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川を流れる花の名は  作者: 一条悠
11/22

祝賀会終わり

席に戻ってからは再び席を離れる気も起きず退屈な時間を過ごしているうちに祝賀会は無事終わった。

友人どころか知り合いもいないため話し相手がおらず退屈だった。

宴の後半に婚姻の話がでるかと思ったが何一つなかったし、役人の表彰や昇進の話ばかりでつまらなかった。


祝賀会全ての演目が終わり皆それぞれに会場を後にした。

花琳は母上の横について色んな人を紹介され、とりあえず笑みを振りまきながら顔と名前をできる限り覚えようとする。絶えず色んな人に話しかけられ息をつく間もない。

色んな人に出会いながら門に向かって進む。

人に会うのは人数が多いほど疲れる。花琳は早く帰りたくなった。



「徐夫人。」

あと少しで馬車だというのに呼び止められ後ろを向く。

先ほどの呂家の子息と女性二人がいた。

きっと女性二人は呂夫人と娘だろう。

「あら、呂夫人。久しぶりね。」

見ただけで呂家の人だとわかるとはさすが母上である。

花琳もいつか大勢の顔と名前を覚えるようになれるだろうか。

「うちの息子がお嬢様にお世話になったと聞いたのでご挨拶を。」

挨拶しただけで世話した覚えはない。

母上と目が合い、花琳は首を横に振る。

「ちょっと会っただけのこと。挨拶なんてよそよそしいわ。」

「そんなことないですよ。皆徐家に取り入ろうと必死ですもの。挨拶せねば、呂家の存在など簡単に消えてしまいます。」


四大貴族との繋がりを持ちたい貴族はごまんといる。

母上が色んな人に話しかけられるのも徐家という位に惹かれるからだろう。

身分という物は強力な武器になるが、時には鬱陶しく感じる。

自分はそうではないとでも言わんばかりだが、呂家もまた徐家との繋がりを求めているのだろう。

「まぁ。呂当主が活躍していらっしゃるのに存在など消えないわ。」

存在が消えるというのは単に顔を忘れるという意味だけではない。

文字通り、存在が消えるという意味もある。

四大貴族がその気になれば権力を持たない貴族を消すことなど容易である。

没落しないか危惧しているようだが、上級貴族の中でも頂点に近しい呂家が消されることはないだろう。


「慈悲深い徐家は誰にでも手を差し伸べていらっしゃるようですから足元にお気をつけください。」

「どういう意味かしら。」

「言葉通りですよ。下位の者と気軽にお話しなさっていたら足をすくわれますよ。」

花琳が先日楊宣と出かけた時のことを言っているのだろう。

祝賀会ですっかり噂として広まってしまったようだ。唯一の救いは平民を下級貴族と間違えていることだろうか。だが、他の者からすれば下級貴族も平民も関係ない。下の者と話していたという事実だけで十分噂のタネになる。

