伶奈と凛の想い
大学の移動教室で席に座ってからジーッと横から視線を感じるので背もたれに寄りかかり視線を外す。 そう、凛が俺の隣の伶奈を見ていた。
「なぁに?凛ちゃん可愛いから見つめられるのは結構照れちゃうな」
「コソッと隣で瑛太の手を握っているから変な事してないか見てるんでしょ?」
「あはは、それじゃあ凛ちゃんはそんな事したら変な事するの確定になっちゃうじゃない」
「こんな所でそんな事するわけないでしょ! だったら私もそうするもん!」
凛も俺の手を握ってくる。もしかしてずっとこのまま?これじゃあノート取れないじゃないか。凛が隣に来たので凛の隣に柊も座っている。
伶奈から聞いた話では凛が絡まれないように男避けとして柊を横に置いといたという事なのだが律儀にまだ守っているあたり本当に伶奈の言う事だけはきっちり守るんだな。伶奈の隣の大野が呆れたように言う。
「凛ちゃんはともかく伶奈は普段大人っぽいのに広瀬君が絡むと急にムキになって子供っぽくなるものねぇ」
「ともかくってなんなのよ? 私も大人の魅力くらいあるわよ! ね? 瑛太」
「いや、そういう事言ってるんじゃないと思うぞ?」
「今思ったんだけどさ、俺も広瀬みたいないい加減でうだつの上がらないダメな奴になったら岸本も振り向くか?」
柊が言った事に伶奈と凛が反応し柊を睨む。そんな事言われた俺はというと俺が好かれてるのってそんな所なのかな?と思っていた。でもそれってどこかで聞いたような…… ああ、こいつ奈々と同じ事言ってやがる。
お兄ちゃんはいい加減でうだつの上がらないダメ人間だから凛さんや伶奈さんみたいな逆の人間が近寄ってきたのかしら?なんて前に言われたっけ。奈々ちょくちょく柊とやり取りしてるようだったし。
「ああ、なるほど! そういう見方もあるか」
何故か大野は納得みたいな顔をしていた。奈々の言ってた論理に辿り着いたのだろう。
「美香、私の好きな瑛太君の悪口に反応しないでね?」
「残念ねぇ、あんた顔はいいと思うけどそんなんじゃ伶奈ちゃんに全く相手にされないと思うよ?」
伶奈と凛は隣に居る大野と柊を牽制する。
「まぁあんたらほぼ盲目的になってるから今更よね、柊は最初から伶奈と会ってたらまだわかんなかったのに広瀬君にとられて運がなかったわね」
「ふん、別にそれこそまだわかんねぇし」
てかこいつら俺が真ん中に居て俺の話題を話しているのに俺は全く話に入っていけないんだが? 伶奈は凛と言い合いを始め、それから大野と柊はその外からわざわざ話している。
これもう俺移動した方がいいんじゃないか? と思うががっちり伶奈と凛に手を握られているので動けない。なんてしていると講義が始まったのでようやく会話が止まる。
「伶奈、凛、そろそろ手離してくれないと……」
「んー、じゃあ凛ちゃんが離したら離すね?」
「私も伶奈ちゃんが離したら離す」
え? なんでそこで張り合うの? 思った通り離してくれなかったので伶奈が後で一緒に今日の所復習しようね? と言ってくる。凛はやっぱりそれが狙いかと言ってまた不毛な争いが始まってしまった。
でも入学したての頃は凛といろいろあってなんかどんよりとした感じの大学生活だったけどそれが解消?したのかはよくわからないけど、これが本来俺が思っていたような感じに戻ったんだな……
伶奈は高校生活で途切れた俺との関係をやり直したい。そして凛はまたこれからも俺と一緒にいたい。
そんな中で俺は…… ぶっちゃけ2人ともこのまま仲良くいたい。伶奈と凛がとても健気な考えで俺に接してくれて愛していてくれる。それなのに俺ときたらこのクズ思考。
凛と気不味くなって仲直りしてからより一層このままでいれたらなという考えが強くなってしまった。もちろん、こんな考えを伶奈や凛に言ったら流石にどちらとも俺を見放すだろう。だけど伶奈も凛もどちらか選ぶなんて……
でも俺は高校の時凛を選べたじゃないか? あの時の気持ちを忘れたか? 俺ってあの時よりも意気地なしになってないか?
