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悪徳勇者の悪あがき  作者: 丹空 舞
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カランは緊張しながらも、ダリアの手に額を触れさせてスキル鑑定を受ける準備を整えた。

宿屋の部屋の中は静まり返り、皆の視線が彼に注がれている中、ダリアはスキル鑑定を始めた。


ダリアの手がカランの額に触れる。

しばらくの間、静かな雰囲気が続いた。

カランの心臓の鼓動が聞こえるようだ。

俺も自分の鼓動が速まるのを感じながら、スキルの結果を待っていた。


ダリアの表情が次第に変化していく。眉間に皺が寄り、微かな困惑が表れていた。

そして、彼女はゆっくりと目を開けて、カランに向き直った。


「カラン……」とダリアが口を開いた。


カランは緊張のあまり、声も出ないほど心臓が高鳴っているようだった。

無理もない。

しかし、ダリアの次の言葉は俺の予想を裏切った。



「残念ながら、このスキルは君の期待には反して、はずれのスキルだわ。このスキルは、なんらかの特別な力や能力を持っているわけではないようね……」


え、嘘だろ……。


ダリアの声はやわらかかったが、その内容はカランにとってはまるで打撃だった。

カランは言葉を失い、がっかりした表情で地面を見つめた。


周りの空気が重くなり、部屋には落ち着かない雰囲気が広がった。皆がしばらく無言でその場に立ち尽くしていたが、その後、ダリアが優しくカランの肩に手を置いた。


「でも、カラン、大丈夫よ。スキルがすべてじゃないんだから。君は他にも素晴らしい特長や能力を持っているはずだし、これからも成長していける。私たちが仲間だから、一緒に前に進んでいけるんだから」

「……はい」

ダリアの言葉に、カランは少し笑った。


落ち込んでいたカランの表情が少しずつ緩む中、ローハンがやさしく微笑んで言った。


「そうだ、カラン。俺たちは仲間だ。一人じゃない。そして、スキルだけじゃなくて、お前の人間性や努力も大事なんだ。お前の成長を応援することに変わりは無い」



カランの落胆した表情を見て、俺は彼の気持ちが痛いほどよく分かる。

努力が報われなかった悔しさ、そして自分の未熟さに対する不安が、心の中にじわりと広がる。


でも、俺もまた同じような経験をしてきた。

試合で負けた時。

受験に失敗したとき。

好きな女の子が別のやつと付き合っているのを聞いたとき。

前世の苦い記憶がほのかによみがえる。

何度も失敗し、壁にぶつかりながらも立ち上がってきた。

そして、周りの仲間たちが支えてくれることで、前に進む力を得た。


俺はカランを抱きしめる。

小さな体が震える。

すごい緊張してたんだな。


「カラン、大丈夫だよ。スキルが全てじゃない。俺たちは仲間で、お互いを支え合うんだ。君が今感じていること、俺もよく分かる。だけど、そんな時こそ前に進むことが大切なんだ。君はまだ成長の途中だし、これからたくさんの可能性が広がっているはずだ。」


俺の声が静かながらも、確かなものとしてカランの耳に届くことを願う。

彼が自分の内なる強さに気付き、再び立ち上がる勇気を持つことを。


「俺たちは一緒に戦う仲間だ。スキルだけじゃなくて、お前の人間性や信念も尊重してる。お前はどうであれ、俺たちの大事な……カランだ。お前自身がもっと自信を持って、未来を切り開いていけるはずだ。だから、頭を上げろよ。スキルがあったってなくったって、お前はお前だよ」


カランの視線がだんだんと上に向かっていくのが見える。その表情に、少しずつ光が戻ってきたように感じた。


よし。あと一押し。


「俺たちがここにいる限り、お前は一人じゃない。どんな時も、仲間が支えてる。だから、前を向いて進もう。一緒に、未来に向かって」


く、クサい……。

我ながらこれは青春ドラマが過ぎる。

いや、好きだったんだよな、スクール戦争……。


だけど、カランは微笑んだ。

少しずつ頷く。

その姿を見て、俺はカランが自分の足で歩き出す力を取り戻していることを感じた。


「大丈夫です。僕……僕は今は役に立たないかもしれないですけど、それでも、きっといつかルクスさんたちの役に立って見せます」


けなげな美少年。

うーん、けなげとはかなげは似ているけど、それも然りだな。


というか、どんなはずれスキルなんだ?





【緑の愛】植物に愛されるスキル。植物に水をやると早く成長する。







「愛されるって……」


「花や木の声が聴ける~とか?」

と、ダリア。


「地属性の魔法が強くなるとか」

と、ローハン。


「食料になりそうなものを育ててみましょうかね……」

自信がなさそうなカラン。




だが、俺はひらめいた。



「カラン。そのスキルはいつか絶対に役に立つ。カランにしかできないことがある。だから落ち込まないで、力をつけていこう」


「はい!」



スキルに頼らなくても、カランが強くなる方法はある。

なんてったって勇者だからな!

俺のもてる全ての技術をこの子に教えよう。

本当の意味でカランが強くなったとき、「緑の愛」の効果は発動するはずだ。

そのとき俺は、そんなふうに思っていた。









五年後。


ある町の孤児院で、パーティーの人数は一人減った。








そして俺の予想は当たった。


エルフの村を訪れたカランは「緑の愛」を一身に受けることになる。


「緑」を愛するエルフの聖女を仲間として、勇者パーティーは魔王城を攻略した。


カランは見事、希代最強の「勇者」となり、仲間と共に魔王を討伐して英雄となった。









そして、俺はというと--。









「先生! ここが分かりませーん」


「うんうん、ちょっと待ってくれ。いいか、剣を持つときは、親指を外側にかけるんだ」


「先生~、うまくいきません」


「魔法は針に糸をとおすようなつもりで詠唱してみろ、髪を上から引っ張られるような感じだ。うん、うまい」


「先生ッ、ニーナとタオが喧嘩してます」


「すぐ行くから誰か水魔法で水ぶっかけて引き離しておいてくれ」





孤児院で子供たちを育てまくっていた。


断罪もされず、教え子により魔王は討伐され、ハッピーな指導者生活を送っている。


カランやローハン、ダリアさんは時々孤児院を訪れては、食料だの菓子だのを置いていってくれる。


孤児院の一角を自宅にしたし、保護した猫も数匹飼っている。




平和な修練場に子どもの声が響く。




「先生ー! チャックルが水魔法を間違えて、ニーナとタオが氷づけになっちゃいました!」


「おいおい……」







悠々自適に隠居生活をするのはまだ先になりそうだけど、これもまあ案外悪くない生活だ。






END


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