伶奈
俺は一体何をしているんだろう? 凛の事をハッキリとさせたいのに伶奈の所にきて…… 伶奈に甘えて。
凛を見たくなかった、凛を見てると柊の影がチラついて? 俺は自問自答を繰り返す。するとガチャリと玄関が開く音が聞こえた。
「ただいまぁーッ! 伶奈、買ってきたんだから伶奈の手料理が食べたいなぁ!」
大野の元気な声が聞こえた。伶奈はソファでずっと俺を抱きしめていたので大野の声で俺にごめんねと言い玄関に向かう。
「お帰り。ごめんね、買い出しなんかに行かせちゃって」
「いいのいいの、タダで住み込みさせて貰ってるし伶奈が料理作ってくれるんだから私は満足よ。むしろ雑用ならなんでも使ってね! って靴が…… あれ? 誰か来てるの?」
「ああ、うん。今瑛太君が来てるの」
「え、あの時帰ったはずだよね? それに1人で? 凛ちゃんはいないの?」
リビング越しから伶奈と大野の会話が聞こえる。 そりゃそう思うよな、来るには良いけど俺1人で伶奈の家に来るなんてなんかおかしいもんな……
「うん、私が呼んじゃったんだ。前に瑛太君に私の手料理食べさせてあげたいって言ってたでしょ? だから勝手ながら呼んじゃったんだ。凛ちゃんも呼んだんだけどタイミング悪かったのか居なくて。美香にも電話して伝えるべきだったね、ごめんね?」
「ああ、そういう事ね! にしても凛ちゃんがいないなんて伶奈怪しい事考えてるんじゃないでしょうねぇ? チャンス!とか」
「もう〜、変な事言わない! 瑛太君リビングに居るんだから今の会話丸聞こえだよ?」
うん、丸聞こえだ。てか伶奈気を利かせてくれたんだな。俺の為に嘘までついて…… ふと気になる事があったのでスマホを取り出す。
あ〜、充電切れか…… 俺はiPhoneだし伶奈と大野はAndroidだから充電は無理か。 俺はもしかしたら凛から連絡が来てるのでは?と思いスマホを取り出したのだが充電切れなので諦めた。
でも連絡来てたって…… 俺はスマホをしまうと物凄い虚脱感に襲われそのまま瞼を落とした。
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私が美香と一緒にリビングに戻ると瑛太君はスヤスヤとソファで寝ていた。 瑛太君、考え込んじゃって疲れたんだね。私はそっと瑛太君に薄地の毛布を掛けた。瑛太君の寝顔が可愛くて私は起こさないように瑛太君の頬に手を当てた。
「あらあら、伶奈ったら愛おしそうな手つきだねぇ? このまま襲っちゃっても私黙っててもいーよ?」
「そんな事しませんッ! それより瑛太君寝てるんだからなるべく静かにしててね?」
「本当に伶奈は広瀬君に甘いわねぇ、愛しの広瀬君が無防備な状態で寝てるんだし無理矢理伶奈に襲われたら広瀬君も凛ちゃんに言い訳くらい立つと思うんだけど?」
「サラッととんでもない事言わないでよ」
美香の言う事もいいかもと思った自分がいるけど私は凛ちゃんと友達だしそんな事出来るわけない。だって瑛太君だけじゃなく凛ちゃんもずっと私を気にかけてくれてたんだもの。瑛太君を奪うつもりでも凛ちゃんを傷付けたくないなって思っちゃうし私って虫が良すぎるよね……
でも瑛太君が私を頼って来てくれた、私はそれが本当に嬉しくて…… 瑛太君が私に本当に思ってた事を話してくれて瑛太君は私を都合よく扱ってたって自分を責めてたけど私はそれでもいいんだ。
瑛太君はどこかで私の事を気に掛けてくれてたって事だし話してくれたって事は瑛太君もスッキリしたかったって事だ。私の事で瑛太君が重荷に感じたりするのは嫌だ。
私が瑛太君を好きならそれでいい。 そう思っているんだけど美香の言う通りこんなに無防備な寝顔見せられると私だってソワソワしちゃう。
瑛太君にならなんでもしてあげたい、喜んでもらいたい、悲しんでるなら慰めてあげたい、ていうか大好き。自分で何を考えてるのか訳が分からなくなる前に夕飯を作る事にした。
「じゃあ私は伶奈と広瀬君のラブラブタイムを邪魔したくないから部屋に引っ込んでるね? 夕飯出来たら呼んでね」
「ん、なんか気を遣わせちゃってごめんね」
「いいって事よ、だって伶奈今凄く幸せそうな顔してるもん」
そう言って美香は自室に行った。そうなのだろうか?私って今そんな顔してる?
瑛太君がこんなに悲しんでいるのに不謹慎だよね…… でも瑛太君と家で一緒にいるなんて妄想はしてても実際こうなってみると本当に嬉しい。
瑛太君が駆け込んで来た所が私でこのまま瑛太君が私の事を好きになってくれないだろうかなんて都合のいい事を考えながら手際よく料理する手が弾んでいる。
パエリアとアヒージョを作ってみたけど瑛太君喜んでくれるかな? 料理なんてまともに食べれるような精神状態ではないかもしれないけど私の手料理を食べさせてあげたい。瑛太君の為に大好きって気持ちを込めて作ったんだもん。なんかこの風景、夫婦みたいになった気がして凄くいいなぁ……
瑛太君を見るとまだ眠っている、そろそろ起こさなきゃ。
「瑛太君、瑛太君」
瑛太君の肩を優しく摩る、本当は瑛太君の寝顔をまだ見ていたかったし一緒に添い寝でもしたかったけど美香も夕飯待っているしそうはいかない。
「……ん、俺寝ちゃってた? ごめん、なんか迷惑ばっかりかけてて」
「全然迷惑だなんて。むしろ逆、私は瑛太君に来てもらって嬉しいよ? ねぇ、ご飯作ったから食べていって。瑛太君の為に腕を振るっちゃった。美香も一緒だけどごめんね、勝手にご飯食べていくって話進めちゃって」
「あ、いや。伶奈が謝る事じゃないって」
その後美香を呼んで皆で食卓を囲んだ。瑛太君お腹が空いてたのか全部食べてくれた、良かったぁ。そして食べ終わるとそそくさと美香はまた部屋に戻っていった。
「あはは、なんか美香ったら変に気を利かせちゃって」
と瑛太君に言いかけると後ろから瑛太君に抱きしめられていた。私は付き合ってと言ったけど瑛太君からそんな事してくるなんて思ってもなかったから硬まってしまった。
「え、瑛太君?」
「伶奈、ありがとう伶奈……」
でも瑛太君が安心できるならと私は瑛太君にしばらく体を預けた。