いい加減でうだつの上がらないダメ人間、全く的を得ているとわが妹ながら的確だ……
凛は柊の事をなんだかんだ言ってはいるが俺はあいつをバカにした事はない。だって一途に伶奈だけを真っ直ぐに見ていたからだ。俺に比べればよっぽど誠実だからだろう。
俺は2人が俺を好きでいてくれてるという安心感で気持ちが退化していたのかもしれない。 だから俺は言うべきなんだ、どうあっても2人に…… 例え愛想を尽かされようとも。
数日後俺は伶奈と凛に家に来てくれないか? と言って2人を迎えに行った。俺の緊張した面持ちに伶奈と凛はどうしたんだろう? まさか? という感じになっているがそれ以前の事なのだ。
家に着き、俺達はひとりひとり緊張感が漂っていた。
「瑛太君、それで話っていうのは? なんか瑛太君凄くいつもと感じがちがうから…… 何か重大な事?」
「瑛太、私真剣に聞くから……」
そう、重大だ。俺のいい加減な気持ちで2人の大切な時間を使ってしまっているから。これを言ったら嫌われてしまうかもしれない、だけど俺はこうでもしないと……
「あのさ、俺なんかが選べる立場なんて凄くおこがましいと思ってるんだ。 凛と仲直りした後、俺2人とこのままでいたいとか思ってしまったんだ。2人からしてみたらどちらかハッキリして欲しいって思ってるっていうのに。なのに俺がこんな気持ちでいた事を2人に言わなきゃ伶奈と凛に申し訳なくて、今日言いたかった事はそれで…… 」
言ってしまった…… 伶奈と凛は今俺の事をどう思ってるんだろう? さぞ俺のふわふわした気持ちに怒りを感じているのではないか?と恐る恐る2人を見ると……
2人ともポカンとした表情をしている。やっぱりな…… 呆れて物も言えない、そんな感じだ。
「フフッ」
静まり返った部屋の中微かに笑い声が聞こえた、伶奈が笑っている、凛も肩を震わせて必死に堪えている。
「あはははッ、なぁんだ! 何かと思ったらそんな事だったのね、私もっと何かとんでもない事やらかしたのかと思ったよ」
「フフッ、私も」
え? いや、今俺が言った事も十分2人に対して失礼な発言だったと思うけど?
「瑛太君、私ね、瑛太君がそういう風に感じちゃってるのは薄々わかってたよ?それにそんなに急に瑛太君を急かしてまで強引に答えを聞いても仕方ないって思ってたし。だけど今日の瑛太君、ずっと青ざめた表情してたからすっかり勘違いしちゃったよ」
「そうそう、私も言ったよね? 本当の瑛太の気持ちで選んで欲しいって。瑛太を思い詰めさせてまで無理強いしたような結果なんて求めてないよ、でも瑛太ちゃんと真剣に考えてくれててそんな事言ったら私達に嫌われちゃうかもって思ってたんでしょ? でも私そんなんじゃちっとも瑛太の事嫌いにならないよ?」
伶奈と凛はさっきの緊張感はどこへやら。 2人で笑い合っている。俺は自分の甘ったれた気持ちを伝えててっきり失望されると思ってたのに。
「でも2人して俺をこんなに甘やかしてると俺本当にダメ人間になっちまうかもってさ」
「残念、瑛太がダメ人間になっても見捨てるわけないでしょ? むしろ私がいなきゃダメになってもらいたいのに」
「瑛太君のお世話ちゃんと私がしてあげるから遠慮しなくていいんだよ?」
あれ? 思ってたより……いいや、大分2人の愛がとてつもない勢いだったとわかったんだけど、でもこの事がきっかけで俺は伶奈と凛が改めてちゃんとした答えを待っていてくれてるんだと再認識して2人のうちどちらかを選ばなきゃならないと思った。




