伶奈の提案
見たくなかった、だから俺は逃げた。凛が何か言いかけてたようだけど俺は混乱していて……
だからなんだろうか? 俺は何も考えずに電車に乗り伶奈の家に向かっていた。なんで伶奈の家に行こうとしているんだろう?
誰かに聞いて欲しかった? なんで伶奈に? 伶奈なら俺を優しく受け止めて慰めてくれるからか? どうして凛は柊と一緒に居たんだろう…… なんで凛の家の近くまで?
もしかして凛は自分の家に柊を招こうとしていたのか? 最近仲が良かったから? 柊は伶奈の事が好きなんじゃなかったのか?
頭の中はいくつもの疑問符で溢れていた。でももしかしたら罰が当たったのかもしれない、俺は高校の時から凛も伶奈も居て、そして2人から好きだという気持ちを受け取った。
だけど俺は凛をその中で選んだ。選んだはずだった、だけど伶奈はそれでも俺の事が好きだった。それは俺にもわかってたしそんな気持ちに甘えて伶奈に随分寂しい気持ちをさせていた。なのに伶奈はいつまでも俺の事を想っていて……
だけど凛と伶奈は友達だという事でそのまま仲良くしたいからって伶奈への気持ちもハッキリせず延々と間延びした関係ばかりだった。
そして高校の途中で離れ離れになって柊という存在が現れた。柊は伶奈の事が好きでそれでいて柊はあんなんだけどカッコよくて凛や伶奈と並んでも見劣りもしないくらいの奴で俺より気が利いて……
柊が本気で凛の事を落とそうと思ったらああなるなんてすぐ予想がついたじゃないか、伶奈の事が好きって言って俺は油断していたのか?
伶奈の事を好きなら油断?俺は伶奈の事をなんだと思ってたんだ?こんなんだから俺はダメなんだ……
気付けばもう伶奈の家の前まで来ていた。だけどなんて言えばいいんだ? どうしろってんだ? 俺はやっぱり引きかそうかと思った瞬間伶奈の家の玄関が開いた。
「瑛太君、どうしたの? 窓から見えてたよ、こんな時間に…… 帰ったんじゃなかったの?」
「あ、いや…… ごめん、帰るよ」
そう言って踵を返した途端伶奈に腕を掴まれた。
「待って! 瑛太君なんか変だよ? 私で良かったら話して? 力になりたいの! その様子だと凛ちゃんと何かあったんでしょう? 今美香も夕飯の買い物に行ったばかりだから…… 取り敢えず入って?」
「…… 伶奈には関係ないよ、ごめん」
少し嫌な言い方だよな。でもこう言わなきゃ伶奈も離してくれなそうだ。と思ったら伶奈は強引に俺を引っ張り家の中に入れた。
「どうして?…… どうしてそんな事言うの? 関係なくないよ。私、私だって瑛太君の事大好きなんだよ!?」
俺は伶奈に抱きしめられていた。でも俺には凛が居るのに…… でも凛は今頃柊と? そんなわけあるか! と考えるけどあの時の光景がフラッシュバックし俺はわけがわからなくなっていた。
「さっき凛が柊と一緒に居て……」
「……うん」
「最近凛と柊が打ち解けたような感じで仲良くなってて。それは伶奈達も感じてただろ? だけど俺は凛と柊がいがみ合ってた時はどこか安心してたんだ。でもそれじゃあ凛の為にも良くないって思ってて仲良くなればと思ってたんだ、だけど実際仲良くなりだすと柊はかっこよくて俺より気が利いてて俺は段々と不安になっていってこのままじゃ凛が柊に取られるかもって思ってきたんだ」
俺はポツポツと伶奈に今まで思っていた事を話し始めた、だけど俺はこれを話すと伶奈を傷付けてしまうかもしれない、だけどここまできたら言うしかない。
「それで柊は伶奈の事が好きって言ってたから安心してたんだ。俺って最低だろ? 伶奈は俺の事を想ってくれてたのにそんな伶奈を裏切っていたんだ。柊と伶奈がもしくっついたら伶奈だって寂しい思いなんかしなくなるとか自分勝手な事を考えてたんだ…… そんな事を考えてた俺に罰が当たったのかもしれない」
伶奈は黙って俺の話を聞いていてくれている。
「だから俺、伶奈にこんなに優しくされる資格なんてないんだ、思えば最初から俺って最低だった。2人を選べるような人間性もない俺が凛と伶奈から好きだって言われて舞い上がっていたのかもしれない。だからいずれこうなる事になったかもしれないんだ」
俺は伶奈に思いの丈を伝えた、俺がどれだけ身勝手な奴か、伶奈の気持ちをどれだけ裏切ってきたか、もう伶奈には呆れられて見向きもされないかもしれない、だけどそれは俺の行いのせいなんだ。
「いいよ」
「え?」
「それでも私瑛太君の事大好きだよ? 正直に話してくれてありがとう。隠される方が辛いよ、だけど話してくれたって事は私の事真剣に考えてくれたって事だよね? もし瑛太君がそう思ってて本当に罰が当たったとしても、誰に見捨てられたって私は瑛太君の味方だよ? 私は瑛太君を支えるよ? じゃなきゃここまで瑛太君の事想ってないよ」
「でも俺散々伶奈に酷い仕打ちを……」
言う前に伶奈に両頬を押さえられた。伶奈はニッコリと笑ってそれ以上言わなくていいよと優しく言った。
「もし…… もし仮に凛ちゃんが柊君とそんな仲になったとしても、私瑛太君に寂しい思いなんかさせないから。私が全力で瑛太君を支えるから」
伶奈はそう言い俺に口付けをした。俺の不安をかき消すように強引にそれでいて優しく安心させるように。
「これが私の気持ちだよ。瑛太君、例えどんなに瑛太君が酷い事考えてたって私瑛太君の事嫌いになれないよ、私って重いのかな? それに私がいつまで経っても瑛太君の事が好きだからこんな事になっちゃったんだよね…… だけど私、それでも自分に嘘をついて他の人を好きになったりなんて出来そうにない! 」
伶奈の言葉は今の俺にとても響いて俺は伶奈のするがままに体を預けた。伶奈は俺を慰めるように優しく胸に俺を抱き俺の頭を撫でる。
伶奈の優しさに俺はいつの間にか伶奈の胸の中で泣いていた。こんなに伶奈は俺の事を想っていてくれた、こんなに酷い俺の事を。それをわかった上で伶奈は俺を抱きしめてくれている。
「瑛太君、私ね、凛ちゃんも同じ気持ちだと思うよ?」
「え?」
「凛ちゃんだって私と同じくらい瑛太君の事を好きだと思うの。柊君がいくら魅力的だからって瑛太君以外に靡く事ないと思う」
伶奈は俺を抱きしめる腕に少し力が入った。
「もし瑛太君が自信がないなら私が瑛太君に自信を持たせてあげるよ」
「そんな事…… どうやって?」
「私と付き合って?」
伶奈の言葉に俺は一瞬伶奈が何を言ってるのか理解出来なかった。
「私と付き合ったら凛ちゃんは瑛太君を取り返そうとするよ絶対。瑛太君はそれで凛ちゃんと私に絶対的に好かれてるって嫌でもわかるはずだよ?」
「いや、そんな事したら……」
「ダメ…… 今の瑛太君何やっても空回っちゃうよ。私瑛太君の力になりたいって言ったでしょ。ね、だからお願い?」
伶奈は絶対譲らないという顔をしている。 それは俺が伶奈を利用すると同じ事で俺には今更そんな事出来ないと言っても伶奈は私ならいいからと押し切られてしまった。




