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川を流れる花の名は  作者: 一条悠
17/22

祭り

楽しみがやってくるのは早い。

あっという間に祭りの日がきた。

先日帰ってきたときに既に母上から許可を得ている。

少し微妙な顔をされながらも雨桐も一緒なら構わないと言ってくれた。


日が暮れる少し前から花琳は屋敷の門の前で待っていた。

「花琳、まだ日暮れには早いわよ。」

そわそわしている花琳とともに母上も一緒に待ってくれた。

その間にたくさん楊宣の話をした。

若いっていいわねぇとずっと話を聞いてくれた。

約束の時間より少し早い頃、楊宣が来た。

「はじめまして、徐夫人。楊宣と申します。よろしくお願いします。」

楊宣の爽やかな笑顔を見ると幸せな気持ちになる。

だが楊宣を見る母上の顔は心なしか引きつっているような気がした。

母上でも緊張することはあるようだ。

花琳をよろしくねと言って送り出してくれた。


花琳は楊宣と雨桐と三人で街へ行き、御飯屋で夕食を取り芸を見たりして楽しんだ。

ご飯屋では花琳が食べたことがないものもあった。立派な屋敷で育ってきたため平民の食生活について何も知らないことに気づいた。街へ出るようになって、初めて気づくことや初めて見たものが一気に増えたため、物の値段や平民の暮らしについても気にするようになった。

屋敷では平民に関する書物を読むことが増えたように思う。

人々の生活の成り立ちや、物の流通、国の成り立ちについても学んだ。

だが街へ行くと毎度新しい発見がある。

まだまだ学ぶことは多い。


ちょっとした広場は多くの人で賑わっていた。

三人は屋台で彩舟を買い、名を書く。

楊宣は商売繁盛を願い、雨桐は花琳の健康を願ってくれるそうだ。

「お嬢様は何をお願いされるのですか。」

「何にしようかしら。」

願うことが何もないといえば嘘になる。

将来いい旦那様と出会いたいし、両親にもまだまだ元気でいてほしい。平民の暮らしに触れてからは平民の安寧も願うようになった。

「やっぱり家族の無病息災かしら。父上、母上、兄上、妹弟たちだけでなく、屋敷に仕えるあなたたちもよ。」

そう言って雨桐の方を見る。

徐家の長女として願うのはやはり家族のことだ。

屋敷を支える使用人たちが元気であれば、両親も兄弟も元気で過ごすことができる。

さすがお嬢様と雨桐は目をうるうるさせている。

それぞれ書き終えて三人は川へ向かった。

普段遊びに行く川ではなく街外れにある小さな川へ行った。

川沿いにも多くの人が集まり彩舟を流していた。

様々な色や形の舟が流れていく。

どの舟も花の形だが微妙に花びらが違っている。

川に流した彩舟はある程度の下流のところで回収される。

その後自分の物を持って帰っても良いし、残った物はまとめて開運を願って燃やしてくれる。

舟には明かりが灯され天の川のようにきれいである。


三人はやや上流側へ行き、三人同時に舟を流す。

「見て、楊宣の舟はどんどん先に流れていくわ。」

楊宣の舟は何かに引っかかることなく流れていく。きっと人生も上手に舵を取って流れていくのだろう。

雨桐と花琳の舟は詰まりながらも一緒にゆっくり流れていく。

この先も二人で過ごせるのかと思うと嬉しくなる。

下流へ流れる舟を追って三人も下流へ向かう。

「あ、私の舟がどんどん岸へ寄ってるわ。」

岩や他の舟とぶつかりながら花琳の舟は雨桐の舟とわかれて岸へ行く。

見守っていると彩舟を流そうとしている人の手元へ花琳の舟が流れ着いた。

「すいません。」

舟を流すのを邪魔してしまい花琳は声をかける。

男は花琳の舟を持って振り向く。

振り向いて良く見知った顔に目を丸くする。

「若様……..」

以前も似たような光景を見た気がする。

花琳の横には楊宣がいる。

薄暗いため顔色はよくわからないがきっと穏やかではないだろう。

「花琳、そなたの舟が私の元へ流れ着いたぞ。」

曹家の若君は嬉しそうだ。

上流で流した舟が下流で誰かの手元へ流れ着くと良縁になれると楊宣に聞いたのを思い出す。

「若様と良き友人になれると良いですわ。」

曹家に嫁ぎたくはないが、良き友ではありたいかもしれない。

「そなたとはよく会うな。」

曹家の若君は楊宣を見た。

花琳が知る限り二回目だが、雰囲気的にきっと他所でも会うことがあるのだろう。

楊宣といる時に曹家の若君と会うのはあまり心中穏やかではない。

花琳はさっさと川から立ち去りたかった。

「では若様、御機嫌よう。」

くるっと向きを変えて行こうとしたが若君に腕をつかまれる。

花琳は若君を睨む。

「花琳、昔のように睿兄上とは呼んでくれないのだろうか。」

花琳は目を見開いた。

聞き間違いだろうか。

(なぜ、睿兄上が出てくるのか)

「 仰る意味がよくわかりません。」

花琳は人をかき分け川を離れた。



「あまり遅くなってはいけないからもう帰りましょうか。」

花琳はつとめてにこやかに楊宣に言った。

先ほど曹家の若君に会ってから気持ちが落ち着かない。

別れ際に言われた言葉がひたすら頭の中で反芻される。

なぜ若君が睿兄上のことを言うのだろうか。

睿兄上と呼んでくれないのかとはどういう意味だろうか。

いや、聞き間違いかもしれない。

だが、間違いなく睿兄上と言った。

睿兄上の続きはなんと言っていたのだろうか。



横を見ると楊宣の横顔が映る。

楊宣は花琳に若君とのこと聞いてこない。

以前屋敷の前で若君と会った時も何も言わなかった。

なぜ曹家の若君のことを聞かないのか。

身分が違いすぎて楊宣と花琳が結ばれることがないと思っているのだろうか。

もし花琳が曹家に嫁いでも楊宣は何も言わないのだろうか。

聞きたいが聞けない。

花琳は楊宣が好きだ。

でもどうしたらいいのかわからない。

花琳の一存では婚約を決めることはできないし、相手が商人となれば両親を説得しなければならない。皇子との婚約を望む母上を説得するには少々骨が折れるかもしれない。

それに花琳は遠回しながらもなるべく思いを楊宣に伝えているが、楊宣の方からはなにも言われない。

実は好いているのは花琳だけで、楊宣には他に好きな相手がいたりするのだろうか。

だが、好きでもない相手と祭りに行くだろうか。

それとも身分は上の花琳に逆らえないと思って祭りへ来たのだろうか。

結局考えた先にあるのは身分だ。

もやもやを抱えたまま早々に楊宣と別れて屋敷に戻った。

考えることに疲れそのまま深い眠りについた。


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