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2 ファンタジーが現実になると気持ち的に痛い

カイジュールは聖女を召喚するために王城の召喚の間に居た、と静かに言った。

「俺はこんな()()だから‥魔力は他と比べ潤沢にある。召喚には膨大な魔力が必要だからと、神殿長様に請われて登城した」

カイジュールの世界には王様がいるらしい、と誠一は彼の話を聞く。

彼が重い口を開くまで結構な時間を要した。


少しでも口を軽くしようと、酒を勧めようとした誠一は彼の年齢を聞いてのけぞった。

彼は17歳だった。まだ、子どもだ。立ち振る舞いは落ち着き隙がなく年よりも随分と大人びている。枯れたような容姿と相まってもっと年上に感じていた。


仕方がなく炭酸水と水のペットボトルをテーブルに並べて好きな方を選んで、というと、とても戸惑った顔をして恐る恐る水を手にとった。キャップの開け方に悩んでいたので開けて渡すと俯いてしまう。

その様子は、聞いた歳よりも幼く見える。


俯いた彼に、誠一は、話の穂をつなげようと、自分とこの世界の話をした。

自分は一人暮らしで、伴侶はいないこと。

カイジュールを召喚した魔法陣は完全なる趣味で描いたものだということ。

この世界の魔法陣はただ描くだけの「絵画イラスト」だということにカイジュールは驚きを隠せないようだった。

この世界には「魔法」というものはないこと。

魔法はなく、「科学」によって人の生活が潤っていることを説明した。


カイジュールは理解したのかしていないのか、静かにあいづちも打たずに聞いていた。

反応が薄くてつまらなかったので、AIアシスタントを起動させ音楽を流した時には無表情なのに大きく驚く、という器用な表情をして見せていた。

なんとなく、してやったりという気持ちになったのは内緒だ。


説明がひと段落し、訪れた質問タイムでは、彼は淡々とクエスチョンを繰り出した。

ここはどんな世界なのか、魔獣はいるのか、この国の王は。

魔法がないのに魔法陣が流通しているのはなぜか。

先ほどの魔法のようなものの動力は?

電気とはなにか。なぜそれを生み出すことができるのか。なぜ制御することが可能なのか。

科学とは何か。


クエスチョンが尽きると、ようやく、本当にようやくカイジュールは自分の話を始めた。

曰く、自分は城で聖女召喚の儀式に参加していた、と。


「で?その召喚の儀式?はどうしたの?失敗したの?」


平坦な顔をして彼の話を聞いていたが誠一は内心、手で顔を覆っていた。この会話がなんだか恥ずかしい。

召喚、魔力、神殿長様。

なかなかに香ばしい単語が並んで誠一は落ち着かない。中学生の頃の地獄の蓋が開いてしまいそうだ。

カイジュールは、誠一とは視線を合わせずにペットボトルを見ながら話す。

誠一の内心の悶絶には全く気がつかない。

「‥魔法陣に魔力が満たされ起動し始めたときに魔力が暴走した。とても、抗えないくらい強い力で引かれて‥。他の人間が魔力を吸い尽くされて枯れていった。俺は他よりも魔力があったから、抗って、抗って‥魔法陣に吸い込まれた」


そうして、気がついたらここにいた。


「俺は死んでいるのか‥?

神殿長に御恩も返せていないのに」


小さく呟いてカイジュールは、グッと押し黙る。

カイジュールの肩が震えているのを見ながら、誠一はテーブルに肘を載せて頬杖をついた。


とりあえず、異世界転移か‥、と考えて、とりあえずってなんだよ、と自分に突っ込む。

目の前の彼は、召喚しようとして召喚されてしまったらしい。

彼の話から推測するにこちらの扉が開いていないのに、無理にこじ開けようとして召喚の魔法陣に負荷が掛かった。魔力の暴発は、扉をこじ開けようとした代償か。

そこに偶然にも「扉」となる、誠一の魔法陣が起動する。

押して押して押しまくっていた扉が急に開いたらどうなる。


押していた人間が、中に入ってくる。


そして、その場で最も「魔力(押す力)」が強かったカイジュールがこちらに転げ落ちてきた。


(まあ、なんと香ばしい‥)

