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川を流れる花の名は  作者: 一条悠
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帰宅とその後


家に帰り母上の元へ向かう。

「母上、ただいま帰りました。」

街で見たことやお店を回ったことなど街での報告をした。

再び街へ行きたい。

母上と話しているとさらにその気持ちが強くなった。

都の賑やかな街だけでなく地方にも行ってみたい。

色んなお店を回っていると初めて見る物が多くあり、中には遠い地方や国外から仕入れてきた物があった。以前なら買う物がどこから来たのかなど全く興味がなかったし、そういうことを考えたことがなかった。だが、店で店主が品物を細かく説明してくれたりすると違う感情がわく。



「とても素敵な簪じゃない。楽しめたようでよかったわ。」

街で買ってきた簪を見せた。

悩んだ末に買った簪だが、正直これにしてよかったのかと帰り道少し不安に思っていたため母上に素敵だと言われるとこれにしてよかったと思う。

母上が花琳に簪を刺す。

本当によく似合ってるわと母上も嬉しそうだ。

自分でも改めて鏡で見ると似合っていると思う。

これだけでも十分だが、もう一つ豪華な簪を刺せばさらに華やかで良い感じになるだろう。



「失礼します。」

色んな話をしていると雨桐がやってきた。

「お嬢様に曹家の若君よりお届け物がございます。」

何かをもらうような心当たりがないため首をかしげる。

曹家の子息といつ会っただろうか。

予想がつかないでもないが、曹家の人かどうかはわからない。

「どちら様かしら。」

母上の方を見ると、驚いている様子で花琳を見ていた。

「曹家は我が徐家と同じ四大貴族よ。子息とどこで知り合ったの?」

四大貴族はその名の通り四つの大貴族で、我が家の徐家、母上の実家の姚家、曹家、侯家がある。

煌煉国の貴族の位は上から四大貴族、上級貴族、中級貴族、下級貴族に分かれている。

ちなみに今の皇后は侯氏で、皇太后は姚氏。基本的に皇族の婚姻関係は四大貴族と結ばれることが多い。

「多分、今日会った方だと思いますがどの方かは存じ上げません。」

大体の予想はついているが、名を聞いていないため嘘は言ってない。

位の高い貴族だとは思ったが、まさか曹家の人だとはわからなかった。

「お嬢様、曹家の若君は簪をお買いになったお店にいらっしゃった方ですよ。お嬢様がお帰りになるときはお手をお振りになさっていました。」

「あの方ね。お名前を聞かなかったから曹家の方と知らなかったわ。」

手を振ってたことまで言わなくていいのに。

曹家の方ではあるが、花琳はあまり好印象ではない。

初対面なのに見つめてくるし、一人で簪を選びたいのにずっと隣にいた。

簪選びを頼んでもいないのに横から口を出されるのはあまりいい気はしない。

「曹家の若君は容姿麗しく才能もおありで次期当主になると都でも注目の若様ですよ。」

雨桐が教えてくれる。勉学はできても人の噂には疎い花琳に代わって雨桐は人の噂をよく知っている。

四大貴族で注目の若様ならばきっと公主を娶るのだろう。

今までの皇族の婚姻歴も学んでいるだけになんとなく予想がつく。

包みを開けると小箱と手紙が入っていた。

小箱の中身は花琳が先程店で一番惹かれたが高価すぎて諦めた簪だった。

やはり何度見てもうっとりするくらい素敵な簪だ。

この簪と花琳が買ってきた簪を合わせればぴったりに違いない。

だが初対面でこんなに高価な簪を貰ってしまっていいのだろうか。

「まぁ、とても素敵ね。」

母上も素敵すぎる簪に目を煌めかせている。

誰が見ても目を奪われるほどの立派な簪だ。

うきうきの母上は早速簪を花琳の頭に刺している。