迂闊だった。徐家のことを考えず自分本位な行動をしてしまった。

だが、母上はなぜお礼をしに行くと言ったときに何も言わなかったのだろうか。

呂夫人に色々言われても母上は涼しい顔をしている。

緊迫した雰囲気に何事かと人が集まってくる。


「では聞くけど、あなたは侍女や使用人と話をしないのかしら。」

「使用人の話はしてませんわ。徐家のお嬢様が街で下位の男と親しげにしているのを見た人がいますの。どう言い逃れなさるのでしょうか。」

「娘が久しぶりに街へ行くから付き人にも派手な格好をさせただけだわ。それに我が家は使用人も皆仲が良いから楽しくしていたら親しそうに見えるのよ。」

「貴族も娘ともあろう方が使用人と恋仲だなんて嫌ですわ。」

「恋仲とは言ってないわ。変な噂に流されていたらあなたこそ選択を誤るのではないかしら。」

ふふっと母上は笑う。

呂夫人は母上と花琳を睨み、悔しそうな顔をしている。


群衆が賑やかになり人をかき分けてくる人がいる。

曹家の若君が来た。いつの間に群衆に交じっていたのだろうか。

「呂夫人、噂に流されて変な憶測を述べるのは美しくありませんよ。」

「曹家には関係のないことですのでどうぞお下がりを。」

「だから噂に流されているというのですよ。花琳といた下位の男というのは私の使用人です。私が待ち合わせの時間に遅れたので先に使用人を遣わし街を案内させていたのですよ。これがまた変わった使用人でしてね。都を知り尽くし、使用人としての能力は有能ですが、派手好きなんですよ。顔もそこそこ良いですから派手な服を着ると下級貴族に見えてしまうんです。面白いでしょう。」


呂夫人が言うように曹家の若君には全く関係のない話だ。

なのになぜ助けてくれるのだろうか。

花琳は若君に何もしていないため助けてもらう義理はない。

だが初対面にも拘わらず簪をもらい、今はかばってもらっている。

なぜこんなにも花琳のことを気にかけてくれるのだろうか。


「長い作り話は結構ですわ。」

呂夫人は飽きたように向きを変え花琳達に背を向けた。

このまま呂夫人が去ってしまえば噂は消えず、話がさらに大きくなって広まるかもしれない。


「お待ちを。その日私が花琳と一緒にいたという証拠をお見せしましょう。彼女の簪をご覧に。とても豪華で素敵でしょう。これは街の装飾品の店で私が花琳に送った物です。店主に聞けばわかりますが、花琳と一緒に店で選んだ簪です。どうです?これで疑いは晴れましたか。」


「曹家の若様にもらった簪なら納得だ。」

「さすが立派な簪をしておられる。」

「やはり噂は嘘なのね。」

「徐家の人が不埒なことするわけないわ。」

「徐家の娘と曹家の若様。お似合いだわ。」

皆納得しているようだ。これで噂は消えていくだろう。花琳と若君の仲を巡ってあらぬ噂が立ちそうな気がするが徐家の名声を傷づけるものではないため我慢するしかない。

幾千の噂も千年経てば消える。

気にしなければ自然と消えていくに違いない。


呂夫人は去り、野次馬もそれぞれに散っていった。

一件落着だ。


「お助けいただきありがとうございました。」

母上が曹家の若君に礼を言う。

「どうぞお気遣いなく。親戚同士助け合いですよ。」

徐家と曹家が最後に婚姻関係を結んだのがいつだったかはすぐに思い出せないが遠くとも親戚なのは確かで、他の四大貴族も親戚同士である。四大貴族間の婚姻はよくある。

だがそれとは別に簡単に親戚同士というあたり、若君は本当に花琳を娶ろうとしているのかもしれない。

そう思えば、先ほど助けてくれたのも辻褄が合う。

でも花琳の疑問は消えない。偶然店で会っただけなのにすぐに高価な簪を送り求婚をするだろうか。それに向こうは親しげに名前を呼んでくる。どんなに気安い人でも会って2回目で名前を呼び捨てる人はいない気がする。



若君と話すこともなく花琳と母上は帰路についた。

「母上、なぜ私が楊宣と会うことを止めなかったのですか。危うく私は徐家の名声を傷つけるとこでした。若君が助けてくれなかったらどうなってたことか。」

「自分で身をもって経験することが一番いい。怖かったでしょう。それでいいのよ。何事も経験が大事。曹家が助けずともあれくらいの噂は徐家の力で簡単に消すことができるわ。だから何も言わずに花琳のしたいようにさせたの。気づいたならそれでいいわ。」


母上にはこうなることがお見通しだったようだ。

それでいて何も言わず、花琳のしたいようにさせた。

母上には敵わない。





念の為(呼び方)

平民→農民、町民、商人など

下位→下級貴族

中位→中級貴族

上位→上級貴族

四大貴族は家名で呼ぶ(徐家、曹家とか)


なお、奴隷はいません。


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