8
装備を調えると、カランは見違えた。
新しい武器と防具、そして洗練された衣服に身を包んだカランは、まるで別人のように見えた。
今までが今までだったからなあ……。
「ん? そういえば髪も伸びているな。眼鏡もとってしまったほうがいい」
「え、え、あの」
「ん? これ、度が入っていないな」
「あ……昔悪い人に連れ去られそうになったことがあって、それからかけてるんです。僕の瞳、珍しい色だから目立たないようにって。でも、もういいです」
もう自分で自分を守れるように、強くなります!
とはにかむカランのいじらしいこと。
その場のノリで美容室へ連れて行った俺は、カランを置いて店員に金を渡した。
終わったら宿屋に来るように伝えたから、きっと大丈夫だろう。
「さ、じゃあ、俺たちは宿屋で待ってようか」
「ああ……」
出店のドリンクを買って、宿屋にチェックインする。
「勇者ご一行様ですか」
宿屋の主人の値踏みするような視線を感じながら、ローハンの背後にさりげなく隠れる。
これは、勇者だから注目されてるのか、数々の悪行が知れ渡ってるのか、なんとも微妙なとこだな……。
「3部屋……」
とローハンが言いかけたけど、止めた。
男部屋と女部屋の二部屋でいいだろう。
「いや、2部屋。ベッドは人数分置けるか?」
「はい」
じゃあ、問題ないな。
ローハンは俺をしげしげと見てきた。
いや、無駄な金は要らないだろ?
節約大事。
部屋に入って荷物を置くと、どっと疲れが体にやってきた。
緊張していたみたいだ。
「正直驚いた」
と、ローハンがぼそりと言った。
「エルフの聖女が言っていた。死を意味する呪いだと」
どうやら、俺は相当にまずい行いをしていたらしい。
エルフの聖女、シルフィア。
彼女ははエルフの森で生まれ育った優美な女性だった。
彼女の美しさは森の中でさえも際立ち、その気品ある姿勢は周囲を魅了していた。
しかし、ある日、森の村を訪れた勇者が言った。
「ほお。上玉だな。どうだ、一晩」
聖女は怒りに顔をゆがめて警告した。
「我々エルフは決して侮辱されることを許しません。無礼を訂正しなさい」
と彼女は冷徹な声で言ったが、勇者は……やめなかった。
それどころか開き直り、
「なんだ、これくらいで怒るのか? こらえ性が無いな」
聖女の怒りは炎のように燃え上がり、彼女は勇者に対して復讐を決意した。
森の力を司る聖女は力強い魔法を身に纏い、誇り高き反撃の準備を整え、そして言った。
「私を侮辱した者に最後の警告です。誠心誠意の謝罪をしなさい」
「挨拶だろう? これくらい。それにお前もまんざらでもなかっただろ」
そして、聖女の怒りは勇者に痛烈な打撃を与えた。
死をもって償いなさい、と呪われた勇者ルクスはぱったりとその場に倒れた。
そして、目を覚ますと……ということらしい。
聖女の呪いは成功したのだろう。
勇者は死に、その容れ物に俺が入ったのだ。
「ローハン。相談があるんだ」
「……今のルクスには、そう呼ばれても違和感がないな」
正直思うところはあるのだろうが、ローハンはきちんと俺に向き合って話を聞いてくれた。
やっぱり、いい奴だよなあ、ローハンって。
「カランのことだ」
「ああ」
「あの子をどうするかなんだが……」
ローハンは顔を曇らせた。
「ここまで肩入れしておいて、置いていくとでも言うのか」
「いや、それはあまりにも酷だろう!? 犬猫じゃないけど、拾ったものは最期まで、拾った子どもは俺たちが面倒みるのが筋なんじゃないのか!?」
「……お前、本当に変わったな」
厳格なイメージのローハンに『お前』と言われたのが初めてだったので、俺はなんとなくドキッとした。
もしかしてちょっと仲良くなれたかも?
そんな照れを隠しながら、俺はカランの話をした。
「カランはまだレベルが低い。だからしばらくは俺たちが守りながらレベルをあげていく。だけど将来的には、戦力になってもらうつもりだ。というか」
「というか?」
「ゆう……あ、いや」
まずい、ここで、カランを勇者にする! とか言い出したら、いよいよおかしくなったと思われそうだ。
「ゆう……有名になれるくらいの腕前を身につけさせたいと思っている」
「そうだな。カランは強くなれる。もう少し食べさせないといけないな。それに何より、自信をつけないと厳しい。自分のことをお荷物だと思っている」
まあ、現状『お荷物』以外の何でもない。
そして『お荷物』をおそらく、勇者ルクスはエルフの村かどこかの街に置いていこうとしたのだろう。
しかし、俺が転生したからには、そんなことはさせない。
「カランは故郷を無くしてつらい思いをしてきたんだ。無駄に苦しい思いや辛い思いをこの先しなくたっていいと思う」
カランをパシリに使いまくっていた勇者が言うのも何だけど。
でも、あの子には幸せになってもらいたいと俺は思う。
「だけど、あの子は自分で自信をつけなきゃだめだ。ローハン、カランには何か適正があるんだろうか」
「鑑定スキルを使えば、おそらくは見ることができるが……俺には無理だ。赤魔道士は攻撃魔法に特化しているからな。鑑定スキルはダリアだ。でも……」
「俺は嫌われてるからな」
苦笑すると、ローハンは一緒になって眉毛を下げる。
「セクハラに辟易していたからな」
「誰の?」
「……ルクスの」
「え!? 俺!?」
「自覚はないのか?」
「……ごめん、ローハン。俺、エルフに攻撃される前の記憶がおぼろげにしか無いんだ。怒らないから、俺がやってきたことを少しずつ教えて欲しい」
ローハンは肩をすくめて言った。
「まあ、いろんなことをやったさ。蜘蛛の魔物の巣窟を探索したり、あの巨大な首長竜との戦ったり、水獣退治をしたり」
「いや、そうじゃない、そうじゃないんだローハン。あの、……その、功績とか、そういうのもゆくゆく知りたいけど、主に俺がその……やらかしたというか」
「やらかした?」
「ないならいいんだけど……」
「たとえばダリアに『お前はそんなに可愛くないな。ブスなんだから少しは露出しろ。ましになる。あ、断ったらパーティークビ』と言い放ったこととか」
「はぁ!? 俺そんなこと言ったの!?」
ローハンはかわいそうなものを見る目をしている。
「そして、一度は拒否したダリアに、『クビになったら報奨金もないな。お前の出身の修道院もかわいそうだ。金が無くていよいよ潰れそうなのに』と追い打ちをかけた」
もう言葉がない。
「街だの村だので、こうして宿に二人でいることも久しぶりだ。ルクスはすぐに女を宿に呼んだから」
「えっ!? 女? 宿?」
「『邪魔』にならないように俺たちはいつも部屋を3つとっていた」
えっえっ邪魔ってそういうこと!?
ていうか俺、何してんの!?
ナニしてんの!?
羞恥と混乱の極みにある俺を、ローハンが生暖かいまなざしで見てくる。
いや、もう人としておかしいだろ……。仲間がいるのに、そんな……。
自分で自分を殴りたい。
「で、他には……」
「あっごめんなさい待って、これ以上は俺のメンタルが持たないからまた今度にして、ローハン」
すると、ナイスタイミングで部屋のドアがノックされた。
振り向くと、仏頂面のダリアが紙袋を持って立っていた。