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川を流れる花の名は  作者: 一条悠
6/22

再び街へ

隔日投稿中

翌日、花琳は再び雨桐とともに街へ出た。

昨日のうちに雨桐とどんな物がいいか考えたから大体の目安はついている。

あまり高貴な身なりではないため高い物は避けて、平民でも簡単に買えるようなものがいいと雨桐に教わった。

もし相手が曹家の若君であれば玉佩や帯でもよかったが、平民は玉佩を持たないし、帯は平民と貴族が使う物では全然違う。



昨夜の様子からして、母上は花琳の気持ちを大体察しているようだった。

本来ならば貴族と平民が会うことはあまり良しとはされないが、母上は会いに行くのを否定しなかった。

徐家の面子を傷つけるようなことは絶対に許さないタイプだと思っていたが、実はそうでもなかったりするのだろうか。それとも他に何か思惑があるのだろうか。



街の屋台でシンプルなお守りを買った。

男性用のお守りにはあまり花模様は使われないが、花琳の名前と同じ花の模様が入ったものを選んだ。


相手の名前を知らないため探す手立てはないが、とりあえず昨日助けてもらったところに向かう。

たまたま通りがかった人であれば二日連続同じ場所で会える確率は限りなく低い。

予想通り例の男の人は見当たらなかった。

「すいません。昨日ここで見かけた男を知りませんか。」

雨桐が男の特徴などを交えながら近くの店の男性に聞いた。

よくここを通る人物であれば何かしらの手がかりはあるかもしれない。

「きっと楊商会の息子じゃないか。昨日街に来ていたし間違いねぇだろう。毎日こっちに来るわけじゃねぇから店に行くのがいいな。」

楊商会といえば以前没落寸前だったところを姚家が後ろ盾になったことで経営が持ち直し、今では都一と言われるほど有名な商家だ。

徐家も楊商会と取引することが多いと聞く。

花琳と雨桐は楊商会の店へ向かう。徐家とは反対方向に街から離れたとこにあるため少々遠い。

店の前は人で賑わい商売繁盛しているようだった。

店の中へ入ると色んな物であふれていた。陶器でできたお皿や湯飲みから琴や書物までおいてある。

どうやらいらなくなった物を買い取り、それを売るというお店のようだ。

人と人の利害を一致させていてよい店だと思う。

店の中を一通り回ったが例の男性は見当たらず、どうしようかと思っていたところで、雨桐が店の人に聞いていた。さすが仕事が早い。

「息子は宣という名で、裏の建物にいるそうです。」

二人は裏へ回り楊宣という人を呼んでもらった。


しばらくして奥から見覚えのある男性が出てきた。

間違いない。昨日助けてくれたのは楊宣だ。

「昨日はお助けいただきありがとうございました。」

宣は花琳をみて少し驚いた顔をしてから微笑んだ。

「徐家のお嬢様と聞いて驚きましたが、昨日の方ではないですか。お怪我はありませんか。わざわざ私のために御足労いただきいただきありがとうございます。」

楊宣は花琳を見て驚いた顔をしていたが、すぐ笑顔になった。

昨日と変わらず爽やかな笑みを浮かべている。

またこの人に会えたと思うと胸が踊る。

「今日は昨日のお礼に参りましたの。」

そう言って先ほど買ってきたお守りを渡す。

好みの色合いがわからず昨日の雰囲気を思い出しながら選んだが、今日の衣にも合いそうな色合いでよかった。

「徐家のお嬢様から贈り物など恐れ多くございます。」

楊宣は慌てて頭を下げる。

「そんな固くならずに顔を上げてくださいな。助けてもらったお礼なので受け取ってくださると嬉しいです。」

楊宣はお守りを腰につけた。

見立て通りぴったりである。

「感謝いたします。」

楊宣は深々と頭を下げる。

「元々は私からのお礼なので構いませんよ。それにそんなに畏まらないでくださいな。」

平民と貴族であるため身分上仕方ないのはわかるが普通に話してほしいと花琳は思った。

こういう機会がなかったため今までは何も思わなかったが、親しくなりたいと思う相手がいると身分というのは厄介だと思う。貴族であるというだけで相手から一線引かれてしまう。同じ貴族同士でも花琳は四大貴族であるため線を引かれることは多い。身分の隔たりがある限りこの線が消えることはないのだろうか。

