愛ある結婚を望む令嬢
婚約破棄を望んだのは彼の方
わたしくしはただ受け入れただけ
彼が見つけた真実の愛
運命の相手はわたくしではなく、男爵家に引き取られた元平民の娘
高い魔力と、貴族らしからぬ振る舞いに
わたくしは彼を奪われた
わたくしはいつだって貴族令嬢としてあるべき姿で
決して恥をさらさぬように
お辞儀して、微笑んで、近付き過ぎず、適切な距離を
なのに、ソレナノニ
バタバタと走り、ベタベタと触り、ぺちゃくちゃと喋るあの娘に
わたくしは彼を奪われた
手続きは粛々と進み
わたくしと彼は赤の他人に
交差することのない未来
別々の道をお互いに歩む
「良かったじゃん。好きじゃなかっただろう?」
「ええ、そうね」
「婚約期間が長かった訳だし、寂しい気持ちとかある?」
「まさか。見る目のない男なんて、わたくしから振ってやりたかったわ」
「それじゃあ慰謝料が貰えないじゃん」
「そうね。沈黙は金なりって言いますものね。たんまり貰えたから、引き取ってくださるなら持参金は沢山持っていけるわ?」
「うちが貧乏貴族で悪かったな」
「貴族でさえいてくれたら嫁げますもの」
「嫁に来てくれるか?」
「愛してくださるなら」
元婚約者はあの娘にくれてやる
わたくしの魅力に気付きさえもしない彼はわたくしには不要
指先に落とされる唇
その唇から紡ぎ出される愛の囁き
わたくしの愛する人、わたくしを愛する人
不適切な距離を少しだけ
貴方にだけは許すの