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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

お前の姉になった覚えはない

作者: 泔木 裕

電波を受信したので。勢いで書いたのはいいものの途中から失速しました。

 「おね〜さま^〜〜〜〜」


 「ぐふぅっ!!」


 小さな黒い塊が目にも止まらぬ速さでタックルをかましてくる。私口は乙女が出していいような声でない声を放ち、足が地面から離れて体がくの字に曲がり、メガネの鼻あてが鼻から浮き、手に持っていた紙束が手を離れ宙を舞う。その躯体のどこに私の体を吹き飛ばす力を隠していたのか。理解に苦しむ。


 そして鈍い音を出しながら後頭部が地面とキスをする。キスと言うにはあまりにも乱暴すぎるかもしれない。ともかく、私の後頭部が地面に激突した。


 「あいたーーー!!!」


 紙束を諦めて宙に浮いていた両手を後頭部にあてがい、痛みに耐えるためにうずくまろうと伸びていた体が丸まろうと動く。


 「「おうっ?!」」


 タックルしてきた彼女の頭と私の頭が勢い良くかつ鈍い音をたてて当たる。クリティカルヒット。頭蓋骨が梵鐘のように震える。漫画なら頭の上で星かひょこがぐるぐると舞踏会を開いたことだろう。


 双方ともにしばらく悶絶したあとゆっくりと顔を上げ、相手を見る。誰がタックルしてきたのかは明らかなのだが。


 「そろそろどいてもらえない?重いんだけど」


 「お姉様、乙女に対して重いって酷くないですか?」


 「知らん、はよどけ。あとお前の姉になった覚えはない」


 事実。彼女は妹どころか血のつながりすらない真っ赤な他人だ。完全に他人かというと少し違うかもしれない。前に一度、学外で不良に絡まれていたのを助けた。ただそれだけ。


 「乙女に対して『重い』も酷いですけど、人に対して『お前』も酷くないですか?」


 ずいっと上体をスライドさせて私に詰め寄る。童顔でありながら大人のような妖艶さを感じさせるような、整った顔が目の前まで迫る。顔が近い。


 「顔が近い」


 「お姉様、何が不満なんです?こんな可愛い顔が目の前にあるんですよ?それを拒否するなんてとんでもないことをしている気分になりませんか?それに私、お姉様の顔、どれだけ観ていても飽きないほど好きなんですよ?」


 小悪魔のように『にまっ』っと笑み、右手で私のメガネをもとの位置に戻ながら小首をかしげ彼女は言う。うーん困った。そろそろ退いてほしい。この体勢、結構疲れるので。


 「そろそろ退いてはもらえない?衆目を集めつつあるのだけれども」


 アプローチを変えてみる。流石に周りの目線があるといえば動こうとするだろう。実際、教室移動の生徒の視線を集めつつある。更に言うならばすぐそこに校内の女子の人気を一挙に集める『王子』がいる。彼女とて気にしないでいることはできないだろう。


 が、予想に反して彼女は動かない。


 「人の目なんて気にしませんわ。お姉様に比べれば王子なんてどうってことないですし」


 「あ」


 彼女の発言を耳にした『王子』が後退り、どこかへ消えていく。噂では彼女に惚れていたらしい。かわいそうに・・・。あ、時間。


 「いい加減退いてもらえない?あなたがタックルしてきたときに飛び散ったプリント、アレ、次の授業で使うから授業が始まる前に拾い集めて持っていかないといけないのだけれども。この調子だと間に合いそうになんだけど」


 すると一転。彼女は飛び退きプリントを拾い集め始める。


 「ごめんなさい・・私お姉様を困らせてしまいましたわ」


 耳が赤い。多分ダムは決壊寸前だろう。


 「あぁー。泣くな泣くな。間に合うから」


 私も体を起こしてプリントを拾い集める。彼女に泣かれると面倒だ。まず人目。次に泣き止ませるまで。前に泣かせたときは泣き止むまでに30分以上かかった上に、シュークリームを要求された。しかも駅前の人気洋菓子店のを。



 その後、プリントは無事に集め終わり、授業にも間に合った。一件落着。



 時刻は16時30分を少し過ぎた頃、一日の授業が終わり校内に運動部の掛け声や吹奏楽部の少し外れた音が響く中、私は小説を一人読んでいた。


 一冊読み終わり、目線を上げると図書室の外に見知った影を見つける。ちょうど本を読み終わったところだし、帰るついでに構ってやるか。


 気づいていないフリをしながら引き戸を転がすと、カラカラと軽い音が廊下に響く。


 「お姉様、お帰りですか?」


 ドア脇にもたれかかっていた彼女がくるりと回りつつ正面に立ち、私を見上げる。


 「そう、帰るところ。あなたも?」


 彼女は帰宅部。帰宅部ならもうとっくの昔に学校を出ている時間だ。要するに私を待っていた。可愛いやつだなぁ。


 「お姉様、お時間ございます?今日のお詫びをしたいのですが」


 「殊勝な・・・!時間はあるわ。駅前のシュークリームで手打ちといこう」


 彼女が自分のカバンに手を入れ、財布の中身を確認し、顎に力を入れる。


 「ぐぬぬ・・・これもお姉様との関係のため!」


 ぐっと震えながら拳を握る。可愛そうだが、可愛いので放置。


 「行きましょうお姉様」


 彼女が差し出した手を握り返す。


 「お前の姉になった覚えはない」


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