異変に気付いた。どうにか助けようとしてる。意識を戻してやるから、もう起きた方が良い』

「ライナス様が……分かりました」

『今言ってた飯とか菓子とかは、いつでもどれだけでも作ってやるからな』

「はい、よろしくお願いします!」


 ――フルードは将来、この時のことを思い出して幾度も悔やむことになる。何故自分は、呑気に食べ物のことなんかお願いしていたのだろうかと。

 最初手となるこの段階でカウンターを打ち、はっきり要請しておくべきだったのだ。お願いですから加減とか限度とか遠慮とか常識とか、その辺の概念を身に付けて下さい、と。


 フルードを守るためなら何でもする、フルードの幸せと意思と心だけを基準に行動する化け物。自分の世界をフルードとそれ以外に分けるのではなく、フルードしかないトンデモお兄様。

 その意味を、未熟な自分は何も分かっていなかったのだ。


 この時の自分はただ、これからもお兄様の手料理が食べられることを無邪気に喜んでいた。

ありがとうございました。

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