店では見るだけだったので実際に刺すのは初めてだ。

鏡を見るとどこのお嬢様かと思うような輝きを放っている自分が写っていた。

あの人がくれたと思うと少し残念な気持ちになるが、それ以上にこの簪が素敵で気に入った。

花琳が既に持っている多くの簪と並べても桁違いに美しい。

「お手紙の方はなんて書いてあるのかしら。」

手紙は短く一文だけだった。

「一番の輝きを放つ簪は一番の輝きを放つ娘によく似合う。」

たった一文だが、素晴らしくきれいな字で書かれてあった。便せんも簪と似た色で合わせており、注目の若様という噂も頷ける。

花琳に届いた初めての贈り物に母上はすっかりご機嫌で雨桐とはしゃいでいる。


ふと、昼間助けてくれた男のことを思い出した。

あの時名前も聞かず去ってしまった。

あの人が助けてくれなかったら怪我をしていたかもしれない。

「花琳、どうしたの?何か気になることでもあるのかしら。」

花琳が考え事をしていると母上はいつもすぐ気づく。

雨桐もわずかな変化にすぐ気づく。

わずかな変化と思っているのは自分だけで、実はすごくわかりやすく顔にでてたりするのだろうか。

つまるところ、あの人に一目惚れしたかもしれない。

装飾品のお店にいたのがあの人だったらよかったのに、簪をくれたのが若様ではなくあの人だったらよかったのに、あの人を思い出してからそんなことばかりが頭の中を巡る。

貴族ですらない平民に一目惚れしたなんて言えば母上はなんというだろうか。

あの人が平民であると確かめたわけではないが、身なりからして貴族ではない気がする。

友人関係なら認めてくれるだろうが、二度と会うなと言われてもおかしくはない。

あの一件で街に行くのは危ないと外出禁止令が出るのは避けたいが、助けてもらったお礼をしたいと言えば会わせてくれるかもしれないと思い、花琳は昼間の出来事を話した。

きっと気づくだろうが、なるべく一目惚れしたことは悟られないように簡単に話した。

母上は不安そうな顔をして聞いていた。

「怪我をしなかったのならよかったけど危ない目に遭ったのね。」

「奥様、お礼ならば私が後日行って参りますのでご心配なく。」

あの男の人の話を始めてから雨桐の表情はやや硬い。

雨桐的にあの人のことをよく思っていないのだろう。

自分がお礼に行けば、花琳が会うことはない。

「いいえ、母上。せっかく助けてただいたのだし、私が自分でお礼を言いに行きたいですわ。」

よっぽど嫌だったのだろうか。いつもなら花琳に従う雨桐が口を挟む。

「あの男は危険です。」

「どういうこと?」

余計なことは言うなと言いたいが言ってしまったことは戻らない。

急に母上の顔が険しくなる。

「奥様、あの男はお嬢様を助けた後私が気づくまでお嬢様の腕を掴んだままだったんですよ。見知らぬ未婚の女性の腕を長時間掴むなど怪しさしかありません。」

長時間というほどずっと掴んでいたわけではないと思うが、雨桐には断じて許せないらしい。

絶対にだめだと言う。

先程まで不安な顔をしていた母上は若いわねぇと笑っている。

「でも花琳はその人に惚れたのでしょう。心配なら雨桐が隣について行けばいいのよ。人の善悪はすぐにはわからないわ。」

雨桐はありえないという表情をする。

「惚れ、、、、?」

惚れたとか言わないように気をつけたはずだがなぜ分かったのだろうか。

気づかないうちにうっかり口が滑ったのだろうか。

言葉にして言われると恥ずかしくなる。

「母上、今宵はもう疲れましたので下がらせていただきます。」

気持ちに収拾がつかなくなって自室へ逃げ込んだ。

なんだか顔が暑い気がする。

「雨桐、明日も街へ行くわ。」

雨桐はあまり乗り気ではないようだったが、母上が反対しなかったため渋々引き下がった。


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