後宮へ行く
毎日刺繍に励みようやく完成させたところで宮廷へ行く日が来た。手巾には桜や梅、菊など四季折々の花を刺繍した。小さな手巾に四季が詰まっていて我ながらよくできたと思う。
母上と後宮にある徳妃の宮へ向かう
「徳妃にご挨拶申し上げます。」
「顔をあげてこちらへいらっしゃい。花琳もよく来たわ。昔会った時はとっても小さかったのにもう立派になったのね。」
徳妃は二人の来臨を喜んでくれた。
花琳が贈った刺繍もとても素敵だと褒めてくれる。
「体調を崩していてもこの刺繍を見れば外へ行かずとも花を楽しめるわ。」
絵はだめだが、刺繍は昔より上手になった。
昔、ある人に絵は心で描くものだと教わった。未だに心で描くの意味がよくわからないが、刺繍は心で描くの意味がわかったような気がする。色使いを少し変えるだけで華やかにも淋しくもなる。
徳妃は後宮の色んな話を聞かせてくれた。他の妃の話や陛下の話を聞かせてくれた。徳妃は陛下と書物の話をするのが好きだそうだ。
「徳妃、皇子と公主がいらっしゃいました。」
侍女が告げると皇子と公主が入ってきた。
皇子の方は先日街で会った浩然皇子だった。隣にいる公主は徳妃にそっくりで徳妃の娘だとわかる。皇子は花琳より少し上くらいに見えるが、公主は妹の陽若と同じ年くらいに見える。
「二人ともいらっしゃい。ちょうどよかったわ。花琳は二人に会うの初めてよね。紹介するわ。私の娘の素容と浩然皇子よ。」
「徳妃、徐花琳には先日街で会いました。」
皇子が花琳の方を見る。
「はい、刺繍糸を買いに行った時に会いました。」
「そうなの。二人にもぜひ花琳の刺繍を見てほしいわ。本当に上手で素敵なの。」
徳妃は二人に刺繍をした手巾を見せた。
公主は息を飲みじっと刺繍を見ている。公主は刺繍が好きだと皇子から聞いたが花琳の刺繍をどう見てくれるだろうか。
「とても素晴らしい刺繍ですね。繍服宮でもこれほどのものを作れる人はあまりいないでしょう。」
宮廷の一切の衣服を繕う繍服宮と比べられるのは気が引けるが褒めてもらえて嬉しかった。
公主は何も言わずただ見ているだけだった。
徳妃が手巾をしまおうとしても公主は手巾を放さず刺繍を見ていた。
そういえば、と徳妃が花琳の方を見る。
「花琳の婚約はもう決まったの?」
「いえ、まだお相手も決まっておりません。」
「あら、そうなの。祝賀会の時曹家の若君と一緒にいたみたいじゃない。徐家に適う家はないから曹家を狙っていた家は皆諦めたみたいよ。」
なんだか、話が大きくなってないだろうか。たしかに呂夫人から庇ってもらったが婚姻の話は全然ない。
「あの時はたまたま御一緒しただけで、特別な関係ではありません。」
「そうなんですか。祝賀会の時の簪も曹家からもらったと聞いたのでてっきりそろそろ婚約かと思っていました。」
皇子、なんだか婚姻を押してきてないだろうか。
やっぱり簪をもらうんじゃなかった。安くて趣味に合わない簪ならば返すか使わないかできたが、気に入った簪を見せられたら返したくないし使わずにはいられない。
あの簪は目立ちすぎたかもしれない。
自分の浅はかな行動に花琳は心の中でため息をつく。
「姉上、花琳はそろそろ婚約をする年頃だけどまだ急がなくていいと思っていますの。私の希望としては徐家の長女だし皇族の劉家に嫁がせたいわ。」
楊宣や曹家の若君のことを知っていても母上の希望は皇子に嫁ぐことのようだ。
最近言わなくなったためこだわらなくなったのかと思ったがそんなことはないらしい。
「そうね。私が薦めるのは浩然だけど、陽若の方が仲がいいわよね。皇太子の子どもの敏儀皇子はどうかしら?たしか花琳と同じ年頃だわ。」
徳妃は名案だと頷いている。
皇帝の息子の皇子しか見ていなかったが、そういえば皇太子にはもう子どもがいるのか。
もし陽若が浩然皇子と結婚して、花琳が敏儀皇子と結婚すれば花琳にとって陽若は叔母になる。
うーん。
それはなんだか嫌な気がする。
妹をおば上とは呼びたくない。
「でも曹家の若君も十分いいと思うわ。陽若が劉家に嫁ぐのは半分くらい決まっているようなものだし、花琳を劉家に嫁がせることにはこだわらなくていいんじゃないかしら。」
陽若は浩然皇子のとこを友人としては見ているが好きではないと言っていた。勝手に嫁ぐと決められているがそれでいいのだろうか。
家のことを考えず、花琳の気持ちだけで言うならば曹家にはあまり嫁ぎたくない。
どこか妙に馴れ馴れしいところがあまり好きになれない。
それから曹家の当主は必ず側室をもっている。正妻と側室がいい関係を築ければ良いが必ずしもそうとは言えない。
無駄な争いをしたくない花琳は側室になりたくないし、側室もいてほしくない。
そんなことを考えれば曹家はできれば避けたい。
だが逆にどこに嫁ぎたいかと聞かれてもまだ答えられない。
「そうかもしれないわね。ま、急ぐわけじゃないし花琳が17になるまでは待ってみます。」
母上もまだ自分の中で花琳の嫁ぎ先を決められずにいるようだ。




