Vol 4. サードスリル
2018年の秋、某大学の鈴木教授は今日もゼミ生の前で講義
そして講義終了後、就職の決まった研究室の助手をしている
ゼミ学生の山本が挨拶に来た。
「教授の御推薦のおかげで就職が決まりました。
有名グローバル大企業の損害保険会社に
ありがとうございます。」
「良かったね。頑張って会社に貢献してくれたまえ。」
某メーカーに就職して産学連携プロジェクト担当者として
大学に再び顔を出すようになった田中がやってきて
雑談とも打ち合わせとも言えるような会話が始まる
「数年前の研究委託で特許料が入ってくる製品があるとはいえ
いつ後続の他社製品に淘汰されるか わからないんですから
今すぐ誰も考え付いていない新特許を取得したい所ですよね」
「研究には金がかかるからねえ
商用技術として利用できるものではなくて
学術理論なら、いくらでも書けるといえば書けるんだが
新しいと思っても、知的所有権データベースで検索すると
もう誰かが特許をとっている商用技術だったり
助手が考えたものにいたっては、商用技術にするために
製品に実装するのが不可能な絵に描いた餅ばかり
いやぁ、どうしたものかな。」
「まあ まずは今年、次世代製品開発が始まりますから
その製品に関連した調査委託を発注しますんで
その調査をしている内に多くの人が必要とする製品機能や
まだ誰も考えてないアイデアが出てくるかもしれませんから」
「前回、特許を複数取得した時に中心になっていた内輪の天才が
卒業してしまいましたからなあ
しばらくは調査委託だけにしておこうかと思っておる」
「我が社が2019年度に産学連携事業で扱うのは
会員制ソーシャル・ゲームのようなバーチャル・タウンでして
それを構築するとして、どれくらいの人間が住人になって
生活して税金を払って買い物をしてくれるかの調査委託
そんな依頼となります。2018年度と同じ調査委託契約で
支払う報酬も同じ額ですがぁ。それで宜しいですか?」
「ゲーム? 大学に入学したばかりの
少し前まで高校生だったのが騒いでいる
ファンタジー世界で冒険する主人公の私と仲間
っていうパターンのゲームか?
歴史にあった帝国主義の植民地増加での世界征服シナリオを
少し変えた陣取りゲームや、
偉大な将軍や王様になった気分になれるゲームか?」
「いえ、ゲームといっても、
18歳未満の学生や18歳から35歳までの若年労働者層を
対象にしたものでは無くてですね
36歳から55歳までの中高年労働者・経営者層や
感覚が、それらの人々に準じている人々も対象にしています
大雑把に言えば大人のマネーゲームや電子商取引を
ゲームっぽくデコレーションしたものでして
実は全くゼロから発案したアイデアでは無いんです
12年くらい前に麦国で開発されたセカンドチャンス
あれの類似ソフトが一時、大量に販売されて消えたんですが
その中で技術力はあって素晴らしいものの宣伝や営業が駄目で
プロモーションに失敗したソフトを、ただ同然で買取りまして
流用改造したバーチャル・タウンを
我が社の市場調査と宣伝プロモーションなどの各種技術により
大々的に商用化していこうという計画です」
「でもなあ、SNSに駆逐されて淘汰されたんじゃないのか?
ダメと評価されたものが再評価されるなんて事は可能かね?」
田中がプロジェクターを操作してスイッチを入れ、
講義室スクリーンにサードスリルについての説明が写し出される
ゲームを作る参考資料として準備していたようだ。
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サードスリル
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● 特徴
3DCGによる商用仮想世界である。
ゲーム内には、友達同士が集まって会話できるカフェ、映画館
ストリーミングでライブ配信をするコンサート会場
配信コンテンツによる娯楽や転売ショップなどを作る事ができる
様々な活動のための場所が存在するが、世間話チャットや
同じ趣味の仲間探しの場として利用するユーザーが多い
他の住民とのコミュニケーション方法は普通の文字チャットと
マイクを用いたボイスチャット機能がある
文字チャットは内容を別言語に変換する自動翻訳機能もあり
他言語ユーザーとも、ある程度チャットできる
ほとんどの商用仮想世界内での生活道具が
ユーザーによって作られており、著作権は作ったユーザーに帰属
生活道具とは、家、乗り物、服、靴などや、サウンド等。
● 概要
SF小説「スノウ・クラッシュ」を基本シナリオにしたサービス
● 歴史
見た目がゲームっぽい一方、非常に自由度が高いため
ゲームであるという意見とゲームではないという意見が存在
ものづくりは制作ツールだけでも作れる。作ったものは
配布、販売、あるいは他人の製作物を貰う、購入も可能
ゲーム内通貨リンドル(L$)は、270L$≒1麦ドルに相当
いつでもリアルマネーとゲーム内通貨の交換が出来る
ユーザーはこの通貨でゲーム内での取引、商行為が可能
世界はSIMと呼ばれる256m四方の土地単位で区切られている
多くのSIMがつながったメインランドと呼ばれる大陸と、
単体か関連SIMのみで構成されるプライベートSIMとがある
総面積は神京都と同じくらいである
様々なタイプの土地が存在し借りることもできる
