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すっぽんじゃなくて太陽の女神です  作者: 土広 真丘
番外編 -焔神フレイムとフルード編-
67/101

67.番外編 優しいだけでは㉘

お読みいただきありがとうございます。

 ◆◆◆


 恵奈は聖威を用いた俊足で神官府を駆けていた。


「一体何が起こっているの」


 上空でぶつかり合う(いく)つかの力。あれは妖魔のものではない。


「フルード神官は――まさか大怪我でもしていたりは」


 神官たちを落ち着かせながら人気のない場所に行き、フルードの居場所を探ろうとした時、ポンと肩を叩かれた。全く気配を感じなかった接近に身構えながら振り向くと、ローブを纏った人影が佇んでいる。


《やぁ》

「……どなたですの?」


 押し殺した声で誰何(すいか)すると、相手は目深にかぶっていたフードを少し上げた。


「あ……!」


 恵奈の整った双眸が見開かれた。


 ◆◆◆


 同時刻。混沌となった帝城の神官府の付近に、虹が二つ舞い降りた。


紺月(こんげつ)太子、これは何事だ」

「なーんかすごいことになってるねぇ、秀峰(しゅうほう)兄上」

「今は黇死(てんし)太子と呼べ」


 爆光と爆音、そして振動が連続で発生している空と大気を見上げ、秀峰とティルはそろって首をかしげる。


「あいにく、私とそなた、高嶺(こうれい)以外の天威師は別の務めの最中だ。動くなら私たちだが……」

「けどさぁ、これ天威師が出る案件かな? だって神が関与してはいるけど、地上に被害が出てない」

「……これから被害が出るという見込みならば立つのではないか? 今のところ、神威の衝突は何もない空で起こっているから良いものの……地上に当たれば皇国と帝国の全土が更地(さらち)になる」


 現在、フレイムたち四神は己の神威のほとんどを抑え込んでいるが、それでもこれだけの力を発揮できる。選ばれし高位神なのだから当然だ。


「理論上の威力はそうだね。でも現実的にそうなることはない。だってあの神たち、仮に自分たちの力が地上のものに当たっても傷付けないように設定して放ってるよ」


 兄上も気付いてるから歯切れが悪いんだよね、とティルは言った。秀峰は答えない。無言の肯定だった。


「空でぶつかり合ってるのもわざとっぽくない? 地上のものには無害になるようにしてても、鎌鼬や炎や衝撃波が自分の方に向かって飛んで来れば、人や獣はパニックになって逃げ惑い怪我をする。それを防ぐために、全部上空でケリがつくようにしてる気がする」

「それは……私もそう感じるが」


 天の神々は地上と人間を見捨てかけている。だがそれでも、フルードや当真、アシュトンが愛し守ろうとしている世界を、なるべく傷付けないように配慮しているとすれば。


「うぅん、神が怒ってるってより喧嘩だし。地上に被害が出ることもなさそうだし。これは俺たちの出動案件とはちょっと違うかもなぁ。範囲外の分野で下手に動いたら、最悪俺たちが祖神に強制送還されちゃうよ。そうしたら元も子もなくない?」


 なお、神器に関しては、妖魔が勝手に奪って取り込んだだけで神自身や神の意思が関わっているわけではないので、天威師の出動範囲には当たらない。天威師は神が直接関与している事柄に対して動くためだ。従って、神器に関しては天威師ではなく聖威師が担当する案件となる。


 ティルが唸り、秀峰が難しい顔をした時。


《秀峰兄上、ティル兄上、大変です》


 高嶺からのんびりした声で念話が入った。


《高嶺、いかがした》

《どうしたの高嶺ー?》


 即座に応じる二人に、高嶺はおっとりと言った。


《始まりの神器が()まりました》

《《は?》》

()の神器が木の枝で寝ていたところ、枝が折れて落下し、ちょうど下の地面に開いていたくぼみに尻がすっぽりはまって抜けなくなりました。どうすればいいでしょうか?》

《はあぁ!?》


 秀峰が眉を寄せる。


《最近また太……丸くなって来ていましたから、枝が耐えられなかったのでしょうか》


 呑気な口調で推測する高嶺の声を聞きながら、秀峰とティルは遠視を発動した。

 視えた光景の中で、高嶺が佇んでいる。その眼前で、地面に見事に尻をめり込ませた巨大な紅色の鳥が、白目を剥き唾を飛ばし、四肢をバタつかせながら奇声を上げていた。力を放出しているらしく、紅の光がバチバチと弾けている。


《ギッ、ギャアアァキュエエェェ! グケエエェェイ!》


 完全に混乱状態に陥っている。


「なっ……なんだこれはあぁぁ!」


 血相を変えて叫んだのは秀峰だ。


《何ということだ、今は日香がいない時なのにショック死でもされたらどうする! この神器に万一のことあらば我ら天威師は地上にいられなくなるのだぞ! そうなれば地上と人類は即座に滅亡し神罰牢行きになる! 分かっているだろう高嶺!》

《はぁ》

《何だその心からどうでも良さそうな返事は!》


 一方のティルは腹を抱え、涙目で爆笑していた。


「ふ、ふふふ……あっはっはっはっはっは、ケツがハマって……ケツが……」


 何かがツボったのか、息も絶え絶えで笑い転げている。


「笑っている場合ではない!」


 秀峰がティルを引きずって皇宮に転移した。自身の神格である死神の鎌を召喚してザックザク地面を掘る。


「早く救出しなくては! 下手に天威を使って始まりの神器の力と競合したらまずい、地道に掘り出すぞ! 今後このバカ鳥……日香二号はどこかに軟禁しておくべきだ!」


 地にめり込んだ始まりの神器を指差して爆笑するティルが、涙をぬぐいながら言った。


「あははは……で、でもさー、そしたらストレスで元気無くなって……ふふ、それはそれでヤバい感じになりそうじゃん……ははっ」

「そ、そうかもしれぬな……というか本当に怖いくらいピッタリ穴にハマってるな、このバカ鳥……いや、とにかく今は掘れ、高嶺お前もだ!」

「はぁ」

「今くらいやる気を出してくれ頼むから!」

「秀峰兄上が仰るならば」

「はっははは……仕方ないなぁ、俺も掘るよ」


 そうして三人がかりで掘りまくる天威師たちの頭から、神官府で起きている騒動は綺麗さっぱり消え去っていた。

ありがとうございました。

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