凛と伶奈
俺は凛を突き放した、そのはずだった。なのに凛は今俺の隣に居る。あの後結局凛は譲らず離れないと言って聞かなかった。俺だって凛にあんな事言いたくかった。
凛と居るといつだって楽しかったし何より凛が居るだけで安心できた。だけどそれが少し歯車が狂っただけで凛に対して罪悪感でいっぱいになってしまった。
今朝俺に謝って俺と仲直りしようと思って朝早くに起きて歩いてまで俺の家に来た凛にはとても酷い仕打ちだ。普通だったら俺に愛想つかしているんじゃないのか?
俺は自分自身どう凛に接していいかわからなくなっていた。凛とやり直したい、もう1度また凛と仲良くしていた頃に戻りたいと思う気持ちの反面、俺の今までの行いから虫が良すぎるだろ、お前みたいな優柔不断で凛や伶奈の気持ちを少しも理解できない奴が何言ってやがるという思いで締め付けられていた。
電車から降りて駅に着くと俺は早足気味で歩く、凛は俺の後を追ってくる。必死に俺から離れまいとする凛を見て少し待つ。
「凛……」
「……嫌、聞きたくない」
俺が何を言うかを察して凛が言わせまいとする。そうしていると聞き慣れた声が聞こえて俺は振り返る。伶奈と大野と柊達だった。
「ハァ〜、やっと追いついた。おはよう瑛太君、凛ちゃん。 駅で待ってたんだけど瑛太君歩くの早くて…… 」
「伶奈ちゃん……」
伶奈に凛は思う所があるのか反応する。2人の少しおかしな雰囲気に大野と柊はなんなんだ?という困惑した顔をしている。
「瑛太の言ってた事…… 本当?」
「そっか、瑛太君が凛ちゃんに嘘つけるわけないもんね……うん、そうだよ」
「え? 何々? どういう事?」
「おい広瀬、お前まさか!」
凛と伶奈の不穏なやり取りから察した柊から胸ぐらを掴まれる。もういい、ガツンと1発殴ってくれと思った俺はそのまま柊から顔を逸らした。
「てめぇ……!」
俺の挑発に乗ってくれた柊は拳に力を込める。思えばこいつにとっても俺は本当に迷惑な奴だったよな。俺のせいで伶奈に想いを伝えられずに。柊に殴られる動機は充分ある。
「ちょっとちょっと! 柊落ち着きなさいよ」
柊に殴られる瞬間凛は俺と柊の間に割って入いろうとしていた…… のだが凛は横から肩を掴まれ退かされた。俺の目の前には伶奈の姿があった。
柊はギョッとして拳を止めようとしたが間に合わない。伶奈は俺を抱きしめるような形で庇ったので柊の拳を頭からもろに食らってしまった。
「きゃあッ! 伶奈!大丈夫!? 柊!あんた何してんのよ!?」
「伶奈ッ!」
殴られて倒れた伶奈を抱き起す。何やってんだよ…… なんでお前が殴られるんだよ、柊は伶奈の姿が見えた瞬間拳を引っ込めようとしていたので少しは威力は弱まったけど殴られたのは女の伶奈だ。
伶奈は頭を押さえて痛そうな顔をしているけど俺の顔を見て大丈夫だよ?と言わんばかりに痛みを我慢している笑顔を向けてくる。
一方の柊は顔を真っ青にして自分がとんでもない事をしてしまったという事に気付いて伶奈に駆け寄る。
「ああ、俺なんて事を…… 岸本ごめん、本当にごめん! 痛むよな? あぁ、病院が先か!?」
柊も混乱しているが皆混乱している。幸い人気がなかった所だからまだ良かったけどそうじゃなかったら柊は更にとんでもない事になっていただろう。
「あはは、大丈夫だよ柊君、ちょっと痛かったけどそんな大袈裟な事じゃないよ」
伶奈の言葉に柊は少し安堵したけど好きな人を事故とは言え殴ってしまったのだからよほど応えるだろう。
「伶奈ちゃん、どうして……」
「凛ちゃんが殴られる事ないって思ったから…… あはは、私も一瞬の事だったからよくわかんないや」
その後皆心配そうに伶奈を気遣ったが伶奈もそんなに心配しなくていいよと言い伶奈は何事もなかったかのように大学へ行き講義を受けた。当然柊は気が気じゃなく伶奈を心配している。
そしてその日は午前で終わりなので伶奈の事もあるしそのまま俺達は帰る事にしたけど伶奈は俺と凛と3人だけにしてと大野達に言ったので伶奈と凛でそこら辺にあったカフェに寄る事にした。
カフェに着いて俺は席に着くと伶奈が俺の隣に座った。凛も俺の隣に座ろうとしていたが先に伶奈に座られてしまい少し呆気に取られたような顔をしているがそこは私の場所と少し伶奈を睨む。コーヒーが来た所で伶奈は話を始めた。
「凛ちゃん、さっきの話の続きなんだけど私瑛太君と付き合う事にしたの」
「私瑛太と別れたなんて言ってない…… 伶奈ちゃんが瑛太と寝たからって私の気持ちは変わらない!」
凛が少し大きめの声で言うので何事かと周りが騒つく。
「言ったよね?凛ちゃんと私は友達だけどライバルだって。それに隙があったら私は瑛太君を奪いに行くって。それを実行しただけ」
「ッ!」
凛が伶奈をキッと睨み平手打ちをしそうになったけどさっきの柊の事もあったのか手を戻した。
「ぶってもいいんだよ? 私凛ちゃんにそれくらいの事をしちゃったし」
「違う、伶奈は何もしてない、俺が無理矢理……」
「いいの瑛太君、私だって嬉しかったから。いつも心だけは瑛太君を想っていたけど凛ちゃんは心も体も瑛太君とずっと繋がってて私凄くそれが羨ましくて…… だからどんな形でも瑛太君との絆なのかな? 私もそれを持てて嬉しい」
伶奈は俺の言う事を制した。まるで全部自分にのし掛かるように。
「だからね、今度は瑛太君は私に任せて欲しいの。私は瑛太君を絶対悲しませたりなんかしない、今の凛ちゃんと瑛太君が一緒に居たって凛ちゃんは良くてもね…… 瑛太君が」
「うぐッ、ひっぐ……そ、それでも私は瑛太と一緒に居たい」
凛はとうとう泣き出してしまった。
「え、瑛太、私と一緒にいるのはもう嫌?」
凛が縋るような目で俺に訪ねてくる。嫌なわけない、だけどこうなる原因を作った俺がどの面下げて言えるんだ…… 凛にも伶奈にもこんな溝を作ってしまった。
「…………」
「瑛太ッ!」
「凛ちゃんもうやめてあげて? 瑛太君、今日私の家に来て? そろそろ行こう」
伶奈は俺の手を引っ張って会計を済ませ店を出ると俺のもう片方の手が引っ張られた、凛だ。
「ダメ! 行かないで瑛太、行くなら私の家に行こう? 瑛太の家でもいいから。だから行かないで!」
「ごめん、凛」
俺がそう言うと凛は絶望のどん底に叩き落とされたような顔をして力無く手を離した。俺は凛も伶奈も悲しませてばかりだ……




