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悪徳勇者の悪あがき  作者: 丹空 舞
6/11

森を抜けて街に到着した俺たちは。賑やかな雰囲気に驚いた。

道路には色とりどりの看板が立ち並び、人々が行き交う中で活気にあふれていた。建物は大小様々で、古びた石造りの建物から洗練された木造の店舗まで、様々なスタイルが混在していた。


「ミザティッレの街へようこそ」

案内所のお姉さんがそう言って微笑んだ。


勇者の中のチキンハートが火をふく。

俺はスッと目線を外して遠くを見る。


女性と話すとか無理。

知らない女性なんかもっと無理。


お、広場がある。

広場に行こう。

さようなら、おねぃさん。


「ルクスが女性を口説かない!?」

ローハンが驚愕していたが、まあそれはいい。


市場広場では、野菜や果物、新鮮な魚介類が並ぶ屋台がずらりと並んでいた。購買希望者たちが賑やかに声をかけ合い、交渉を重ねていた。色とりどりの食材が並ぶ光景は、目にも鮮やかな絵画のようであり、俺たちもその活気に引き込まれていった。


通りの隅々には、楽器を演奏する音楽家たちや、腕利きのパフォーマーが集まって観客を楽しませていた。

その音楽やパフォーマンスの賑やかさが、街全体に響き渡り、一体感を生み出していた。

うーん、こういうのもいいもんだな。


「勇者様ですか?」

と、すり寄ってくる露出の高いお姉さんたちに会釈をする。

応援ありがとうございます。

アイドルのプライベートってこんな感じなんだろうか。


おねぃさんたちの猛攻が嫌で、早足になると、ローハンが

「どうした!?」

と叫んだ。


どうもしてないよ……。


ダリアさんはいつの間にかいなくなっていた。

買い物が好きらしい。

後で宿屋で落ち合うのだとローハンが教えてくれた。


商店街には様々な店が軒を連ねていた。武器屋や魔法道具の店、衣料品店、飲食店などが入り混じって見ているだけでも楽しい。

各店の前には商品の展示がされ、興味津々の人々が覗き込む姿が見受けられた。


人々の声や笑い声、楽器の音色、魔法の輝きが交錯し、市街は活気に満ちていた。

ここはまさに、様々な人種や職業が交流し、新たな出会いや冒険を求めて集まる場所だった。


そんな中、勇者、俺。

心の奥底で、思いっきり緊張していた。

ローハンが案内してくれる通り、武器屋についたのだ。


「いらっしゃいませ! 新しいお客さんですか?」

武器屋の主人がにこやかに迎えてくれた。

しかし、どこか優しい雰囲気がある反面、尋常ではない力強さも感じられた。


「あなた様は、もしや」

ローハンや俺をみて顔色が変わる。

なんとなく、居心地が悪い。

良い噂、悪い噂、どっちが届いているんだ……。


「そうだ。貴殿の店で武器を見つけたいんだ。この子に。特に、初心者向けのものがあるか?」

ローハンが尋ねると、武器屋の主人はうなずいた。


よかった、ローハンがいてよかったぁ……。

俺の心の中のロリ少女がふえぇぇんと泣き出す。


「初心者向けですね。ちょうど良いものがありますよ。こちら、簡単な扱いで力を引き出しやすい剣です。」

主人は短剣のような剣を差し出した。その刃は鋭く、扱いやすそうな感じがした。

カランがこわごわと手に取ってみている。


「これはどうだろう? 君にも使いやすいはずだ。」

ローハンがカランに微笑みかけた。


「ほんとうに使えるんですか?」

カランは短剣を手に取り、不安そうな顔をしていたが、それでも顔を上げてローハンに訊ねた。


「もちろんだ。最初は不安かもしれないけど、慣れてくるさ。」

ローハンの声に少し勇気が湧いたのか、カランは短剣を握りしめた。


「じゃあ、これにします!」

カランはにっこりと微笑んだ。


「あ、でも、お金が……」

カランが残念そうに言った。


ローハンが俺を試すようにじっと見る。

なんだ、ここで意地悪したら人として最低じゃないか。

そんなこと……と思いつつ、前の勇者ルクスならここで思いっきり最低行為に及んでいただろうと察して、俺はため息をついた。

カランが泣きそうになる。


「あ、ちがうちがう。あー、その、カラン。俺たちはもう、パーティーだろう?」


追放なんか絶対させないからな!

安心しろ!


「大丈夫だよ、カラン。お金のことは俺が考えるから」

俺はにっこり笑ってカランに言った。


「そうだ、カラン。君は仲間になったんだから、お金の心配はいらない。今回の旅は共に進む者同士、助け合っていくんだ」

ローハンも同意して頷いた。

よし! ナイスローハン!


カランは微笑みながら頷いた。

「ありがとう、ゆ、勇者さんたち」

「ほら、その勇者さんってのも、やめてくれ。ルクスでいい」

「え!?」

「はぁ!?」

「カランはともかく、なんでローハンまで驚くんだ……」

「だって、貴方は平民に名前を呼ばせないことに異常にこだわってましたから」

「平民とか貴族とか、そんな今時……」


あ、今は現世じゃないんだ、と思って俺は口をつぐむ。

ローハンが宇宙人でも見るような目で俺を見た。

最近遠慮がなくなってきたな。


「いいんだ、もう。カラン、この際だから一緒に君にあった防具や服も買おう。装飾品も」


ローハンがますます不可解な顔になった。

カランはにこっと笑った。


「ありがとうございます。でも、やっぱり、僕なんかに」

「うーんとな、カラン。『なんか』は言わない。まず、自分にもいいところがあるって思うところから始めようか」

「でも僕は靴みがきの布と同じくらいの価値だって……」

「なんだそれ! 誰が言った!」



うちのカランにそんな酷いこと言うなんてありえない。



「あ、あの……ルクスさんが……」

「ごめん!」


ほんと、昔の馬鹿野郎な俺が、ごめん!







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