伶奈の気持ち
凛はそれ以降ついてくる事はなかった。伶奈は俺と手を繋ぎ自宅へ向かう、伶奈は一体何を考えているのだろう? こんな俺といる時でも楽しそうだ。 俺の事バカにしてるのか? 心の中じゃ笑ってるのか? と思ったけど伶奈がそんな事を思うはずもないよな。
だったらなんで凛に対してもそう思ってやれなかったんだろう? あの時はそんな事すら考えられないくらい俺は冷静じゃなかったのか?
そんな俺だから伶奈とも付き合うべきじゃない。いつか伶奈にも悲しい思いをさせる、とは言っても今までずっと伶奈に悲しい思いをさせてきた俺が言ってもバカじゃないのかとしか思わないが……
「瑛太君、暗いよ? 気を取り直して!」
一緒に並んで歩いてた伶奈がいきなり俺の正面に来て顔を覗き込むついでに頬にキスをした。
伶奈はあんな事があったばかりなのに明るく微笑んだ。凛にあんな顔されて俺は自分でした事なのに酷く後悔ばかりしていてそんな風に接するなんて伶奈ってどういう神経してるんだ? と思ったけど俺の方が酷いので何も言えない。
「今日も夕飯作ってあげるね? 私から奈々ちゃんに連絡しとくから。 てか奈々ちゃんって凄く可愛くなったよね?前から可愛かったけど今凄くモテてるでしょう?」
奈々の事なんか今はどうでもいいけど伶奈の会話に俺も合わせる事にした。
「ああ、なんか急に大人っぽくなったよな、今日なんか俺布団剥がされて起こされたよ。母ちゃんかっての」
「フフッ、起こしに来るほど瑛太君と仲良いんだね」
「どうなんだろ?よくわかんないけどお兄ちゃんはいつまで経っても子供みたいな所あるから私が居てくれてありがたく思う事ねってよく言われるよ」
「ああ、なるほどぉ」
何がなるほどなのかよくわからないが伶奈は納得したようにニコニコと俺と会話を続ける。そういえば大野達はあれからどうしたんだろう?
「なぁ、柊に殴られた所本当に大丈夫か? なんであの時凛を押し退けて伶奈が庇ったんだ? 凛に言った通りなのか?」
「え? そうだねぇ、凛ちゃんに言った事も半分あるけど瑛太君の気を引きたかったからだったりして? なぁんてね」
「なんだよそれ?」
「うーん、私瑛太君が思ってるより良い子じゃないし、凛ちゃんみたいに気持ちを素直に伝えるって事も私にとっては本当に勇気がいる事で、だから凛ちゃんは私からしたら真っ直ぐで可愛くて本当に羨ましいなって。だから凛ちゃんには負けたくないし、今でも凛ちゃんは大切な友達。それに比べて私はウジウジしてるし肝心な所でいつも凛ちゃんに遅れをとって…… こんな自分が嫌になる時があるよ」
伶奈は自分に言い聞かせてるとも俺に言い聞かせてるともわからないような感じで淡々と語り始めた。
「1度瑛太君や凛ちゃんと離れた時、凄く後悔したんだ。凛ちゃんを選んだ時もそれはそれで仕方なかったけど私もっと瑛太君に気持ちを伝えておけばよかったなって。やり直したい時にはもう遅くて…… そういうものだよね、だからこれからは後悔ないようにできる時にできる事をしようって。 だからさ瑛太君、そんなに自分を卑下しないで?って何言っちゃってるんだろ私。長々と偉そうにごめんね?」
伶奈は俺を励まそうとしてくれてたんだな、俺が凛の事で気負う事があまりないように。俺の負担を軽くしてあげたくて…… 伶奈、十分伶奈は良い子だよ。
伶奈の家に近付くと大野と柊が待っていた。大野は何故か手を腰に当て俺達を睨んでいた。
「全く伶奈ったら鍵持ったままいなくなるんだもん! 入れなかったじゃない、瑛太君と楽しむのはいいけど。ほら、柊もなんか言う事あるんでしょ?」
「ああ! ごめんね、ウッカリしてたよ。 2人ともごめんなさい、もしかして結構待っちゃった?」
「いいんだ岸本そんな事。さっきは本当にごめん! お、俺そんなつもりじゃなくて……」
「私が勝手にやった事だから気にしてないよ柊君、ほら、この通り全然へっちゃらだよ?」
伶奈は柊に大丈夫だよとクルッと回って見せた。柊はそれでもごめんと言い続けていたので伶奈は仕方なくじゃあ仲直りと俺と柊に握手を求めた。柊は一瞬俺と握手なんて怪訝な顔をしたがそれで伶奈が良いならと俺と握手した。
若干柊の手には力がこもっていたけど伶奈はそれを見てこれで柊君もさっきの事は忘れてと柊に言った。
「今日はいろいろあったから柊君も夕飯ご馳走するよ? 嫌な思いさせちゃったよね? そのお詫び」
「岸本がそう言ってくれるなら…… ありがとう」
「ほんと! 私なんか修羅場に立ち会わされてビックリだったんだから。でも伶奈も無理しちゃダメよ? こいつの馬鹿力で殴られたんだから」
大野の意地悪な言い方に柊は身を竦めたけど伶奈にこら!と叱られて伶奈の家に入る。
伶奈は昨日と同じくキッチンに入り食事を用意している。大野は部屋に行ってしまい俺はリビングで柊と2人になっている。気不味い…… 俺を殴ろうとしていた柊と殴られようとしていた俺。
柊もさぞ気不味いだろう、俺にめちゃくちゃガン飛ばしている。なんでお前はここに居るんだと言わんばかりだ。そんな気配を察知したのか伶奈がキッチンから話しかける。
「柊君、瑛太君を困らせちゃダメだよ!」
「あ、いや。何もしてないし……」
柊は本当に伶奈に頭が上がらないようだ。いつも何か俺にしようとするといつも伶奈が柊を窘めていたからな。それが可笑しくて俺はつい笑いそうになってしまうがその瞬間また柊がギロッと睨むので平常心を保つ。
夕飯が出来、俺達は夕飯を食べ片付けを手伝い柊はもう少し居たそうな感じだったが帰っていった。 大野も部屋に戻りまた伶奈と2人きりになった。すると伶奈が口を開いた。
「瑛太君……瑛太君の事だから私と凛ちゃんとかは自分と付き合うべきじゃないとか考えてたでしょ?」
「え?」
伶奈に考えていた事を当てられ、俺は呆気に取られていた。
「わかるよ、だって私も引っ越しするってなった時私も瑛太君は私とじゃなく凛ちゃんと付き合った方がいいのかもしれないってなった事あったから……」
「でもね、逃げないで? 私からも、凛ちゃんからも。しっかり私を見て?」
伶奈は俺の頬に手を触れしっかりとした眼差しで俺にそう言った。全てを受け入れるかのような伶奈の瞳に俺は吸い込まれそうになった。
俺は逃げていたのか? 凛からも伶奈からも…… 確かにそうかもしれない。 俺は勝手に自分がダメな奴と思ってそう思ったら本当に何もかも上手くいかなくなって。
「伶奈ってなんでもお見通しなんだな……」
「だって私の好きな人だもん。ずっと瑛太君の事見てたんだよ?」
伶奈はそう言って俺を抱きしめた。




