9
ナイスタイミングで部屋のドアがノックされた。
振り向くと、仏頂面のダリアが紙袋を持って立っていた。
「あ、ダリア……さん」
「きもちわるいからいつもみたいにダリアって呼びなさいよ」
とダリアは紙袋から焼き菓子を取り出した。
「いるならあげる」
商店で買ってきてくれたみたいだ。
「ありがとう、ダリア」
焼き菓子を受け取りながら、俺は気持ちを落ち着かせてダリアに声をかける。
「ていうか、ごめん。あの……ダリアに言いたいことがあって」
ダリアは一瞬ためらった後、俺と目を合わせた。
「謝りたいんだ。前に嫌な思いをさせたと思うから……その、服のこととかで。失礼なことをしてしまって本当にごめん」
ダリアは目を見開いて、俺を指さしながらローハンを見た。
「……変なキノコでも食べたの?」
「いや。でも、どうやら記憶がないらしい。エルフの攻撃を受けてから」
「ふーん……」
ダリアは納得したようなしていないような表情で、ベッドの端に腰掛けた。
中身が十代男子高校生の俺は、もうそれだけでドキマギしてしまうわけですが!
「それで? 私が怒っていると思ってわざわざ謝ってるの? 記憶がないのに?」
「うん」
「バカじゃないの」
ダリアの言葉はストレートだった。
「やった覚えがないくせに、謝り損じゃない」
ダリアの強いまなざしが俺をキッと見据える。
もう、この人が僧侶なんて嘘だろ。
女戦士じゃん。騎士の目じゃん。
俺は鷹に睨まれた蛙のようにじっと息を殺す。
ダリアはため息をついた後に言った。
「許してあげるなんて言わない」
そう来るかー!
俺は「はい」と小声で敗北を認める。
もうね、過去の俺を引き裂いてやりたいよね。
「……でも」
ダリアがかすかに微笑んだ。
「今日の晩ご飯は4人で食べに行こっか。たまにはね」
お?
まさかの逆転ホームランか!?
よ、よかった……
とりあえず、僧侶との地平線が見えるくらいまで離れていた距離は少し縮まったようだ。