その9
そして俺の隣には今岸本がいた。
岸本はとても機嫌良さそうだ。 良かった、何か話題を振らないといけないと思っていたがそんな事はなくただ一緒に歩いているだけで心地良かった。
こんな時凛なら俺をからかいながら歩いていくのだが凛とは違う岸本って感じだ。 なんだか考えてて自分でも変だなと思ってしまった。
「どうしたの? ニコニコしてるよ広瀬君」
げっ…… 顔に出てしまったのか? 変な奴だと思われないようにしないとな。 なんせ経験がないから。 凛とは一緒にいてもあいつは友達だからちょっと違う。
「あ、悪い悪い、なんか新鮮だなぁって思ってさ」
「新鮮かぁ。 確かにそうだね! 私も広瀬君と並んで歩くのは新鮮だよ」
「俺さ、なんかこういうのよくわかんなくてさ。 岸本退屈してないか気になってたんだけど?」
「え? でもいつも長浜さんと話してるじゃない? それと同じ感じでいいんじゃない?」
まぁ長浜とは岸本の事で話し込んでいたんだけどな。
「あ、もしかして私といるより長浜さんと一緒の方が気兼ねなかったかな……? 私ってそんなに明るい方でもないし」
「そんな事ないって。 岸本はそこが良いところだなって思ってたんだよ」
「ほんと? お世辞でも嬉しいな」
「お世辞じゃないんだけどな、ていうか上から目線みたく話してごめん」
「あははッ、全然いいのに。 あ、ここだよ」
そして凛と来た事のある古民家カフェに着いた。
「わぁ、なんか良いね! 雰囲気最高」
やっぱり凛の言う通りこういうとこって女の子は好きなんだな。
「やっぱ少し混んでるな」
「じゃあ待ってようか?」
「そうだな」
「オシャレだねぇ、きっと料理も美味しんだろうなぁ」
「ああ、美味し……そうだな」
あぶねぇ! 油断した……
岸本を見ると写メを撮っていたので別になんともなかった。
「見て見て! よく撮れてるでしょ?」
岸本が写メを見せてきた。 そういえば凛と来た時も凛は写メ撮ってはしゃいでたな、俺はその時は女ってこういうの写メ撮るの好きだなぁくらいしか思ってなかったが……
この調子なら料理来た時も写メ撮るんだろ? という予想が出来た、凛もやってたし。
「本当だ、上手く撮れてるじゃん」
「あ、そうだ! 来た記念に広瀬君と写メ撮ろうっと! いい?」
「あ、恥ずかしいな……」
「私だって恥ずかしいけど…… 記念!」
そう言って岸本は俺に肩を寄せスマホを上に伸ばして写メを撮った。
「ほら! 上手く撮れた。 広瀬君やっぱりカッコいいね!」
「え? カッコいいのかな」
岸本に言われると非常に照れる……
モテる奴はここで気の利いた事言えるんだろうな。
「うん! ほら」
写メを見せてくるがどう見てもいつも見てる俺の顔なので何も思わないけど。
「岸本はやっぱり凄く可愛いな」
「え?」
思わず口に出してしまった。 ヤバい、言うつもりじゃなかったのに。
「あ、ごめん。 つい口に出ちゃった」
「う、ううん! 凄く嬉しい…… あ! もう席空いたから私達の番だよ」
そして俺達は席に座りメニューを見た。 そぉいやカレー美味しかったからまた頼もうかな……
「岸本先にメニュー見てていいよ?」
「ありがとう、じゃあお先に失礼します」
岸本は何が良いかとしばらく悩みガトーショコラとカプチーノにしたようだ。
てかそのチョイス凛と全く同じなんだけど……
「それで良いの?」
思わず聞いてしまった。
「うん! 美味しそうだしね! はい、メニュー」
メニューを手渡された俺はカレーはやめておこうと思った。 これじゃあ全く焼き直しのようだったから違うのにするか……
「じゃあ俺は…… 季節の野菜のパスタにしようかな」
「あれ? カレーじゃなくて? メニューにあったよ?」
「メニュー見たら急にこっちのが食べたくなってさ」
まさか同じにするわけにはいかないよな。まぁ違うものも食べれるしいいか。
そして俺のパスタが来てその後に岸本のガトーショコラも来た。 やっぱり写メを撮ってから食べるんだな。
俺がパスタを食べていると岸本の目線を感じた。
「ん? どうかした?」
「あ、そのそれ美味しそうだねって思って」
ああ、食べたいのか。凛と同じだなと思った俺は、食べてみる? と聞いた。
「え? いいの?」
「いいよ、ほら」
俺は皿を岸本の方へやった。 あれ? 凛とは逆だけどこれって俺から間接キス狙ってるように見えないか?
急にソワソワしてきたが岸本はやったぁ! ありがとうと言い俺のフォークを使い一口食べた。
「ん〜、美味しい! お礼に私のもあげる!」
そう言ってガトーショコラを一口大にして俺に差し出してきた。 凛と同じ行為に前に凛と行った時を思い出しそうになったけど岸本と間接キスなんだよな……
俺はそんな事を考え口に入れた。 やはり緊張してたからか味はよくわからなかったけど嬉しかった。
「美味しかったね!」
店を出て岸本がそう言った。
「ねぇ、また来ようね! 一緒に」
「ああ、岸本さえ良かったらまた来よう」
「うん、約束だよ」
今回はぎこちなかったけど俺にしては良くやったろ? なぁ凛。