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短編集 リヨンの記録

馬鹿の門人の賢者さん

作者: 紅白

 ベルリア王国リヨン県立アルディテーテ高等学校。サクラに囲まれた敷地に小さな校舎。和やかでつつましやかなその校門の通称は、馬鹿の門。この別称だけで、高校についての説明はいらないだろう。そして僕はこの春、その校門をくぐった。

 アル高校での生活も半年が過ぎ、現在我がクラスメイトたちは、秋の文化祭の準備にいそしんでいる。ガラの悪い連中、極度におとなしい連中の中に、かの人「賢者さん」はいた。

 一学期の学科試験、全教科平均九十九点。魔術試験九十九点。体術試験九十九点。顔はかわいく、声は細く、隣に並んでみれば相当小柄だと気付くのだが、頭が小さいせいで一見身長が低いようには見えない。

 そんな彼女の僕に対する第一声は「おい、大丈夫か」だった。ちなみに僕は、彼女の隣の席でちょっと咳をしただけである。

 男子からの好感度は言わずもがなだが、さっぱりした性格とさっぱりした話し方で、同じ女子からもひがまれてはいない。これだけ突飛した存在でありながら馴染んでいるあたり、さすが賢者さんだ。

 そんな賢者さんは、現在黙々と広告の張り紙に絵を描いている。その絵は、うまい。僕は、以前放課後に交わしたやりとりを思い出した。

「ねえ、賢者さんって、なんでこの高校に来たの」

「やりたいこと、やるために」

「やりたいこと?」

「知りたいって言われても、教えてやんないぞ」

 そう、賢者さんはにやりと笑った。

 もしかして、絵を描くためとか。普通の高校だったら宿題の量が半端ないって聞くから、絵を描く時間も取れないだろうし。いや、でも美術高校もあるか。

 そんなことを、集中しきっている賢者さんの横顔を眺めながら考えていた時だった。賢者さんの表情が変わった刹那の、爆音。

 次に気づいた時には、僕らは賢者さんが作った防護魔法壁の中にいた。外には魔導士十数人がこちらに向かって手をかざしている。賢者さんは口角を上げて叫んだ。

「言葉での宣戦布告は常識ですよ、愚父」

「馬鹿に言葉が通じぬことは常識だぞ、愚娘」

 一体何が、と僕が言った声は相当かすれていたが、届いたらしい。賢者さんは答えてくれた。

「父はこの高校を嫌い、物理的に消そうとしている。わたしはこの計画を知ってここに入学した」

 これが、リヨン県議会議員と馬鹿の門を選んだ少女がど派手に始めた、壮大な親子喧嘩の冒頭事件だった。

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