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適度に疲労した身体をベッドに寝かせ、寝室の静寂に包まれながら横たわる。
カランとローハンはもう眠ったようだ。
静かな寝息が聞こえる。
俺は天井を見つめながら、今後の冒険について考えた。
カランの成長が必要だ。
と俺は心の中でつぶやく。
仲間としての絆を糧に、カランはもっと伸びるはずだ。
そしてゆくゆくは勇者としての能力を高め、仲間たちと共に魔王に立ち向かわせる。
待てよ。
俺が悪徳勇者としてカランを追放しなくても、カランが自分からパーティーを離れてしまう展開になるとまずいな。
『今日からチート級勇者として生きていく ~主人公の本気を出せないので別のパーティーに引っ越します~』
みたいな別の話になってしまう。
それは避けたい。
(カランの能力をどう引き出すか……)
カランがどのようなトレーニングやアプローチを必要としているのか。
そしてどうすれば彼の潜在能力を最大限に引き出せるのか。
(ダリアの「鑑定」の能力が役立つな)
ダリアはアイテムやスキルの特性を見抜く力を持っているとローハンが言っていた。
カランの成長に寄与する情報を得る手助けになるかもしれない。
カランを育て上げ、仲間たちと共により強大な敵に立ち向かっていくためには、計画的なアプローチが欠かせない。
そして、その計画を実行するためには、ローハンやダリアの協力が必要だ。
朝食をとるダリアに俺は話しかけた。
「おはよう、ダリア。これさ、ちょっと食べてみてくれない?」
「なによ、これ」
「まあまあ。新作スイーツだよ」
「ふうん。どこのお店?」
「俺が作った」
「え!? 嘘でしょ?」
ふふん。嘘ではない。
俺はチーズケーキだけは美味く焼ける。
時々前世でも部活の後輩に差し入れていたくらいだ。
ダリアは俺が渡したチーズケーキを頬張って言った。
「まあ、確かにこれは美味しいわね。でも、どういう風のふきまわし」
さすがに聡い。
「実を言うと、カランのスキルを鑑定してほしい」
カランがエッと驚いてフォークを取り落とした。
「うーん……鑑定結果がいつもいいとは限らないよ」
「ダリア、ほんとにお願い。カランのこと、知りたいんだ。君の鑑定なら絶対に正確だと信じてるんだ。ほんのちょっとでもいいから、頼むよ」
と、俺は食い下がってもっと頼み込む。
「カランが強くなるためだったら俺は何度だって言う」
そしたらダリアは、ちょっと考えた後で大きくため息をついて、
「ほんと、変わったね」
と、あきれたように言った。
「前なら人のために一秒だって時間を使わなかったのにね。わかった、もう。ほんとにしつこいんだから」
と笑いながら、やっと引き受けてくれた。
「カランのスキルを鑑定してあげる。でもその代わり、もう一切れそのケーキをくれる?」と、ダリアはからかうようなトーンで言ってきた。
俺はにっこり笑って、スイーツを差し出す。
「もちろんだよ、ダリア」と、ケーキを手渡した。
準備はぬかりない。
ダリアは嬉々としておかわりを受け取り、にっこりと微笑んだ。
「ありがとう、ルクス」
「ええと、あの、僕はどうしたら……」
朝ご飯を食べたばかりのカランが困った顔で見てきた。
うーん、少し整えただけなのに、急に高貴な雰囲気になったなぁ。
眼鏡は伊達だったらしい。
素顔で生活するようになってから、カランは表情が豊かになった。
「じゃあ、歯を磨いたら、あなたたちの部屋に集合ね。カランのスキルを鑑定してみる」
ダリアが言った。




