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すっぽんじゃなくて太陽の女神です  作者: 土広 真丘
番外編 -焔神フレイムとフルード編-
82/101

82.番外編 優しいだけでは㊸

お読みいただきありがとうございます。

本日2話目の投稿です。

 ◆◆◆


『我が愛しき御子神フレイム。そなたに密命を授けたい』


 そう告げる声を受け、フレイムは神妙な顔をしていた。

 目の前に座すのはフレイムの母であり四大高位神の一柱たる火神。正式な神格は原火神(げんかしん)だが、通常は単に火神で通している。


 フルードが召し出しを終えて神官府に戻ってから、もう16年ほどが経過していた。年月は光陰矢の如く過ぎ去り、地上の暦は統一暦3014年9の月を迎えている。


『このたび初となる神使選定の試みにおいて、我が神使に相応しい霊威師がいないか探して来て欲しい』


 現在、天界でも地上でも史上初となる試みが行われていた。神々に直接神使を選ばせるというものだ。昇天した霊威師は神に仕える神使になるが、どの神に割り振られるかは四大高位神が決めていた。

 しかし今回初めて、神々に自分で選ばせてみようということになったのだ。


 神が地上を眺めて気に入った者を見付けるか、神の代理として降臨した使役が良い霊威師を探すかして、見出した者がいれば神使として指名する。

 フレイムは火神の使役として降臨して欲しいと言われたのだ。


 火神の言葉に、同席していた姉神と兄神が一斉に異論を漏らす。フレイムは既に高位神であり神使ではなくなっている。にも関わらず使役の真似事をさせるのか、と。

 納得がいかない様子御子神たちを宥め、火神は重ねて説明した。


『最高神の使いを選び出す重要事は、通常の使役には任せられぬ。こたびが初めてであればなおのこと。信頼面及び実力面で申し分なく、使役の経験もあるフレイムにしか任せられぬ。フレイム、一時的にで良いのだ。神格を抑えて地上に降り、今一度我が神使として動いてはくれまいか』

『承りました』


 フレイムは首肯し、母神の申し出を受諾した。

 だが、それだけでは終わらなかった。


『フレイム。密命はもう一つある』


 姉神と兄神たちが退室し、母神とフレイムだけになったところで発された言葉だ。


『もう一つ、ですか?』


『ああ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 場の空気が変わった。フレイムは小さく息を呑む。


『内容は――』


 語られることを聞き、静かに叩頭した。


『承知いたしました。確かに拝命いたしました』


 ◆◆◆


『さぁて、じゃあ行くか』


 天界から地上を見下ろし、フレイムは呟いた。自身が降臨することは、聖威師には伏せることにした。従って、通常の使役のように直接神官府に降りるわけにはいかないため、子犬の姿を取って密かに地上に降りるつもりだった。


 自分の従神たちには、下界にいるこちらの様子は確認するなと言ってある。精霊時代の親友である彼らは、フレイムに何かあればすぐに駆けつけようとするからだ。

 仮定の話、地上で神格を出して暴れれば察知してさすがに確認するだろうが、そうでもなければこちらのことは視ない。


 地上は雨が降っていた。あの子をこの腕の中から巣立たせた日に降っていた霧雨よりも大きな粒の、重く冷たい雨だ。


(セイン)


 脳裏にフルードの姿が浮かぶ。神官府に行けば、あの子に会える。召し出しを終えた後も幾度か見えたことはあったが、そう頻繁に機会があるわけではない。最後に会ったのはもう10年以上前だ。ずっとずっと気になっていた。どうしているだろうか、元気にしているだろうかと。いや、確実に無理をしているはずだ。


 だが、今までは我慢して視ないようにしていた。何故なら、定期的に様子を確認しに行く狼神が、そのたびに嘆きながら戻って来るからだ。あの子は本当に無理をしている、とてもしんどそうだ、苦しいことや辛いことが多いのだろうと言って、我が事のように悲しんでいる。


 それを目の当たりにしていたので、フレイムはフルードの姿を確認することを必死で我慢していた。傷付きながら進んでいるあの子を視れば、その心を無視して力ずくで連れ帰ってしまうかもしれなかったからだ。だが、できるところまであの子の思うままに進ませてやりたいという心も残っていたため、あえて視ないようにして耐えていた。


 本当にあの子が限界になれば狼神が無理矢理にでも連れ帰るだろうし、あの子に授けた神器もフレイムにタイムリミットだと知らせて来る。そこで万一狼神が動かなければ、フレイムがフルードを迎えに行くつもりでいた。あるいは神器が自発的に動いて昇天させるかもしれないが。


 だが今回、二つ目の密命を授かったことで、その姿を確認せざるをえなくなった。


『焔神様。行かれるのですかな』

『狼神様』


 噂をすれば何とやら、狼神が現れた。


『どうしたんです、見送りにでも来て下さったんですか?』

『ええ、そんなところです』


 柔らかに目元を細め、狼神が地上を見下ろした。


『あなたの目でもセインを見て来てやって下さい。その上でご判断を頼みましたぞ』


 灰銀の毛並みをなびかせながら言う狼神。今の台詞を聞くに、フレイムが受けた二つ目の密命を何故か知っているようだ。地上に愛し子がいる神なので特別に教えられているのか、あるいは独自の情報網があって知っているのか。


『…………』


 フレイムは横目で狼神を見た。彼は、最高神の次に顕現した最古参の神々の一柱だ。煉神や運命神、時空神と同等の星霜を経て来た、太古の神。その底は計り知れない。フルードや聖威師、フレイム、嵐神といった若い神に振り回されているのは、表面に見せている部分だ。その奥にある本質は常に揺らがず、どこか空恐ろしい。


『ずっと思っていたのですが、あなたは随分と俺を信用していらっしゃるんですね。自身の最愛である愛し子を、何度も何度も俺と共有したり、時にはほとんど俺に任せたり。もっと自分の掌中に抱え込むものではないんですか?』

『普通ならばそうでしょうなぁ。しかし……実を申しますと、焔神様。私はあなたを愛し子にしようと、密かに考えていた時期があったのですよ』

『――え?』

『ふふ……あなたがまだ精霊だった頃のことです』


 思いもよらない言葉に、フレイムは瞬きした。

ありがとうございました。

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