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川を流れる花の名は  作者: 一条悠
20/22

茉莉花

楊宣が徐家の屋敷に来てから二日が経った。

「母上、お寺の茉莉花が見頃だそうですので雨桐と行って参ります。」

楊宣から教えてもらった情報を元にお寺へお参りついでに茉莉花を見に行くことにした。

朝の外出は気持ちが良い。

馬車に乗ってお寺に向かう。

少し早い時間帯だからか人は少ない。


花琳は家族の健康と安全をお願いした。

皆が元気でいることが1番いい。

今は落ち着いているとはいえ、いつだって他国との戦は起こりかねない。些細なきっかけが戦に繋がる。

賊が屋敷に入り込む可能性も少なくない。

安全に過ごせる日々は当たり前のようで貴重である。

お参りを済ませて茉莉花を見に行く。


建物を出たところで雨桐に引き止められる。

「お嬢様、奥様には楊宣と会うなと言われました。ですが、お嬢様と常に一緒にいる身としてお嬢様の気持ちもわかります。なので茉莉花を見に行っても楊宣に会えなければ諦めてくれませんか。」

花琳は雨桐が茉莉花を見に行くのを止めないことを不思議に思っていた。

以前なら確実に行ってはだめだと言っていた。

しかし今回は何も言わずに馬車の準備もしてくれた。

それだけ花琳の意思を尊重してくれているのだろう。

母上に言われたことを早速破ろうとしている。

花琳は運命というものを信じている。

会えるか会えないかは運命に従う。

「わかったわ。半刻待っても会えなければ帰るわ。」



昨日は一日中雨が降っていたため雨に濡れた茉莉花は朝日で一層輝いて見えた。

今日が一番見頃ではないかと思うくらいきれいに咲き誇っている。

花びら一枚一枚を眺めているだけであっという間に時間が経ってしまいそうな気がする。

真っ白な花びらが真珠のようだ。

とても良い香りがする。

屋敷にも茉莉花を植えないかと提案するのもいいかもしれない。


「花琳。」

茉莉花に見とれていると後ろから素敵な声が聞こえた。

振り向くと素敵な楊宣がいた。

近くにいたはずの雨桐は少し離れたところに立っている。

「楊宣。」

「早起きなのですね。遅くなってすいません。」

「たまたまですよ。茉莉花が楽しみで早く目が覚めたの。」

楊宣は花琳の隣に座り茉莉花を眺める。

いつもは徐花琳様なのに、今日は花琳と呼んだ。

それに今日は少し距離が近いような気がする。

いつもと違うような気がして花琳はドキドキする。

(この距離だとドキドキしてるのまで聞こえているのではないかしら)

目の前の茉莉花を見ているはずなのに、緊張しすぎて何も感じない。茉莉花が茉莉花じゃないように見えてくる。


お互い何も話さずドキドキするだけの時間が過ぎる。

ほんの短い時間がとても長く感じられた。

「楊宣は、」「宣」

声が被り花琳は楊宣の方を見る。

「うん?」

「宣と呼んでくれませんか。」

緊張のあまりなんと言ったのかよく聞こえなかった気がした。

ちゃんと聞こえたはずだが、緊張のあまり頭が混乱しそうになる。

ドキドキしているのがさらにうるさくなったように感じた。

楊宣がニコニコと花琳の方を見る。

「せ、宣」

「なんですか、花琳。」

顔が真っ赤な林檎のようになってしまう。

宣の笑顔がまぶしすぎて何を言おうとしていたのか忘れてしまった。


「なんでもないです。」

後ろを見るが雨桐は変わらず遠くにいた。

恥ずかしすぎていたたまれなくなって花琳は立ち上がった。


「花琳。」

宣に手を捕まれる。

「これを。」

そういって取り出したのは一枚の小さな巻物だった。

中を開くと茉莉花の絵が描かれていた。花びらは真珠のように白く香りが漂ってきそうだ。

「花琳、あなたが好きです。商人の身なので時間はかかりますが花琳を幸せにしたいです。」

驚いた花琳は宣を見た。

宣がそのようなことを口にするとは思ってもなかった。

宣の気持ちが全くわからないでいたが、片思いでなくてよかった。

「はい。」

嬉しさのあまり花琳にはどう答えて良いかわからなかった。

宣が一歩近づき、手が背中に回る。

なぜか嫌じゃなかった。

ずっとこのまま時がとまればいいのに。





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