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マリアは美しい娘だった。

誰もが求めるよう美しく、気立ての良い娘。

彼女を妻に出来る男は幸せだと皆が噂するような娘だった。


「マリア、君の結婚相手が決まったよ」

マリアの父が唐突に書斎に呼び付け言った。

「兄のユアンに決まった」

マリアは俯いた。

血統を守る為にマリアの生家であるガルディア家では近親婚が当たり前に行われていた。

しかし、これ程までの近親は無かった筈だ。

マリアは今年十六歳、ユアンは今年二十五歳だ。

一番歳の近い従兄弟は四十五歳であるから、マリアは忌まわしき近親婚をせずに済むとホッとしていたのだが。

まさか兄とは、とマリアは震える肩を自らの腕で抱いた。


父の書斎にノックの音が響く。

「入りなさい」

「失礼します」

ユアンは蒼白のマリアとは対照的に眩しいばかりの笑顔を浮かべていた。

「ああ、マリア。美しき私の妹。君を娶る事が出来て幸せだ」

ユアンはうっとりとマリアに歩み寄る。

「ユアン、マリア。二人の婚姻式は半年後とする。良く話し合って諸々を決めなさい」

はい、と返事をして二人は退室した。

「マリア、こちらへ」

マリアはユアンの私室に半ば強引に連れて行かれる。ユアンの私室に置かれたソファセットに座らせられた。

「マリア、君は私が嫌いかい?」

マリアは力無く首を振る。

「驚きに声も出せないんだな。マリア、嫌いでは無いのならどうか私を受け入れて欲しい。大事にすると誓う」

マリアは何とか頷き、意思表示をする。

「マリア、君が私を愛せないのなら、心は他にやっても構わない。それでどうだろうか?」

マリアは矢張り頷くしか出来なかった。

その時ユアンがどんな表情をしていたかなど、考える余裕も無かった。





「お嬢様、今日の午後はユアン様とお出かけのご予定ですね」

執事のシドが茶を淹れながら言う。

「ええ。お兄様と小物を見に行く予定です」

マリアは頰を薔薇色に染めた。

シドはマリアの初恋の相手だ。兄よりも三つ上のシドはマリアにとっては幼い頃から憧れの対象だった。今日も綺麗に後ろに流した黒髪。切れ長の目。いつも微笑を浮かべた唇。マリアの理想の男性だった。

「ユアン様と結婚前に出かける機会は少ないですからね。きっと良い一日になるでしょう」

マリアは笑顔でいたが、心の中は荒れ狂う嵐のようだった。

「そうね。そうなれば嬉しいわ。シド、いつものをお願い」

シドは微笑はそのまま、マリアの背後から移動した。

「はい、お嬢様。仰せのままに」

シドはマリアを抱きしめ、深く口付けした。

マリアに閨の手ほどきをしたのはシドだった。

父に命じられ、シドはマリアの純潔を散らさぬままに、婚姻後に行われる子を成す行為の説明をした。それはマリアとユアンの婚姻がマリアに知らされてすぐの事だった。

そしてマリアとシドは度々この行為を行った。

マリアのこの教育の相手を決めたのはユアンだという。ユアンは正しくマリアの気持ちを理解していたのだろう。

「……マリア」

シドはこの時だけはマリアの名を呼ぶ。マリアはそれがとても嬉しかった。切なげに掠れたシドの低い声を聞くと、マリアの女としての欲望が甘く爛れた。

シドは暫く口付けを続けると、ゆっくりとマリアから離れた。

シドの唇にはマリアの紅い紅が移っていた。それを親指の先で拭う姿は壮絶な色気を醸し出していた。

「紅が取れてしまいましたね。私が差しましょう」

この遊びの後にシドがマリアに紅を差す。普通は執事の仕事では無い。だが、シドは器用にマリアを美しく彩るのだ。

「離れ難い。ですがお時間です、お嬢様」

「ええ。ありがとう、シド」




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