凛
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
んん、なんだよ?と思い目を覚ますと奈々の姿があった。奈々はあれから俺達と同じ高校に進学し今や高校3年生だ。
短かった髪は今は伸び俺の肩を揺さぶる顔に当たりくすぐったい。奈々が起こしに来たのを確認してうるさいなと思いまた目を瞑ろうとすると痺れを切らした奈々は布団を勢い良く剥がされた。
「いい加減にしなさい! ってなんで私がお母さんみたいな事しなくちゃいけないのよ、全くこういうのは凛さんにしてもらってよねぇ」
凛という言葉を聞いて俺は少しザワつきを感じたが目の前にいるわけではないので若干落ち着く。
「もうちょっと静かに起こしてくれよ……」
「何言ってんのよ、人を待たせておいて! 凛さん来てるのよ? こんなに朝早くからお兄ちゃんに会いに来たんだって」
「え!? 嘘だろ?」
「嘘なわけないでしょ、リビングに今居るからお兄ちゃんは着替えなさい!」
奈々は全くだらしないんだからと言い下に降りていった。こんなに早くから…… 歩いて来たのか? なんで来ちゃうんだよ、来てもらったって今は気不味いだけだ。
大体何を話せば良いんだ? 伶奈との事を正直に言えば良いのか? それとも何事もなかったかのように振る舞うのが正解なのか?
会いたくないと言っておいて何事もなかったかのようになんてそれこそおかしいだろう、だけど俺が凛にした裏切りは許されるものじゃない……
これが白日の下になれば俺は凛と別れる事になるだろう、それだけの事をしたんだから。それが今この瞬間に訪れるとは思っていなかった、大学で告白しようと考えていたからだ。
というか俺は凛と別れる前提で考えているのか? 心のどこかで凛なら許してくれるとか甘い考えが何度も何度も頭をよぎる。
許してくれるからなんだっていうんだ?そもそも伶奈の事すら俺はいい加減になんじゃないのか? 許してもらったら伶奈を俺の一時の感情で押し倒した俺は伶奈にも合わせる顔がないんじゃないか?
四面楚歌だ……
自業自得ここに極まれり。自分の頭だけで都合のいい解釈で考えてばかりいるとドアがノックされた。 そう、凛だった。
「瑛太…… おはよう。こんなに朝早くから来てごめんなさい、瑛太まだ寝てるだろうと思ったんだけど、どうしても瑛太に会って謝りたくて。私無神経だったから…… あ! それとね、朝ご飯にサンドイッチ作って来たんだ。一緒にここで食べよう?」
凛がとても申し訳なさそうに俺のもとへ来た。 違うんだ凛、本当に謝らなきゃいけないのは俺の方なんだ…… 無言でいる俺に凛はとても心配そうな顔をして近付いてくる。
取り敢えず凛はサンドイッチを俺に渡す。俺はこの状況をどうしようか悩んでいたが渡されたサンドイッチを一先ず食べる。
食べてくれた事に凛は気を良くしたのか俺の肩に頭を置き安心したような顔をしている。逆に俺は凛を泣かせてしまうだろうと言う罪悪感でいっぱいになっていた。
サンドイッチを食べ終わると凛は俺の正面に向き直った。
「瑛太、不安な気持ちにさせてごめんなさい。 私いつも瑛太と一緒にいたのに瑛太の気持ちに気付かなくて本当にバカだった。でも私は瑛太だけだから…… 柊君とは多少仲良くなったのは事実だけど瑛太に対する思いとは全然違うの、私は瑛太の事をずっと好きだから」
凛の言葉を聞いてやっぱり俺はバカだと思った。 俺こそ凛の気持ちに気付いてなかったんだ。いつも一緒だったのに。
何もかももう遅い、大事な何かを失ってから気付いてしまった……
もう今が言う時じゃないのか?凛はこんな俺に謝った。俺も正直に言うしかない。
「凛、ごめんな……」
「瑛太が謝る事じゃないよ、悪いのは私なんだし」
「そうじゃないんだ」
俺の言葉に?マークが浮かんでる凛に俺は言葉を続ける。
「俺昨日伶奈の家に行ったんだ」
そう言うと凛は少し戸惑いながら頷いた。
「俺、凛と柊が仲良くなって俺はこんなんだから自信なくして…… ヤケになってたのかもしれない。いや、そんなの言い訳か。昨日無理矢理伶奈を抱いたんだ」
言ってしまった、俺は言う度に視線が下に向いてしまった。改めて凛の顔に視線を向けると凛の目から涙が流れていた。
「嘘…… 嘘だよね? 私をこらしめる為に嘘ついてるよね瑛太? だって瑛太がそんな事するはずない、酷いよ瑛太…… いくら私にムカついたからってそんな事言うなんて…………」
凛は俺に抱きついてずっと嘘でしょ?と繰り返している。俺はなんて事を……
凛をこんなに悲しませてしまった。
きっとこれから先もこの事が俺も凛も引っかかり俺達もう上手くやっていけないかもしれない。
凛はとても可愛いし性格もいいし料理も上手いしこんな俺にとても尽くしてくれた。凛はこの先俺なんかよりずっといい男を見つけられるだろう、だからこんなバカな俺の事でこれ以上凛を縛っちゃいけない。
だからこう言うしかない……
「別れよう」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッ! 絶対、絶対嫌ッ!!」
凛は泣いていた顔を更に歪め俺にしがみつく。
「聞かなかった! 私さっきの聞かなかった事にするからッ! ね?瑛太に都合悪い事なんかないよ、だからお願い」
凛は酷くおかしな事を言っているけど全部それは俺がそんな責任感じる必要がないと言いたいんだろうか? だけど……
「凛は何も悪くないし、何もかも俺のせいなんだ。だからさ……」
「違う! 私が瑛太を勘違いさせたの!私のせいなの、だから伶奈ちゃんの事は聞かなかった事にするから、別れるなんて嫌だ!!」
でも絶対意識しないなんて事は無理だろう。凛は今はそう言ってるけど事あるごとにふと思い出す。俺と付き合っていると凛はずっとそれに目を瞑っていかないといけない思いをさせる。
「嫌…… 嫌だよぉ、私瑛太の為ならなんだってしてあげるから。一緒にいて!1人にしないでよ、これから瑛太を不安になんか絶対させないから、だから!」
「ごめん、でも凛の為なんだ。俺みたいな奴と居ても……」
「私の為なら私を捨てないで!」
だけど俺はここまで食い下がる凛の気持ちも理解出来ず凛を突き放した。何年も掛けて築いた関係も俺のバカな勘違いと行動で壊してしまった。




