【1】魔王になりたい勇者様
ばーん。
大きな爆発音とともに、目の前に立ちふさがった巨大な黒い影は、あっさりと灰となり、男の前から消え去った。
男の顔には、別に喜びなどはなかったが。
男は黒い血が付いてる剣を振り、空に向かって、大声で叫んだ。
「吾はここで宣言しよう!魔王はすでに討伐完了と、この世界は勇者に救われたことを!」
彼の声と同時に、一つの光は空から降り注いだ。
男の顔は凛々しく、光の中では神のように神聖となり、威厳は満ちていた。
そして、彼は光とともに消えた。
「どうーもお疲れ様です!やはり貴方様にお願いしたら効率抜群ですね!」
男はある金ピカの神殿で目が覚めた。実に目が痛いほど眩しかった。
目の前にいるのは、小さな白い翼を持つ、幼女みたいな女の子。ピンク色の髪を長いツインテールに結び、可愛らしいふわふわのワンピース、そして、頭の上には光の輪が浮いている。
この子、例の神の使い手だな。
男は終始無言で、表情すらなかった。
「それでは勇者様!また見事にこの世界を救った故、どうぞこの度のご褒美を、お選びください!」
女の子は、一枚の紙を差し出した。
それは魔王打倒によるご褒美リスト、美貌金銭かくステータスやスキルなど、あらゆる物が書かれている。
男は今まですでに9回、魔王を倒した。
そのため、絶世の外見、無敵の力、限りなき財、欲しい物はすべて手に入れた。
もう、リストにはほしい物はないのだ。
「また、今回は記念すべき10回目ということで、今までの9回分のご褒美を代償にして、リストにない願いの実現も可能です!」
「え?」
男は少し、興味を湧いた。
「それは、どんな願いでも?」
「もちろんです!死んだ人を蘇ったり時間の遡ったり、勇者様の思いつく限りではできないことはありません!しかし、今まで差し上げたご褒美の数々はぜんーぶなくなりますので、どうぞご慎重に!」
女の子は相変わらずワクワクで説明をしていた。背中の小さな翼もパタパタしていて、可愛かった。
「では、それでお願いします。」
男は即答で、その願いを選んだ。彼のつまらなさそうな顔も、光ってきた。
「かしこまりました!最後に確認させていただきますが、全部9回のご褒美に引き換え、一度限りの願いを叶えると、間違いないですね?」
「あっ!」
男は大きくうなずいた。
「確認いたしました!それでは、今までのご褒美と引き換え、こちらの願望石をお渡しします!この石に願いをするだけで、神様は叶えてさしあげます!そしてその願いを叶える時、ご褒美の回収を致します!」
女の子は手を振りて、男の掌には小さな青色の丸い石が出た、極普通のように見えるが。
「それでは勇者様、今でも願いはあしますか?」
男はちらっと笑って、大きく息を吸って、大きな声で叫んだ。
「俺は、魔王になりたいー!」
男の声は神殿の中響き渡り、また静かになった。
「なんだ?反応ないぞ?」
男が持っている石は、何も変化はなかった。
女の子はなるべく笑顔を崩さないように、頑張って口角を上げている。
「勇者様、さっきはなんと…?」
「魔王になりたいと言ったが?」
女の子の笑顔はフリーズして、最後やはり怒りと変わり、男の襟を掴み上げた。
「あんた頭おかしくないの?!勇者の願いは魔王になるなんて、バッカじゃないの?!」
ちっとも可愛らしさが消えている女の子の様子に、男はびっくりしたけど、別に動じではなかった。
「どんな願いでもいいって、君が言ったけど?」
「勇者が魔王になりたいなんて、そんなデタラメな願いは聞いたことないぞ!一度も!」
女の子が怒っている途中、その小さな石は突然光り出して、二人とも気づいた時、すでに光の中に消えていった。
「どういうことだ?」
男は再び目を覚ます時、知らない場所だと気づいた。
見る限り豪華の装飾、どうやらお金持ちの家に間違いなさそうだ。窓から日差しが入って、暖かくて、気持ちよさそうだ。
自分の願いは、叶えたのか?
しかし、ここは魔王城にして、あまりにも違いすぎた。自分が見てた魔王城なら、いつも暗くて不気味、時に雷や変な鳴き声とかあったりして…
男は動こうと試してみたが、なんだか動けなさそうだ。
これは一体…?
その時、なんだか女の泣き声を聞こえた。
「王妃様!おめでとうございます!男の子です!」
え?まさか?!
男は頑張って首を動いてみた。隣には、疲れそうだけど、なんと美しい顔があった。
銀色の髪、赤い目、顔色は真っ白だが、見たことないほど美しかった。
男は見惚れた。
その時、急に誰かに抱き上げられた。
「ははは!こいつは俺の息子か!」
自分を抱いた人もまた美しい。墨色の長い髪に、紫色の瞳、また人を魅了する気配も漂っている。
男は理解した。
自分は、転生したということだ。
そして、今の自分は赤ん坊だということ。
なぜだ?願いは魔王になることだぞ!
これは叶えてないじゃない!
「全部お前のせいだ!」
頭の中には、どこかで聞き覚えがある声があった。
神殿の女の子の声だった。
男は頑張って声ので所を探そうとしたが、あいにく赤ん坊の体は実に不便だ。
その時、その女の子はぱっと彼の前に現れ、彼よりもずっと小さな姿で。
「お前のせいで、今魔族に転生しちゃったよ!私まで巻き込んで、お前なんかの守護天使になってしまって…私のような天界のエリート様は魔族の守護天使になるなんて、たまるかー!」
女の子が怒っている間、男は頭の中で状況を理解した。
たぶん、今までの勇者たちはこのようなことを願ったこと一度もないから、神様もどうすればよいかわからなくて、とりあえず、魔族に転生させちゃった、とか?
「てことは、願いは叶ったってこと?」
よかった、頭の中で考えたら、なんとか会話はできるようだ。
「そんなわけないだろ!魔王になってなかったから、願いは叶えなかったこととなり、いままでのご褒美は一つも回収できなかったよ!」
あーあ、せっかくのかわいい顔はどこに消えたろ…よっぽど怒ったよね。
男はなにか言おうとした時、女の子はさっと消えていた。
「魔王になりたければ、自分で頑張りなさい!」
男はふっと思った。
まっ、自力で頑張っても、面白そうだし、結局9回分のご褒美も引き継いでるし、やってみるではないか。
勇者に飽きたことで、なったことない職業の一つ、魔王になりたいと思っただけだけど、一からの人生も新鮮だな。
と、その時、男はまた高く持ち上げられた。
「この時、我が子に邪王ラミレスの名において、ジェイと名付けよう!この時から、君の名前は、ジェイ・ラミレス!」