これらはイベントやカフェやショッピングモール作り等
法令および規約の範囲内で自由に行うことができる。
● バーチャル・タウンの一過性ブームとブーム終焉、縮小化
サービス自体は現在も続き5万人強のユーザーが住人として生活
同時接続がある同様のサービスではトップ規模のサービス
ブームのきっかけは、2006年5月に麦国ビジネス誌に
シミュレーションサーバーのホスティング等を行い
多額の利益を得た人が現れたことが報じられ
サービスが全世界に知られることになったことによる。
また、人々が次世代に当たるWeb概念を求めていた時期に
麦国ビジネス誌が紹介したために爆発的に流行した
月本でも企業が話題に乗り遅れないよう対応し、
個人ユーザーも時代に乗り遅れないよう増加しブームは加熱した
しかし次世代サービスとしては使い勝手が良くなかったようで
より使い勝手がいいサービスに押され急速に沈静化した。
それに伴い参入企業は2008年以降軒並み撤退し
それに合わせユーザーも次々やめて短期間ブームに終わった。
ブーム当時、国内外で同様のサービスがたくさん生まれたが、
2010年代以降は閉鎖が進んでおりユーザーの合流がみられる。
主に共通趣味でつながるコミュニケーションツール
として細々と利用する人々が存在している。
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「LR社がセカンドチャンスを開発していた頃に社会人になった
最初にした仕事がバーチャル・タウン開発だったエンジニア
当時は若くて開発中心メンバーになれなかった数人に
”今度は自分が中心になって構築しませんか?”
と呼びかけて我が社に引き抜いた有能な働き者が
ソフトウエア・デザイン、エンジニアリング、プログラミング
画面操作設計、デバッグ、テストと仕事をしていますので
セカンドチャンスと基本設計とかは同じです」
「客観的な意見を聞いてみようか山本君、どう思う?」
「仕事として成立しなかったも同じくらいに
宣伝プロモーションに失敗した製品からの流用なら
テストプレイを実行してみてユーザーがつかなくて不採算
と判明したら見切って中止にするで、いいんじゃないですか」
「いや、中止には、ならないと思いますよ
社内で絶大な権力を持った人の肝いりプロジェクトなんで」
「じゃあ広告ビジネスを組み込むとかですか?
セカンドチャンスの仮想空間都市の中で企業がやったのって
結局、住人に向けて自社を宣伝するためと
”仮想世界でも我が社の製品を利用して下さい”
ていう自社製品自動販売機を作っての宣伝活動でしたからね
そういう企業の広告宣伝費が運営資金源になるんですよね?」
「いや、そこらへんは広告代理店にも協力してもらって
既に初期ユーザーは確保してあります」
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某大学OB、ならびに関連各位の皆様
2019年も年末となり 御多忙な事かと思います。
某大学 工学部 ▼△研究室の田中といいます
バーチャル・タウンをネット空間上に構築し
その空間の住人となってくれる人を募集します
住人になる手続きは簡単、
サードスリルというアプリをダウンロードするだけ
2019年12月15日から 2020年1月15日まで
メール記載のリンクからダウンロードすれば
誰でも住人となってプレイできます
時間のある方 プレイをしてみて下さい
ベータ版で何も無いに等しいバーチャル・タウンですが
こういうゲームだったら、もっと楽しいのにとか
こう変えた方が面白いとか思いつかれた事がありましたら
投書チャットにメッセージを書き込んで下さい。
以前、ボランティアOBとして参加して下さいました皆様は
ご存知かと思いますが、初参加の方もいるかと思いますので
投書チャットのリンクも張っておきます
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2019年11月末、1年がかりで製作されたサードスリルの
テストプレイを大勢の人にしてもらおうという事で
知り合いのOBとか在学生とか開発者が馴染みのある人に
メールが送付された
「参加者いますかね?」
「少しはいるでしょ たぶん
最初は研究室関係者だけでも多少は増えるんじゃないですか
テストプレイ中はアイデアを膨らます事だけを心掛けましょ
参加者を ある程度の人数に増やすために」
「そういえば 先輩? 我慢して下さいね?
短気を起こして追い払わないで下さいね
在学生の友人参加とかで小中高の同級生とかいますから
非常識で礼儀しらずな無礼者とか、
畑違いな業種常識や商習慣とかを持ち込むの人や
挑発文句や言葉の暴力での攻撃をする人とかが いても
黙っておいて下さいね。嫌でも、気にくわなくても
言葉の暴力で叩きのめし返したり
相手の頭の中にある論理を破壊して遊んだりしないで
参加者を増やすためだと割り切って我慢して下さいね。」
「わかってる。そんな事、言われなくても」
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テストプレイ チャットログ 開始
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山本: テストプレイ初日ですよね? 今日?
