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すっぽんじゃなくて太陽の女神です  作者: 土広 真丘
番外編 -焔神フレイムとフルード編-
68/101

68.番外編 優しいだけでは㉙

お読みいただきありがとうございます。

 ◆◆◆


「何だ、何が起きている?」


 当波は走りながら空を見上げた。だが、自分が注意を向けねばならないのは上ではなく前だ。


『我は最強の存在となった――神の力を手に入れたのだからな! ようやく我が悲願を達成できる!』


 高位神の神器を取り込み、神官府を超速で駆け抜ける妖魔が歓喜を帯びた声で宣言する。右腕を掲げると、帝国と皇国の領土の大部分を灰燼(かいじん)()すほどの力を込めた妖気が(てのひら)に宿った。取り込んだ神器で力が桁外れに増幅されている。


「待てっ、止まれ!」


 追走する当波が聖威を練り上げ、雷撃を放つ。彼の得た神格は鳴神。雷神に属する神だ。聖威は基本的に万能な力であるため、水でも火でも治癒でも使用可能だが、最も得手とするのは当然神格に対応した雷系統の技である。


『邪魔をしないでくれ!』


 妖魔が振り向きざまに左手を一閃し、雷撃を防いだ。


『妻子の仇だ、慌てふためけ人間ども!』


 上に打ち出された凄絶な妖気は、所詮は神の(まが)(もの)に過ぎない力。現在進行形で天空を駆け回っている正真正銘の高位神たちに届くことはなかった。だがそれでも、両国の大半を壊滅させるには十分な威力を持っている。その気は都の上で弾け、弾丸の豪雨と化して眼下の街並みに降り注いだ。


「やめろっ!」


 顔色を変えた当波が疾駆しながら腕を振るって聖威を放ち、低空一面に巨大な結界を張った。走り続ける妖魔の前に転移で回り込みたいが、取り込まれた神器が防壁を張っているらしく、上手く奴に近付けないのだ。


『止めるな、もう少しなんだ! ――我が力よ、結界を破れ!』


 妖魔の号令に呼応し、妖気が光を放った。一斉掃射のごとき勢いで叩き付けられる妖弾と聖威の盾が激突し、凄まじい轟音が炸裂する。結界がひび割れ、力が破られる反動を食らった当波が顔を歪め、胸を抑えて呻く。


「つっ……やはり聖威では駄目か……!」


 神器に宿るのは神威だ。一方の聖威は神威の欠片――すなわち不完全な神威。完全なる力に及ぶはずがない。

 それでも当波たちのように、選ばれし神に見初められた特別な愛し子であれば、得られる神格は高位神のそれだ。抑えているとはいえ本性が高位神であることから、聖威も強力であり神威に近い。ゆえに、通常の神の神器相手であれば聖威でも力押しで対処できることが多い。


 しかし今回は、同じく高位神の神器が相手だ。選ばれし神の寵児であれど、聖威では対応が厳しい。

 過去にも、色無しの神の加護しか得ていない通常の聖威師たちが、高位の神の神器を鎮める中で力尽き、落命して昇天したことがある。


 しかし、当波は焦らない。自分たちが持つものを駆使すれば、例え高位神の上級神器が複数相手であっても無問題だからだ。大いなる力を解放するように、体内に眠る力を喚び起こす。


「――我が主神よ、お力をお貸し下さい」


 空が(かげ)った。バチバチと低い音を立てる雷雲が立ち込め、あれほど晴れ渡っていた蒼穹が、瞬く間に黒い雲に覆われる。フレイムたちが戦いながら一瞬だけ天を見上げ、次いで地上の当波に目を移す。同胞たる当波が万一危機に陥った時は救援するつもりで、意識の一部を傾けているのだ。


「出でよ神獣!」


 当波の掛け声と共に、その優美な肢体から迸った稲妻が爆発し、自身の主神であり選ばれし高位神でもある雷神より賜った神器が顕現した。それは十の頭と十の尾を持つ弩級(どきゅう)の大蛇の姿を取り、当波を守護するようにその尾の一つで彼の身を取り巻いた。全身に纏った雷が火花を散らし、20対にも及ぶ眼が妖魔を睨め付ける。


『はぁ!? な、なっ……!』


 絶句する妖魔を指差し、当波が命じる。


「あの妖魔を滅せよ! ただし標的以外には被害を出すな」


 雷神の神器が纏う稲妻が激しさを増した。十の頭が一斉に顎を開き、口内から雷光の神威が溢れ出る。尾の一本が伸び、妖魔を拘束するとポイと宙高くまで放り投げた。


『ぎゃあ!? ま、待って……待って下さい!』


 中天を舞う妖魔が、打って変わって弱腰で懇願する。


『我の妻と幼い娘は、妖魔を研究する人間に急襲されて殺されたのです! 人間たちにどうしても仇討ちがしたくて神器を盗みました!』


 涙声で、これまでの経緯を必死に話し始める。


『ですが人間たちを殺すつもりはなく、突然襲われ攻撃されるという妻子と同じ状況を味わわせて、一杯食わせられればそれで良かったのです。神器は後で返そうと思っていましたし、先ほど都に落とした力は人間に当たっても無害なように設定していました。妖気の残滓でも何でも調べてもらって構いません!』


 真剣なその顔は、とても嘘を言っているようには見えなかった。


『ただ人間たちの鼻を明かせるだけで良かったのです! ど、どうか話だけでも聞いて――』


 が、当波は一切の躊躇なく告げる。


「死ね! ――やれ神獣!」


 血も涙もない死刑宣告に従い、雷神の神器が咆哮(ほうこう)と共に攻撃を打ち出した。


『ギャアアァァァッッ!!』


 端的に言えばオーバーキルである。末期の絶叫と共に、妖魔は取り込んだ神器ごと上空で爆散した。


 ◆◆◆


 同時刻。天から状況を眺めた雷神がこう呟いていたことを、当波は知らない。


『うぅむ……何だか地上の空がすごくややこしいことになっておる気がするのだが……。同格の神同士が、自身に強力な目眩しをかけた上で半端に神威を抑えて出会ったため、互いの正体に気付けず認識もできないで喧嘩している状況のような……。ここはいったん停戦し、もう少しだけでいいから神威を解放して、落ち着いて互いを視てみれば全部解決するはずなんだが……』

ありがとうございました。

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