「お嬢様、平民が砕けた話し方など恐れ多くございます。」

楊宣にとって身分の差は絶対で、身分という名の壁はとてつもなく高いのだろう。

急いで距離を縮めることはない。少しずつお互いを知って仲を深め打ち解けていけたらいい。

「仕方ないですね。でもお嬢様というのはいただけないので花琳と呼んでほしいですわ。」

「徐花琳様とお呼びさせていただきます。」

少し不服だがお嬢様呼びではないので認めざるを得ない。

名を呼ぶこと自体、楊宣からしたら譲歩した方なのかもしれない。


「わかりました。楊宣、今日はこれから何か予定はありますの?」

用事は終わったがこのまま別れて帰るのは惜しい。

せっかくだからもう少し楊宣の事が知りたい。

こっそり雨桐が花琳の袖を引く。後ろにいるため表情はわからないが、きっと不満そうな顔をしているだろう。

帰れオーラを放ちまくっていたらどうしようか。

「今日の仕事は大方終わりましたので空いております。」

「これから街へ行きませんか。あまり街へ出たことがないので案内してほしいです。」

雨桐が強く袖を引く。

よっぽど不満なのだろう。

だが、花琳には楊宣が危険な人には見えなかった。

楊宣は少し用事を片づけてくると言って中へ入っていった。

「お嬢様、街に行くのは一刻だけと私とお約束ください。今はまだあの者が安全であるとは言い切れません。」

楊宣と街へ行くのを否定しなかっただけ、少しは認めてくれたのかもしれない。

花琳はなんとか雨桐をなだめ、一刻の約束をした。


少しして楊宣が出てきた。

「お待たせしました。」

出てきた楊宣の腰には少し短めの剣が刺さっていた。

「いつもは持ち歩きませんが、徐花琳様に何かあってはいけませんから。」

花琳の目線に気づいた楊宣が教えてくれる。

商人でも武術を嗜むのだろうか。

遠くへ荷を運ぶ時は盗賊に狙われることも少なくないと聞く。きっと護衛のために鍛えているのかもしれない。

三人は街へ向かう。

「この簪とても素敵ですね。とてもよく似合っておられます。」

今日は昨日買った簪をつけてきた。

ちゃんと簪について触れてくれるとは嬉しい。

「ありがとうございます。実はこの簪、昨日あの後に買いましたの。似合っているか不安でしたがお褒めいただき光栄です。」

花琳はにっこり微笑んだ。

微笑み返してくれる楊宣の笑顔はとても眩しい。

雨桐は楊宣を全く信用していないようで、ぴったり花琳の横にいた。


街は大勢の人で賑わっていた。

昨日や楊宣へのお守りを買いに来た時と同じくよく賑わっている。静かな時とかあるのだろうか。

その後三人は屋台でお菓子を食べたり、お店を見たりして楽しく回った。昨日も雨桐に案内してもらってたくさんのお店を見て回ったが、楊宣に案内してもらうと新たな発見が出てくる。楊宣は顔が広いようで街の人たちからよく話かけられていた。商人であれば当たり前なのかもしれない。

「顔見知りの方が多いのですね。」

「仕事でよく街に来るのでいつの間にか町の人と顔なじみになりました。」

「でも徐家の屋敷には来たことがないですよね。」

「楊商会はいくつか部署に分かれていまして、私は主に店や街の人達を相手にしておりまして、徐家のような貴族は父と弟が相手をしております。」

なるほど。

だから楊宣に会ったことがなかったのか。

楊商会は時折色んなものを徐家に売りに来るが、いつも楊商会の長と息子らしき若い人が来る。きっとあの若い人が楊宣の弟なのだろう。



楊商会と徐家は街から正反対の方向だが楊宣は屋敷まで送ってくれた。

早い帰りだったが、雨桐と約束したため仕方ない。

二人の会話は弾み、終始二人で笑い合っていた。

このままずっと話していたい。そう思った。

屋敷の入り口に差し掛かる角を曲がったところで花琳の顔からすっと笑みが消えた。

屋敷の前には立派な馬車が止まっていた。


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