田中: 内輪参加だけになりそうですね。年末だから忙しいんでしょう
先輩: んなもん やる前から わかってた事だろーよ。
今まで通り いつも通りの世界から出る人は少ない。
馴染みのあるSNSとかで遊んでいる方がイイ人が多数派だろ
山本: 業界標準は強し って事ですかね。」
田中: いきなり業界標準の人気アプリに勝とうってわけじゃないですから
先輩: 勧誘メールの反応とか読んでも わかんだろ
”そんな ワケのわからんゲームをやるより Acebookの方がいいです”
”そんな 買い物しても商品が届くの? てなので買い物するより
Mazonで買い物した方が いいです”
”そんな バーチャル・タウンのライブハウスで音楽を聴くより
マップル・ミュージックでダウンロードしたり
流行の音楽を聴いていた方が いいです”
てな反応だったんだから
山本: なんか このまま いったら実験の残骸が残って
単なる内輪の連絡伝言板に なっちゃいません?
田中: バーチャル・タウンは一つあればイイとは、ならない
テストプレイ初日ですよ? まだ始まったばかりなワケだし
口コミとか色んな宣伝をしていけば 住人も増えますよ
これから これから
先輩: そうかー 最初が肝心って言うよなー
どんな人気歌手も最初は一発屋。最初の一発が無いとダメだろ
1980年に麦国で発売されたパソコンとかも
表計算ソフトが確定申告に使えるからで普及したのと同じで
普及する キッカケになる売りになるものが無いとダメ
山本: 若い元気な学生とかはバーチャル・タウンで交流より
実際に誰かと会って騒ぐ方が楽しいでしょうからね
なんか、必要になって、しょうがなくバーチャル・タウンを
利用して誰かと交流せざるを得なくなるような・・
そんな事が突発的に発生するワケじゃないですからね
先輩: 最初の予定では政令指定都市くらいの規模にする
とか言ってたけど、本屋やライブハウスがあるくらいの
シャッター商店街しかない廃れた地方都市みたいな規模だよな
本当に計画通り採算がとれるくらいに住人を増やせるのか?
田中:
軽音系サークルがアーカイブ過去音源で作ったライブハウス
文芸系サークルが今まで発行した作品で作った古本屋
一般消費者研究系サークル会が作ったフリーマーケット
今回は内輪でしか出店者を募らなかったんですから仕方ない
暇な金持ちってか大都市の高所得者には宣伝してませんから
今回、招待状を出したのは地方都市中所得者を上限にした
18歳から35歳までの若年労働者や学生の皆様なので
無理に金をかけて出展しても不採算だと赤字になるだけだから
最初は小規模に始めて少しずつ拡張するう方針になりまして
テストプレイ中に参加してくれる独身の若年労働者向けの
婚活している人を対象にした会員制婚活センタとかが
少しは普及を推進してくれると目論んでいるんですけどね
・・・(中略)・・・
山本:
テストプレイを開始して一週間
冬休み・年末休みに突入しますけど、街に何か増えました?
田中:
山本さんが紹介してくれた損保代理店
OBが在籍する会員制婚活センタ子会社のレンタル恋人紹介会社
OBが経営している家庭教師紹介会社
クイズゲームセンター
増えたのは、それくらいで今の所、後は何も
・・・(中略)・・・
先輩:
バイオハザードっぽい機能追加
感染しなかったらボーナス・ポイント
感染したらライフ・ポイントが減ってしまうという機能
どうだ? これ? いいよな?
田中:
なんか数年前のSARSやMARSみたいなウイルスが
流行しているみたいなんで、そういうのは、やめときましょ
先輩:
なんで? 変国で流行してるだけなんだろ? 大丈夫だって
”何か 売りになる人気が出そうな機能を付けないと
どうにも こうにも なんなくなるよね
何を追加したら うける?”
”つまんねー機能なら無い方がマシ。労力の無駄”
という問答を繰り返すだけじゃ駄目だろ?
田中:
ではボランティアOBさんに当たり前な日常を講義して貰う?
変にゲーム追加機能やゲームシナリオを捏ねくり回すより
事実は小説より奇なりで面白いって事があるかもしれませんし
ネタ切れなのに面白くも無い事をコネくり回して捻り出しても
どうにもならなくなるだけかもしれないですから
”曇り空の 誰もいない砂漠を
オアシス探して漂流しているような気分だ”
みたいなグチを言うだけになるよりは
大学の外で社会人として働くOBの日常でも聞いて
それをデフォルメでもした方が
バーチャルタウン構築の参考になるかもしれないですから
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テストプレイ チャットログ 終了
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