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川を流れる花の名は  作者: 一条悠
19/22

徐家の屋敷

お久しぶりです

まだまだ暑い日が続くがこれからだんだんと寒くなる頃、徐家には楊商会が来ていた。

季節の変わり目や必要な物品を揃えたいときは楊商会を呼ぶ。

此度はまだ早いが冬物を少し入れ替えるために呼んだ。

花琳も客間に向かう。

特に欲しいものがあるわけではないが目新しい物があるかもしれない。

いつも来るのは楊家の当主と次期当主の楊宣の弟だが今回は楊宣も来ているかもしれない。



小さな希望は天に届いたようだ。

「楊宣!」

客間へ行くと楊宣と楊商会当主がいた。

楊宣の弟の姿が見当たらないため代わりに来たのだろう。

「徐花琳様、ご挨拶申し上げます。」

客間は二人きりではなく使用人や花琳の弟、そして楊宣の父もいる。

楊宣はきっちりとした挨拶をした。

周りを見ずに一人はしゃいでしまって恥ずかしくなった。

弟にも見られてしまった。母上に見られていたらみっともないと叱られていたかもしれない。

「楊さん、私も品を見せてもらいたいのだけど楊宣を借りてもいいかしら。」

普段貴族の屋敷へ行くことがないため慣れていないがそれでもいいのならと了承してくれた。

雨桐も一緒に三人で別室の客間へ移動した。

別室といっても未婚の女性が男性と同室へ入ることはできないため部屋の扉は開けたままで客間から別室の様子が見えるようになっている。



「先日はお祭りに連れて行ってくれてありがとうございました。とても楽しかったです。」

「楽しんでいただけたようでよかったです。私も楽しかったです。」

たわいない話をしながら花琳と雨桐用の服を見る。

使用人とはいえ四大貴族の徐家に仕える者として身なりはよくさせておきたいため破れる前に服を買い換えるようにしている。


「帰りは少しお疲れのようでしたが大丈夫でしたか。」

花琳はドキッとした。

疲れてはいないが考え事はしていた。

曹家の若様に言われた言葉が耳にこびりついて離れなかった。

雨桐や楊宣には聞こえていなかったようだが花琳には決して忘れることのできない一言だった。

数日経った今でも考えてしまう。なんと言っていたのかと。

「大丈夫です。ところで楊宣は曹家の若様とよくお会いになるのですか。」

祭りの時の若様の言い方からしてそんな感じがした。

曹家に品を売りに行くときはいつも楊宣がいくのだろうか。

「あの方は都の警備部隊を任されているので時々姿を見かけるだけですよ。それこそ私より徐花琳様の方が親しそうでしたが何かあるのですか。」

「いいえ。なにもないですよ。」

「そうですか。」

楊宣はそれ以上何も言わなかった。

もう少し何か聞いてくるのかと思っていたがやはり今回も何も聞かないようだった。

何を期待していたのかは自分でも分からないが少し残念に思った。

「弟さんは今日はお休みなんですね。」

「ええ。最近珍しく体調を崩したようで寝込んでいるので代わりに私が父に付いて行動しています。街の方の仕事もありますがそちらは腹心に任せているので大丈夫です。」

このままこれからも楊宣が屋敷に売りに来てくれないだろうか。


「近頃街の外れにあるお寺の茉莉花が見頃のようですよ。朝に咲く茉莉花は格別にきれいなのをご存知ですか?もしよかったら足を運んでみてください。私も明後日見に行く予定です。」

今日の楊宣はいつもより口数が多いような気がした。

心の内はわからないがたくさん話してくれて嬉しい。

明後日の朝、花琳も茉莉花を見に行くことにした。

決して会う約束をしたわけではない。


そうこうしているうちに大体の買う物は決まった。

「雨桐ももう少しおしゃれしたらいいのに。」

「侍女はお嬢様より目立ってはいけませんからこれくらいがちょうどいいのですよ。」

雨桐の髪には控えめな簪が一本刺さっているだけだ。

花琳が知る限りでは雨桐は簪を三本しか持っていない。どれも花琳があげた物だ。

誕生日も褒美もなにもいらないと言っていつも断られる。

だが簪をあげたとき3回とも大喜びしていた。

花琳はいつも雨桐に簪をあげるタイミングを狙っている。


「何をしているの!!」

客間の方から大きな声が聞こえた。

横を見ると母上が驚いた顔をして急いでやってきた。

「花琳、あなたは未婚なのよ。わかっているの。」

「母上、扉を開けてあるので客間からも十分こちらの様子が見えます。同室しているとは言えません。」

「屁理屈言わないでちょうだい。それからあなた、花琳にはもう会わないでちょうだい。」

怒っているのかと思いきや、母上の口調はそれほど尖っていなかった。

なぜだろうか。

むしろどこか悲しそうな感じだった。

怒るというより悲しませてしまったようだ。



その後母上から何か言われたりすることはなかったが楊宣を見送ることはできず部屋に帰るしかなかった。

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