頭の中で整理したことを反芻して、誠一は遠くを見る目になる。こんなことをとても真面目に考える日がくるなんて思いもよらなかった。


カイジュールが顔をあげた。目が少し赤い。途方にくれているような、それでいて強い意志を秘めた目をしていた。

「俺は、聖女を探さなければいけない」

強い口調だった。

「探し出して、連れ帰らなければいけない」

言い聞かせるように、言い含めるように。眉間に深いしわを寄せて、カイジュールは呟く。

「連れ帰り、国を、人族を救う」

誠一は、カイジュールを見つめる。視線は合うことはない。彼は決して誠一の目を見ない。警戒しているのか、怯えているのか。

年齢に見合った頑なさは酷く脆い気がして誠一はふと彼がかわいそうになった。

振り落とされた右も左もわからない世界で、すがるものは前に居た世界で得た指令だけ。


時折見せる卑屈な言動。

痩せこけた頬と、乾いた唇と肌。

それらから彼の境遇があまり幸せではないことが伝わってくる。


ふと、カイジュールが視線をあげた。視線が合った。

その瞬間、カイジュールは誠一を床に叩きつけ、腕で誠一の首を締めた。

「ぐっ」

「お前は召喚師だ」

カイジュールが低く呟いた。

「協力してもらう」

喉に腕が食い込む。息が詰まる。

協力を願う体勢じゃないよね?!と誠一は手を振り払おうとするが全く歯が立たない。

カイジュールは、指先に何かを集めようとして、失敗した。舌打ちをしてさらに体重をかけてくる。

「ぐ、がっ」

呻き声が喉から漏れた。

意識が摘み取られそうになる頃合いを見計ったのか、カイジュールの手が緩んだ。ひゅっと、息が一気に楽になって誠一はむせる。咳き込む誠一に、カイジュールは冷ややかに告げる。

「協力すると誓えば殺さない」

激しく咳き込みながら、誠一は彼を哀れんでいた。

誠一が死ねば、困るのはカイジュールだ。


「殺す」と恐怖で支配することでしか協力を得られないと「知っている」から、攻撃をしてくる。

攻撃をして自分が上位だと教え込まなければ、自分の身が危険にさらされると知っている。


だけど、それは大間違いだ、と誠一は、カイジュールを振り払って体を起こして微笑った。けほり、と余韻のような咳が出る。


「殺して困るのは、君だよね」

首をさすりながら、カイジュールを見る。

カイジュールは動じない。動揺を見せれば負けるのは自分だと、知っているから。

「いいよ、協力してあげる」


誠一は微笑って、その代わり、と続ける。


「条件がある」

一つ目は、聖女を説明もなしに無理やり連れ帰らないこと。説明して納得させた上に同意をとること。

二つ目は、誠一に迷惑をかけないこと。誠一に繋がる糸を残さないこと。誠一や、誠一の身内‥家族への累が及ばないようにすること。

「この二つだけ守ってくれたら、君の行動に文句は言わない。衣食住も面倒をみよう」

カイジュールは目をみはった。破格とも言える条件に感じるだろう。でも、これは簡単なようで難しい。

(特に1番目は難しいだろうな)

誠一は呑気に考える。叶うなら、聖女さんは是非とも「異世界転移!素敵!」と考えてくれる人が選ばれて欲しい。


少し考えてカイジュールは低く呟くように了承した。

右も左もわからない今の状況でカイジュールには頷く以外の選択肢はないだろう。

彼は、ここで誠一にこの家を追い出されたらどうにもならないことを理解しているだろうから。

殺すという強い言葉で脅してまでも、誠一に協力を願わなければいけないことを知っているから。


誠一はそれをわかっていて条件を出した。彼はそれを守るだろう、という直感があった。

彼はまだ子どもだ。

話してみればわかる。

周りを信用できない、でも、誰かに助けて欲しいと願っている子どもだ。

子どもは庇護しなくてはならない。


痛む喉に手を当てて、誠一はカイジュールに言った。

「じゃ、家の中を説明しようか。今から、ここが君の家になるからね」


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