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第十話

天文十八年 (一五四九年) 六月 加賀国 小松 前川 下間頼照


 陣形を整えて敵が来るのを待った。意外と早く、四半刻ほどで来た。...攻めるなら、陣形の整っていない今か!


「頼照殿、敵が布陣する間に、気持ちを整理してくだされ。感情のまま戦をされては困りまする。」


 そう言って止めて来たのは、本願寺証恵だ。攻め時なのに、何てことを言う。


「今は攻め時なのだぞ!」


「心が乱れていては、勝てる戦も勝てませぬ!」


「だが、...」


「だが、では御座いませぬ!」


 駄目だ、聞く耳を持たぬ。折角の好機だというのに...。


 そして、四半刻も経たぬ内に敵は布陣した。


「いよいよ、決戦か。」


「そうで御座いますね。」


そう相槌を打ったのは本願寺証恵だ。


「それにしても、奇妙な布陣する。敵は左翼を攻めて欲しいのか?」


「さあ、分かりませぬ。」


「まあ、良い。弱点には変わらないからな。」


「ええ、攻めるなら兵力の少ない敵左翼ですな。」

 

「必ずや勝って見せる。」


 戦いの火蓋を切ったのは、朝倉軍の騎馬隊による突撃だった。


「僧兵部隊劣勢とのこと!また、左翼が中央からから切り離されかけております!」


「何!...なるほど、騎兵を集中させる事で、一気に我が左翼を潰すつもりだった様だな。ならば、右翼にある騎兵を、僧兵を攻撃している敵の騎兵に突っ込ませろ!そしてついでに、中央と分断され掛けているのを解け!」


「御意!」


「敵左翼には騎兵がおります、我が軍の騎兵が背後から攻撃されたら、如何するのですか?」


「敵左翼の騎兵は無いに等しいくらい少数だ。背後から攻撃されても、返り討ちに出来る。」


「ああ、なるほど。」


 よし、これで敵の突破口である、騎兵を潰す事ができる。...ん?何だ、あの砂煙は。


「な、何!敵の騎兵部隊だと!」


 一体、何処からあんなにも沢山の騎兵が出て来た?分からん。一体全体何が起きている。


「伝令!敵全軍が突撃を開始しました!」


「くっ、敵の突撃に備えさせろ!」


「はっ!」


 本願寺軍と朝倉軍がぶつかった。


「御味方、劣勢に御座います!」


「兵達よ、諦めるな!数はこちらの方が多い!」


「「「おう。」」」


 何とか士気を繋いでいると、僧兵と決着を付けた敵の騎兵が本願寺軍の背後を攻撃しました。


「ならん、このままでは崩れてしまう。兵達よ、今、此処で敗れて仕舞えば愛する家族が朝倉軍に殺される事になるぞ!何としても、敵を跳ね返せ!そして、お前達の大将である儂は、一人で逃げたりはせぬ。お主らと共に戦うぞ!」


 そう言って、頼照は刀を抜き、前線に出て戦い始めた。


「「「おう!」」」


 その姿を見た兵達は奮い立ち、士気が最高頂に達した。頼照が、何とか勝利の希望を持ったその時、背後から朝倉軍三千が攻撃して来た。何とか、頼照の努力によって、士気が保っていたが、余りにも絶望的な状況に、足を着けてしまう兵が続出した。頼照とその周辺の兵は、最期まで抵抗したが、その必死の抵抗も虚しく、全滅した。


「真頼、仇を取れなくてすまない。...妻よ、先に逝く事を許しておくれ。」


 こうして、本願寺軍と朝倉軍の戦いは幕を閉じた。



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