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悪徳勇者の悪あがき  作者: 丹空 舞
4/11


俺たちはまだ早い時間に宿屋を出た。まるで盗賊か、夜逃げのようだ。勇者としての名声もろくに築けないまま、村を追放された恥辱が尾を引いている。


でも、今は逃げることが最善だろう。

エルフの聖女とやらに殺されかけたんだ。

村人たちにも噂はまわっているだろう。

歓迎されるとは思えない。


俺自身もどこに向かえばいいのか、はっきりとは分からない。

ローハンとカランも黙って歩いている。ダリアさんは相変わらず露出の高い服で、無言を貫いている。

話しかけるなオーラが出ているので俺はとぼとぼとそれについて行く。


森の中を進む足音だけが響いていた。

さくさくと、枯れた落ち葉をブーツの先で砕きながら歩いて行く。

やった覚えのない過去の過ちを悔やみつつ、こうして未来への一歩を踏み出していくしかない。


「ローハン、これからどこに向かうんだ?」

と俺は尋ねた。


ローハンはしばらく黙って考えた後、深いため息をついた。

「正直なところ、策が無い。俺たちが行くべき場所は、魔王の城だが……今のままでは圧倒的にレベルが足りん。それにカランがいる」

カランが不安そうに顔をあげた。

未知の場所に行くんだから不安しかないだろうな。

うん、俺だって不安だけど、きっとそれ以上に。


道端の花がそよ風に揺れ、鳥たちの鳴き声が森の中に響いている。

何もかもが平和な光景だが、俺たちにはまだ遥かな道のりが待ち受けていて、木々の影ばかりが目に映った。

だめだ、俺ばっかり不安になっていては。


「とにかく、歩き出さなきゃな」

と俺は頷いた。

目の前には何もかもが未知な世界が広がっている。でも、少しずつ歩みを進めていくしかない。





ダリアさんは明らかに不機嫌そうだった。無言で俺たちの後ろから歩いていく。

昨日の激怒を見ているので、下手に刺激するのもよくない。俺は戦略的撤退を決意した。

うん。とにかく、今は彼女の気を引こうとするのは逆効果かもしれない。そのうち時間が解決してくれるだろう。


少しでも和やかな雰囲気になればいいんだけど……。


近隣の街へ向かう俺は、まさにこの後地獄を味わうことになった。


厳格なローハンの後ろに俺。

その後ろには仏頂面のダリア。

その後ろにおびえているカラン。

無言でとぼとぼと歩く。

地獄のようなパーティーだ。

楽しさのかけらもない。



すると、モンスターが出てきた!

厄介なシチュエーションに更なる混乱が加わった。



だが俺は少し安心した。

この意味ありげな沈黙はなんともきつい。


待ってましたー! と叫び出したい気分だ。


「ガーディアントリーパーだ! ルクス、いくぞ」

ローハンが杖を振り上げた。


ガーディアントリーパーは大きな鋭い目と、枝や蔦でできた鎧を纏っている。

枝を武器にしている姿勢から、襲いかかる意思が滲み出ていた。




ローハンは慌てず騒がず、魔法陣を描きながら冷静に呼吸していた。

眼には冷静な覚悟が宿り、周囲の緊迫した空気にも動じることなく立ち向かっている。

場数を踏んだ者にした出せない気迫だ。



ガーディアントリーパーのつるが伸びて飛んでくる。

「カラン、危ない!」


と思いきや、カランを避けるようにして90度曲がり、ダリアさんのブーツに当たった。



「いったいわね!」




ダリアさんは、僧侶らしくない切れ込みだらけのローブをはためかせて、モンスターに向かって突撃していった。

え、あの人、僧侶だろ? 後衛じゃないのか!?


ダリアさんの戦闘スタイルはまさに前線での戦士そのものだった。

手には聖なる杖が握られていて、僧侶や賢者の武器なんだけど、その光は俺たちには届かない。

あと、露出が酷いのでもうなんかしんどい。


「聖なる雷よ! ほとばしれ!天空の聖なる力を我に授けよ!」


杖から電撃が伸び、木のモンスターに落ちる。

あ、勝負あったな。


「闇を照らし、敵を打ち砕く聖なる稲妻よ!

我が信念と共に、この地に聖なる光を降り注がん!」


ドカーン

「ギェェェェェェ」


「ん? ダリアさん、もう、ちょっと、あの、もう終わり」


「聖なる雷よ、我が呼び声に応えよ! ビッグサンダー!」



矢のように放たれる一撃一撃は的確に木に落ちる。

まるででっかいチョコレートのような色になった消し炭、もとい元ガーディアントリーパーに、腹いせのようにもう一度雷を落とし、長い髪を乱暴にかきあげたダリアさんは


「ふん」

と鼻を鳴らした。



こっわ……。




いや、あまりにもやりすぎなのでは、というか八つ当たり感がめちゃくちゃ感じられる。

あそこで燃えている木は、概念上の俺で間違いない……。








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