9.お前のためだけにいる 中編
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「……え?」
『いや、言い方が分かりにくいな。正確に言えば、俺はあの神器と同化して、神器を依り代にして地上にいる。そして、俺を宿した神器が、さらにお前の魂に宿って一体化してるわけだ』
「神器と同化して依り代に――どうしてそのようなことを?」
『地上でも遠慮なく力を振るえるようにだよ。神は地上では神威を抑制するのが原則だから、降臨中は補助として神器を用いることがあるだろ。それと同じだ。いざという時に力を抑えててお前を守れませんじゃ意味がないからな』
そう言うフレイムは、確かに自身の神威を抑え込んでいる。先ほどガルーンの形をした靄を撃退したのは、剣型に変形させた神器の力だ。
「ですが、神の降臨は単発かつ短時間が基本では……?」
『そこで神器を隠れ蓑にするんだよ。俺は神器と一つになってるから、神でありながら神器でもある。神器なら地上にも在れるだろ。だから、神として降臨してるんじゃなく、神器として下にいるって体裁なんだ』
そんな無茶苦茶な屁理屈が通用するのか。無理があるというレベルではない。そう思うフルードだが、フレイムによると、そもそもそんなハチャメチャな手段を取って降りた神自体が前代未聞なのだという。前例がないがゆえに、駄目と決め付けることもできない。
『セインが昇天すれば、当然一体になっている神器も天に還る。神器と同化している俺ごとな。逆に言えば、セインが地上にいる間は、神器と俺も一緒にくっ付いて滞留してるわけだ。だから、俺は常にお前と共にいる』
といっても、実際はフレイムの意思一つで、神器との分離や再同化は自由にできるらしい。フルードと神器の同化を解いたり、再度一体化させることも可能だと言う。
「そういえば、火神様が焔の神器をご覧になられた時、慈しみの目を向けておられました」
天界での修行を終えて地上に戻る前、火神にも挨拶をした。その際、フルードの中に宿った神器を視た火神は、『我が御子神フレイムがもう一柱いる』と言い、愛おしげな眼差しを向けていた。
『俺はそん時寝てたから気付かなかったけどな』
「お兄様を完全複製したのが焔の神器だとお聞きしました」
『それは俺のことだ。さっきも言った通り、俺は神器と一つになってるから神器そのものでもあるわけだしな』
いつでも任意に分離できるとはいえ、同化している状態の時は神であり神器でもある。
「では、お兄様は僕を導いてくれたお兄様ご自身なのですか?」
分かり辛い質問だが、フレイムはニュアンスを汲んでくれた。
『答えとしてはイエスだな。俺は間違いなく焔神フレイムで、お前のお兄様で指導神だ。お前との思い出も記憶も全部持ってる。だが俺は、お前が指すお兄様――天界にいるあっちの俺とは別の個体として独立してる』
「……お兄様が二柱に増えたということですか?」
『その表現が一番適切かもな。俺が顕現した瞬間、俺とあっちの俺で焔神の神格は自然に細分化された。あっちの俺は真焔神、俺は正焔神』
「せいえんしん……僕とおそろいですね」
フルードの神格も清縁神だ。人間の言語上の話であっても、音が同じだということが嬉しかった。そう告げれば、フレイムは物凄く嬉しそうな顔をしてくれた。
(説明上では複製という言葉を使っていたけど……このお兄様は、天にいるお兄様の偽者でも模造品でもない。正真正銘の、本物のお兄様なんだ)
他ならぬ神格がそれを証明している。真焔神と正焔神。どちらも真正のフレイムなのだ。だからこそ、神格も自ずとそのように分かたれた。複製や複写という単語を用いてはいるものの、実態としては『本物が二柱に増えた』ということだ。
「でも、どうしてそこまでして下さるのですか?」
愛し子や宝玉、家族神といった〝特別〟のためとはいえ、自身を増やすという奇想天外な手段を用いた神など聞いたことがない。そんなことをすれば、例えば愛し子と宝玉と複数の家族神を持つ神は、いちいち〝特別〟の数だけ自分を複製するのかという話になってしまう。
『直感かなぁ。脳裏に雷が落ちるように、二つのことを閃いたんだよ』
ありがとうございました。




