第九話
天文十八年 (一五四九年) 五月 加賀国 小松 前川 下間頼照
「物見より伝令!朝倉軍に、動きがあったとのこと!」
「どの様な動きだ!」
「はっ!朝倉軍が前川の前で整列し、いくつかの小隊が、前川の至る所を調べ回ってるとのこと。」
「...よし!五千ほど前川の前に移動させろ!そして、奴等の小隊の近くに、警戒部隊を送れ!」
「はっ!」
まさか、もう決戦を始める気か?朝倉軍の指揮官は、誰なのだろうか。
「おい、誰か朝倉軍の指揮官を探ってまいれ!」
「はっ!畏まりました!」
そして、この日以降、毎日同じ事を朝倉軍は繰り返した。
「指揮官は朝倉宗滴とのこと。」
「...そうか、読めぬな。宗滴が何を考えているのか。...報告ご苦労、下がって良いぞ。」
「はっ!失礼します。」
天文十八年 (一五四九年) 六月 加賀国 小松 前川 下間頼照
異変が起きた。何が起きたかと言うと、川の上流から死体が流れて来たのだ。
「敵の奇襲部隊の死体だろうか?」
そう話しかけて来たのは我が一族の下間真頼だ。こいつとは、幼馴染で何度も一緒に戦地を共にしている。そう言えば、儂とこいつは、ほぼ同時期に妻が妊娠したらしい。二人揃って、まだ見ぬ子供の為に、戦に勝たって生き残らねばな。
「そうだろうな。問題はそれが主力なのか、囮なのかだ。此処で見誤れば、戦に負けかねん。」
「そうだな、だが報告によると、朝倉軍はいつも通り対岸で整列しているらしい。それも朝倉宗滴が指揮しながらな。」
「ああ、そうだな。普通に考えて上流にいるのは囮部隊だろう。...よし、真頼偵察に行って来てくれないか?」
「いいぞ、兵は千ほどで良い。」
「そうか、任せたぞ。」
「ああ、また後で会おう。」
「そうだな。...死ぬなよ。」
「分かってるよ。お前こそな。」
そう言って、下間真頼は偵察に向かったのだった。直後、頼照はとてつもない悪寒を感じた。
...今、儂はとんでもない誤ちを犯した気がする。何かがおかしい。本当に対岸にいるのは、宗滴なのか?...いや、考えるのはやめよう。もう、賽は投げられたのだ。
天文十八年 (一五四九年) 六月 加賀国 小松 前川 下間真頼
「真頼様!敵軍がみえました!」
な、何だ、あの大軍は!まずい、まさか対岸の部隊が囮だったとは!
「急ぎ、本隊に伝令を送れ!」
「はっ!」
敵も気付いたのだろう、騎兵が突撃して来た。
「騎馬に備えろ!」
「「「おう!」」」
よし、目の前の敵の攻撃は、何とか持ち堪えれた。そう思ったのも束の間、左右から敵の騎兵が突撃して来た。
「何!...怯むな!儂に続け!」
真頼は自ら先頭に立ち、戦った。何とか士気が持ち直したその時。
「ガハッ!」
真頼は腹を切られた。そして、一気に敵兵が真頼に、とどめを刺しに行った。
...頼照、すまぬな。先にあの世に行って、待っておる。...ああ、一目でもいいから子供の顔を見て見たかった。
天文十八年 (一五四九年) 六月 加賀国 小松 前川 下間頼照
真頼が死んだ。偵察に向かった隊が、ほぼ壊滅したらしい。...真頼すまぬ。必ず仇は取る!
「皆の者!此処に千の兵を置いて、残りの全軍で敵を迎え討ちに行く!」
「頼照殿!流石に危険過ぎます!もし、対岸に主力がいたら如何するのですか!」
「対岸に主力も宗滴もおらぬ!」
「何故に御座いますか?」
「真頼がそう簡単に討たれる訳なかろう!」
「もし、主力が対岸に居なかったとして、今対岸にいる部隊に背後から攻撃されたら、如何されるのですか!」
「少数の部隊を置いて行って時間を稼ぐ。そして、その間に敵の主力と決着をつける。
「...分かり申した!頼照殿を信じましょう!」
そうして、本願寺軍一万八千は前川上流の方に向かって行った。
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