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川を流れる花の名は  作者: 一条悠
16/22

久しぶりに街へ

最近は川へ行くことが多かったが久しぶりに雨桐と街へ出た。

いつもより人が多い気がする。

だが、屋台などはいつもと変わりない。

久しぶり街へ来たため賑やかに感じるのかもしれない。

山は少々遠いためすぐには行けないが海や川は近いところにある。

今度は海へ遊びに行くのも良いかもしれない。


雨桐と飴屋台で飴を買った。

二人とも蝶の飴を買った。今にも羽ばたいていきそうな蝶だ。

きつすぎない控えめな甘さがちょうどよくて美味しい。

他にも刺繍糸と手巾を買った。

先日、徳妃に渡す手巾に刺繍をしてから他にも刺繍をしたくなった。

結局公主には刺繍について何も言われなかったが、花琳達が帰るときまでずっと刺繍を眺めていた。出来栄えのよくない刺繍であればずっと見ていることもないだろうからきっと気に入ってもらえたのだろう。

いつか直接話せるようになったら感想を聞いてみたい。

次は何を刺繍しようか。


トントン

屋台に並ぶ品々を見ていると後ろから呼ばれて振り向く。

「どうしたの、雨……」

後ろにいたのは雨桐ではなく会いたかった久しぶりの人だった。

「楊宣!!!!」

あまりの嬉しさに跳びはねそうになる。

街へ来ても会えず、花琳から楊商会へ会いに行くこともできず長らく会えていなかった。

「徐花琳様、お元気でしたか。」

「もちろんよ。会いたかったわ。楊宣も変わりなく元気に過ごしているようね。」

楊宣の変わらぬ爽やかな笑みを見ると幸せな気持ちになる。

偶然街でまた会えると思っていなかった。きっと運命だ。

楊宣の腰には花琳があげたお守りが揺れている。

いつもつけてくれているのだろう。

「仕事は大丈夫なの?」

少し痩せたような痩せていないような気がする。

仕事が忙しいのだろうか。目の下にわずかに隈ができている。

「明後日お祭りがあるので最近は忙しいですが、今日は休みですよ。」

祭りがあるのか。どうりで人が多いわけだ。

祭りは昔何度か行ったことがある。

「いいわね。昔はよく祭りで提灯を買ってもらったわ。」

海へ行って花火も見たことがある。

そういえば近年は全くお祭りへ行っていなかった。

行けるならば、楊宣と祭りへ行きたい。

「楊宣、一緒に祭りへ行きませんか。」

「ええ、行きましょう。」

街に馴染みが深い楊宣が祭りの見所を案内してくれるそうだ。

「雨桐、屋敷へ帰ったら母上にお祭りへ行く許可をもらうわ。」

雨桐はかしこまりましたと頷く。

以前の噂も大分消えたようだし、夜は昼間と違って目立たない。きっと母上の許可も得られるだろうし、再び噂が流れるようなこともないだろう。


それから花琳は楊宣から祭りの色んな話を聞いた。

死者の魂の成仏と今を生きる人々の安寧を見守ってくれるようお祈りするのが祭りの始まりであると教えてもらった。時期は違うが、都の外では田畑の豊作を願うお祭りもあるそうだ。

裕福で食べ物に困った事がない貴族には難しいが平民には収穫のわずかな差も大事で豊作を神様に願うというのはとても大事な行事だそうだ。

一方で豊作になった年は豊作を神様にお礼をする儀式もあるらしい。

花琳が神様に祈ることといえば一族の繁栄と安寧。

気づかなかった平民の暮らしに触れられた様な気がした。


お祭りの日は川で彩舟流しというのもしているらしい。

花の形をした舟に名を書いて川に流すことで開運を願うそうだ。

「何にも引っかからず流れていけば開運が待っている証拠です。上の方から流すとそれだけ大きな運が待っていますが、下から流すことで大きな災いもなく平穏に過ごせると言われています。」

つまり上の方から流せば運試しで、下から流せばお願いができると言うことだ。

「そして上から流して下で舟を流そうとしている人のとこへ流れついた場合その人と良縁になれると言われています。」

花琳には良縁といわれてもピンとこないが商人である楊宣には大事だろう。

商人は人と人との繋がりが大事だと昔睿兄上から教わった。

「商人に取って良縁は大事ね。」

「そうです。小さな噂一つで簡単に売り上げが伸びたり下がったりします。それに新しい縁ができれば商いの幅もどんどん広がります。」

以前の花琳には噂というものがわからなかったが、今ならなんとなくわかる。あっという間に広がっていくし、知らぬところで大きくなって広がってしまうこともある。噂ほど恐ろしいものはない。

商いに噂というのは直結するのだろう。

「そういえば楊宣は楊商会の長男だけど跡取りでないと聞いたわ。どうして辞退したの。」

「私は弟と違って養子です。庶子どころか養子の私が嫡子を差し置いて跡取りにはなれません。」

話す話題を間違えたかもしれない。

楊宣は養子だったのか。それならば跡継ぎでないのも理解できる。

実の両親は既に亡くなっているのだろうか。

だが今の花琳にはまだ聞けない。

「跡継ぎになりたいとは思わないの?」

「つい最近まで思っていましたよ。長男ですから。でも弟は私より忙しく遊ぶ暇もありません。こうして徐花琳様と会えるなら跡継ぎでなくてもいい気がします。」

肝心な部分ははぐらかされたような気がしたが、花琳も楊宣と街で会えるのが嬉しい。

弟のように跡取りなら街で出会うこともなかっただろう。

そう思えば確かに跡継ぎにこだわる必要はないかもしれない。

「私も楊宣に会えるなら跡継ぎでなくても平民でも構わないわ。」

楊宣は困ったように笑った。


楊宣が屋敷まで花琳を送ると言ってくれたが、外はまだ明るい。

人に見られるとまた変な噂が流れるかもしれない。

花琳には断りにくかったが、それを察した雨桐が代わりに楊宣に断ってくれた。

「祭りの日、日が暮れる頃屋敷へお迎えにあがります。」

祭りの日が楽しみである。


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