第十二話
天文十八年 (一五四九年) 十一月 越中国 越中長崎城
俺は今、越中長崎城に訪れている。この城は、四か月前に宗滴に築城を命じた城だ。
「何とも見事な城だな。流石宗滴だ!」
「いえいえ、殿に銭と人を好きなだけ使わせて頂いだからです。これも、殿のお陰で御座います。」
「そうか、そう言って貰えると嬉しく思う。だがな、どれだけ銭と人があろうとそれを使う者が愚かであれば、意味をなさぬ。お主が優秀だからこそ、このような素晴らしい城を短期間で築けたのだ。」
「そのようなお褒めのお言葉を頂き、誠に恐悦至極に御座います!」
宗滴の築いた越中長崎城を例えるならば、池こそ無いが滝山城を一回り小さくした城だ。越中長崎城がある場所は、現代の護國寺から少し南に行ったところだ。
「俺はこの城を攻めろと言われても、落とせる自信が無い。どう頑張っても、二の丸で被害が出過ぎてしまう。」
「はい、殿のご明察の通り、二の丸がこの城の肝に成っております。」
「そうなのか。…宗滴、お前に聞くのはどうかと思うが、お前ならどうやってこの城を落とす?」
「兵糧攻めしか無いかと。力攻めで落とそうと思えば出来ますが、被害が出過ぎてしまいます。」
「そうか。…一乗谷に帰ったらこの城に兵糧を入れるよう、命じておく。」
「ありがとうございます。」
「…宗滴、俺に戦術や戦略を師事してはくれぬか?」
「喜んでお教え致しましょう!」
「そうか、恩に着る。」
天文十八年 (一五四九年) 十一月 越後国 ???
「景虎様、朝倉家は我等の裏庭にまで足を伸ばしております。ここで、一つ奴らに越中国の代償を支払わせるべきでは御座いませんか?」
「...越中国の代償か。確か、越中に派遣されている将は朝倉宗滴だったな。」
「...はっ。」
「ならば、朝倉家の牙である朝倉宗滴を沈めるとするか。しかし、奴らはその気になれば三万六千の大軍を起こせる。どうしたものか。」
「…確か、越中守護を朝倉は、畠山から奪い取ったと聞いております。名門の畠山は、名を重視しますから、かなりお怒りでしょう。そこで畠山と共に朝倉を挟撃すれば宜しいのでは?」
「悪くない、その案を取る。お主に畠山との交渉は任せる。」
「御意!」
「久々に骨のある敵だ、腕が鳴るのう。」
並の将いや、名将でも朝倉宗滴には勝てないだろう。だが、戦の申し子である景虎様ならば勝てるだろう。
...朝倉宗滴の死、それは朝倉家にとって計り知れない損失になるだろう。いや、それどころか近年台頭して来た、朝倉家滅亡に繋がるかもしれない。畠山との交渉、失敗出来んな。
「伝令!長尾政景に不穏な動きありとのこと。」
「…朝倉と戦をするのは、当分先になるだろう。」
「…そうで御座いますね。」